お知らせ

2024年 学長年頭挨拶

1.はじめに

 まず挨拶の前に、元日に起った能登半島地震で犠牲になられた方々へ、哀悼の意を捧げたいと思います。また、ご家族と関係者の皆様に心からお悔やみとお見舞いを申し上げるとともに、一日も早く安寧な日々が戻るよう、皆さんと一緒に願いたいと思います。

 それでは改めまして、新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 2024年の新春にあたりご挨拶を申し上げます。

 年頭挨拶でお示しするスライドの表紙は、いつもと感じを変えてみました。時代の流れ、そして大学自身を考えても、琉球大学は変わっていかないといけない。その時に大事なのは何か。今年は建物・キャンパスも大きく変わるのですが、一番大事なのはやはり人だと思います。人のつながりとマインド、そして組織の変化が大事との考えから、人の写真にしました。

 一番上の写真は、継続的に行っている新任教員と学長との懇談会の一コマです。二番目は、大学院学生と懇談した際に撮った写真です。一番下は、この10月1日付で本学に採用になった事務系・技術系の職員の皆さんに辞令を交付した日の夕刻、本部棟入口でパッタリ出会ったので撮った写真です。若いセンスで頑張ってくれそうな面々で、こういう皆さんと一緒に、琉大がどんどん変わっていくんだということを示したかった次第です。

 さて本日はまず、昨年皆さんと一緒に行った主な取組をまず振り返ります。時間が限られているので、多くの良い取組がある中でその一部しか取り上げられないのは残念ですが、ご了承ください。続いて今年の主な取組についてお話しし、最後に私たちは変わらなければならないということを少し論じてみたいと思います。

2.昨年の主な取組み

総合技術部の創設 最初に取り上げるのは、10月1日の総合技術部の創設です。全学のさまざまな部署で働いている約80名の技術系の職員が組織的にまとまりました。スライドは辞令交付式の際に撮った写真ですが、多くの同僚が初めて顔を合わせる機会になり、壮観でした。やはり元気が出ます。これからは時折このように集まる機会を設けていただいたらいいなと思っています。

 種々の技術は新しくなっていきます。協力し合い、励まし合って、どんどんとスキルアップしていくことは個人の成長ややりがいの向上につながり、組織・大学としてもプラスになります。今までやっていただいていたこともしっかり継続しながら、それぞれさらに力をつけ、また大学の様々な活動に貢献していただくということの第一歩が踏み出せました。これからに大いに期待しています。
 この総合技術部設立は、理念的に考えたというだけではなくて、文部科学省のコアファシリティプログラムに採択され、これを動かしていく中で実現できたことです。種々の募集にしっかり応募して獲得していくということが大事だということを、皆さんとも共有できればと思います。

琉大トランスフォーメーション(RX)の推進 非常に力を入れたのはRXの取組です。一昨年に学長メッセージを出して全力でやっていこうということで、推進本部を立ち上げて継続的に進めています。スライドには、114件の取組で大きな成果と記していますが、取組は数百あります。昨年度で一応完結したというものが114件ということです。

 

 その中から特に優れていると判断されたものを表彰しました。この写真はその表彰式の時のものです。表彰というのはお互いに嬉しいですが、お互いの成果を交流し合う機会をもつというのが、この式の重要な目的でした。上原キャンパスの病院・医学部を含む多くの部局の方が集まりました。普段ほとんど会わないメンバーが、こういう形で顔を合わせて交流できて良かったです。RXの取組はさらに強化していきたいと思っています。

国際交流・地域貢献など: 昨年は、国際交流や地域貢献でもいろいろな活動ができました。南米の4つの国の沖縄県人会と連携協力に係る覚書を結んでいますが、その皆さんの要請に基づき、奨学支援制度を創設することができました。
 また、ハワイのマウイ島の大規模火災で被災された沖縄県系をはじめとする皆さんへの支援とお見舞いを、直接先方にお渡しして喜んでいただきました。本学の誕生にはハワイの県系の皆さんにたいへんお世話になった経緯もあり、本学とハワイとの繋がりは強いものがありますが、これをさらに強める活動ができたと思います。

 地域貢献面では「琉ラボ」の開設が挙げられます。北口近くの地域創生総合研究棟の一階を、COI-NEXTから派生したプロジェクトで資金を得て改修できました。今までの大学には無かった雰囲気ですねと多くの方に誉めていただける場です。施設運営部にも力を発揮していただいて、いい形にできたと思います。集う人々が触発し合いながらアイデアを育めるこういう場を、学内のあちこちに広げていければと思います。

教育・学生支援など: 教育や学生支援に関しても、国際的なサマープログラムの開催や、生成AI利用に関するガイドラインの策定などに取り組みました。また、LGBTQの相談窓口を新たに設置しましたが、これは国立大学の中でも先陣を切る取組のひとつになったかと思います。SDGsの活動も広がっており、客観的評価もしっかりと得られつつあります。

文部科学省補助事業等の採択: 昨年は、文部科学省の補助事業等の採択も色々とありました。世界展開力強化事業について、これまで受けていたものが終わったところですが、すぐに次のプロジェクトの採択を得ることができました。ハワイおよび台湾と連携して展開していくというものです。
 国立大学経営改革促進事業も採択になり、DX(本学のRX)を学内そして地域に展開していくというプロジェクトを勢いよく進めることができるようになりました。
 また、植田臨床研究教育管理センター長が事業代表者を務める「安全な処方のためのシミュレーション教育」と「患者と研究者の負担を軽減する臨床研究専門職の確保とDCT推進」の2プロジェクトも採択されました。医学教育および臨床研究でのさらなる展開が楽しみです。

各種評価の受審等: 昨年は各種評価の受審の年でした。まず、大学機関別認証評価を受けました。また、学外の有識者による外部評価委員会(学内のみ)を立ち上げて、外部評価もいただきました。

学内環境の整備等: 学内環境の整備では、Wi-Fi環境の拡充、工学部等の改修などを行いました。クラウドファンディングの目標達成や、種々の事務部業務の電子化を主軸とする見直し・改善等も進めることができました。

医学部と病院の移転に向けた整備等: 医学部と病院の移転に向けた整備については、この数年にわたって大きな力を入れて取り組んできました。そして昨年には、学外の多くの方々の多大なるご支援・ご協力、そして学内の関係する皆さんの奮闘によって、なんとか計画通り進める段取りを付けるところにまで漕ぎつけることができました。

3.今年の主な取組

RXのさらなる推進: さて今年ですが、最初にも申したように、RXをさらに推進したいと考えています。RXを基盤としたプロジェクトが国立大学経営改革促進事業で採択されましたので、より勢いを付けることができると思います。
 それによって、さまざまな仕事をより合理的にして働き方を改善し、その上でさらに新しい事柄に取り組むというポジティブサイクルへの工夫をぜひ進めていければと思います。これらの活動を駆動するため、RX推進本部のステアリングミーティングは隔週で実施して尽力しており、RX推進室も非常に頑張っています。

令和6年度の移転事業の完遂 今年の重要な取組は、なんといっても令和6年度中に医学部と病院の移転事業を完遂することです。今年の6月頃には病院の建物がほぼ出来上がり、来年の今頃に開院を予定しています。そして、その数か月後の4月1日には、医学部も新キャンパスで活動を開始します。これらの完遂にはまだまだ大きな力が要ります。全学を挙げてやっていきたいので、よろしくお願いしたいと思います。
 もちろん移転の先には、県内外から喜ばれる立派な沖縄健康医療拠点を立ち上げて、さらに活動を展開するという重要な仕事があります。そこまでしっかり展望して進めていければと思います。

大型地域貢献プロジェクトの推進: さらに、科学技術振興機構の地域貢献型の大型事業であるCOI-NEXTプロジェクト群の推進です。一昨年、本格型に採択された竹村理学部教授をプロジェクトリーダーとするプロジェクト「資源循環型共生社会実現に向けた農水一体型サステイナブル陸上養殖のグローバル拠点」が活発に活動しています。それを追う形で、現在、平良農学部教授をプロジェクトリーダーとする育成型プロジェクト「フード・トランスフォーメーションが結ぶ環境・観光アイランド実現拠点」が頑張っています。
 これら2つのCOI-NEXTプロジェクトは、地域の企業や自治体はもとより、日本各地の企業や研究機関・大学等ともきわめて強く連携して取組を始めており、本学に新たな経験と知恵をもたらし変革を促すものです。さらに大きく展開することを期待してサポートしていきたいと思います。

4.「赤の女王仮説」: 私たちの今を考える

 さて、お示ししているスライドの絵、子どもの時に見たなという方おられますか。ルイス・キャロルには『不思議の国のアリス』の次に『鏡の国のアリス』という作品があって、この絵はそれに出てくる挿絵です。アリスの手を取って、ものすごいスピードで前を走っているのが赤の女王です。私が専門としている進化学の世界ではよく知られた「赤の女王仮説」というものがあります。

 アリスが鏡の国に入り込んでこの女王に会って、猛烈なスピードで走らされた。全力で走ったのに、先ほどと同じところにいる。女王が言うには、ここでは、その場に留まるためには全力で走り続けなければならない。これは、進化学の観点からするときわめて示唆的な話で、私たちもその一員であるこの生物世界そのものを表現しているように見えます。周りの物理環境、化学環境は変化しますし、周りの生物も進化し続けています。そんな中で、自分だけが同じところに留まっているというわけにはいかない、というわけです。

 この見方は、変化する社会の中での大学にも当てはまりそうです。社会は猛烈なスピードで変化していますから。

 2021年の新年の挨拶で、私は松尾芭蕉の「不易流行」という言葉を紹介しました。「不易=本質的なところは変わらない」ということと、「流行=変化する時代に応じて変わる」ということの両方がないと、俳諧は成り立たないということを表現した言葉だと理解されます。この言葉は今の我々の大学にも当てはまると考えて紹介したのですが、本日は、これを別の言い方、進化の世界の表現で表すと「赤の女王仮説」が当てはまるのではないかと言いたいのです。

 大学の重要な役割である研究、高等教育、そして大学らしい地域貢献・社会貢献は社会にとって不可欠です。これをしっかり続けようとすれば、大学自身が変わっていかないといけないということです。これは、人口動態が重要な基盤にある社会の動向、日本経済の今後を考えれば明白です。

5.しめくくりに

 最後のスライドの左は、1980年の千原キャンパス(上側)と上原キャンパス(下側)の状態を示す航空写真です。私が最初に着任した時です。

 農学部棟と工学部棟があり、理学部棟と共通教育棟の一部がやっとできただけの状況で、本部棟も図書館も球陽橋もありません。上原キャンパスには医学部・病院はまだ影も形もなく、整地が始まりつつあるというところですね。当時はまだ名前が無かった「千原池」周辺以外には、緑は全くありません。私が琉球大学で仕事を始めた時、両キャンパスはこんな状態でした。

 右上が最近の千原キャンパスの状況です。色々な建物もできており、緑も茂っています。キャンパスは変わり続けていることが分かります。

 そして大事なのは「人」。人の考え方・マインド・組織も変わっていかないといけない。右下は、最初にもお話しした総合技術部という組織が昨秋に新しく生まれたことを示す写真で、人に関わる変化も進んでいることを示したかった次第です。

 私たち自身が変わることによって、地域にとって頼りがいのある大学にさらに変化・成長していきましょうというのが、今日の私のしめくくりのメッセージです。

 今年もいい年でありますように。

2024年(令和6年)1月9日
琉球大学長 西田 睦

 

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