はじめに

 2022 年、明けましておめでとうございます。
 昨年は一昨年に続き、全学をあげて新型コロナウイルス感染拡大防止を図りつつ、大学としての活動を最大限遂行することに努め、何とかそれを完遂した1年でした。本学構成員の皆さま、そして地域の方々をはじめとする関係者の皆さまに、多大な努力、ご協力、あるいはご支援をいただきました。皆さまに深く感謝申し上げます。ご努力、ご協力、ご支援いただいた内容全てを挙げることはかないませんが、この場をお借りしてできるだけお伝えしたいと思います。
 一方で、これから入試や卒業式・入学式といった重大イベントを控える今、人流の増加や感染力がより強いと言われるオミクロン株への置き換わりなどにより、新型コロナウイルスの新規陽性者が急速に増えつつあることに大変強い危機感を覚えます。これまで陽性者数の減少により緩和されてきた国や沖縄県の対処方針も、再び強化される方向に舵が切られています。本学においても危機対策本部から必要な注意喚起を行ってまいりますが、いずれにしても、マスクの着用、手指消毒、密の回避、換気などの基本的な対策は重要ですので、皆さまにおかれましては改めてこの重要性を認識いただき、実施いただくようお願いいたします。


1.大学全体の動き

 まず、本年4月から6年間の新たな中期目標期間が始まる年の年頭にあたり、昨年を振り返るとともに、今後とくに重要と考えられる事柄について述べたいと思います。
昨年は、第3期中期目標期間における4年目終了時点の評価結果が6月に公表されました。第3期中期目標・中期計画は2016年度から2021年度までの6年間の目標・計画になりますが、昨年公表された評価結果は、このうち2019年度までの4年分に対する評価になります。本学は、6段階の評定のうち1つの項目で最高評価の「特筆」、3つの項目でそれに次ぐ「計画以上の進捗」、残りの4つの項目もそれに次ぐ「順調」という評価を得ました。
 また、2020年度に係る業務の実績に関する評価結果も示され、全ての項目で「順調」と評価されました。注目される事項としては「研究推進機構及び地域連携推進機構の組織見直しと強化施策」及び「性の多様性を尊重する社会を実現するための条例案作成」が挙げられ、前者は写真入りで紹介されました。さらに、病院関係の教育・研究面では「地域医療を支える多様な医療人の養成」、「成人T細胞白血病・リンパ腫の新規診断法の開発」、「新型コロナウイルス感染症関連の研究に関する取組」が、そして診療面及び運営面では「大学病院・特定機能病院としての新型コロナウイルス感染症への対応」が注目される事項に挙げられました。
 これらの評価結果は、本学構成員の尽力の成果であり、構成員各位に敬意を表したいと思います。また、これらの結果が第4期における運営費交付金の予算額に影響を与えるなど、今後の大学運営にとってプラスになるものと心強く思っております。
本年4月からスタートする第4期中期目標は、第3期中期目標とは異なり、基本的には各大学が、文部科学省から示された第4期中期目標期間における国立大学法人中期目標大綱の中から目標を選ぶ方式となりました。
 すでに本学では、新たな目標・計画の策定にあたり、開学100周年である2050年を見据えた長期ビジョンを策定しておりましたが、このビジョンに基づき、SDGs の目標年度である2030年などを視野に入れた中期的なビジョンを明確にする必要がありました。このため、まずは本学として目指すべき「中期将来ビジョン」を策定した上で、このビジョンを基に、中期目標大綱等に沿う形で「第4期中期目標・中期計画」の素案を策定しました。
 中期将来ビジョンでは、2030年を見据えた34の「ビジョン」を明らかにするとともに、そのビジョンの実現に向け、2025年までに取り組むべき110の「アクションプラン」が示されています。
 一方、第4期中期目標・中期計画では、本学の特色・強みに基づいて12の項目を選び、それに独自の1項目を加えた13の中期目標を掲げることとし、そのもとに21の中期計画を策定して文部科学省に素案として提出しているところです。国立大学法人法において、中期目標は文部科学大臣が定め、中期計画は国立大学法人等が作成するものとされておりますので、本学が提出した素案が認められれば、その目標や計画の達成に向けた第4期の法人運営がスタートすることになります。
 なお、国立大学法人法の改正に伴い、年度ごとに行われていた文部科学省の国立大学法人評価委員会による評価が第4期からは無くなります。他方で、各大学における自己点検や評価結果の可視化については中期目標大綱において示されており、本学においても、中期将来ビジョンに対する自己点検・評価を毎年度実施し、これらの結果について公表することにいたします。第4期中期目標・中期計画を達成するためにも、力を合わせて活動を展開していければと思いますので、よろしくお願いいたします。
 また、強固なガバナンス体制を築くとともに、そのことを多様な関係者に明らかにするために、国立大学法人ガバナンス・コードが2020年3月に文部科学省・内閣府・国立大学協会の連名で策定されており、その適合状況を毎年度確認し、公表することになっています。本学においても、いくつかの経営に関する基本方針を新たに策定し、経営協議会及び監事による確認を経た上で、報告書をホームページに公表しました。


2.新型コロナウイルス感染症対応

 新型コロナウイルス感染症対応に関しては、2020年より、危機対策本部(新型コロナウイルス感染症対策)を軸に、役員等懇談会、教育研究評議会、企画経営戦略会議などの全学会議の場で定期的に情報交換等を重ねて実施してきました。また、各学部や機構をはじめ、関連部署における個別課題について慎重に検討のうえ実施してきました。そして何よりも、個々の教職員並びに学生の皆さまの工夫と努力で、厳しい状況を何とか乗り越えてきたのです。皆さまの努力に感謝いたします。
 本学において、新型コロナウイルス感染症対応の最前線に立ち続けているのは、何と言っても病院関係者の皆さまです。本院は、第一種及び第二種感染症指定医療機関であり、沖縄県からは重点医療機関の指定を受けており、帰国者・接触者相談センター(保健所)からの依頼で新型コロナウイルスの陽性患者を受け入れ、主に重症・中等症以上の患者の治療を行っております。さらに沖縄県からの要請を受け、県の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の委員や県のコロナ対策本部、クラスター発生病院への職員の派遣を行っております。今もなお第6波の只中で奮闘されている病院の皆さまに心から敬意を表します。
 昨年、卒業式・修了式及び入学式・大学院入学式を挙行するにあたり、保護者や在校生の皆さまなど、会場に入ることができない方々が式典の様子を確認できるよう、オンライン配信を行いました。また、思い切った決断でしたが、一昨年の2019年度入学生のための入学式を1年越しに実施しました。参加してくれた多くの学生の顔を見たときは、感無量でした。とくにこの学年の学生には辛い思いをさせていますが、引き続き、丁寧なフォローアップができればと思います。
 もう一つの大きな取り組みは、新型コロナワクチンの大学拠点接種(職域接種)の実施です。危機対策本部の下に職域接種推進室を設置し、数か月にわたり準備をし、8月から9月にかけて近隣大学の学生・教職員等を含む約4,800人に、ワクチンを接種することができました。本学の病院や医学部を中心とした全学の教職員による協力体制のみならず、接種会場として食堂を利用するなど琉球大学生活協同組合の協力を得ての実施となり、本学の底力を実感しました。
 大学入学共通テストや入学者選抜試験についても、たいへんな配慮と労力を投入しての実施となりました。多くの教職員の尽力と受験生の協力で無事実施できたことは、まだ記憶に強く残っているところですが、本年の入試実施にあたっても、状況の変化を見据えながら、対策に全力で知恵を絞る必要がありそうです。
 学生教育においては、一昨年に引き続き、多くの授業が遠隔で行われることとなりましたが、感染拡大が落ち着いた時期に、感染症対策を講じた上でのハイブリッド授業や対面授業も実施しました。今年度前学期の授業評価アンケート(共通教育等科目)においては、「総合的に判断してこの授業に満足している」の問いに対して、「強くそう思う」と「そう思う」と回答した学生は8割を超えており、先生方の労がかなり報われていると言えそうで、胸を撫でおろす思いです。しかしながら、新型コロナウイルス感染症への厳しい対応はまだまだ必要です。感染拡大の状況に応じた適切な防止対策をとりつつ、学修機会・環境を最大限確保するための取り組みを、学生と教員が協力して進めていただければと願っています。
 さらに、附属図書館などでも、コロナ対応の創意あふれる幾つもの取り組みがなされているということを述べておきたいと思います。


3.教育活動

 コロナ禍という状況にありながらも、教育面において新たな展開がありました。まずは、大学院教育の向上に向けての組織改革です。
 昨年、文部科学省から大学院地域共創研究科の設置について、了解が得られました。本研究科は、「現代の地域社会及びグローバル社会の直面する多様な課題を俯瞰的に理解し、地域が今日直面する課題を解決するための具体的な方法を、それぞれが立脚する専門的見地から究明し、その解決に向けて主体的に思考し行動できる実践力と高い研究倫理観を有する高度専門職業人を養成する。」ことを目的としています。本年4月の開設に向け、すでに入試が始まっていますが、募集人員を大きく上回る人数の学生が受験をしてくれています。本研究科の開設に向けて、多くの教職員が長年にわたり、丁寧に準備を進めてきましたが、この春には目的に共鳴してくれた意欲と能力のある大学院生が入学し、活発な教育研究活動が開始されるものと大いに期待しています。
 また、理工学研究科博士前期課程(工学系)を1専攻8プログラムへ改組し、学部からスムーズに接続される6年一貫の教育体制を完成させ、昨年4月より活動を開始しました。
 学部教育では、力を入れてきた「データサイエンティスト養成履修カリキュラム」が、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に昨年認定されました。さらに大きく展開できるよう、大学としても強力に支援していきます。
 力を入れている教育のグローバル化については、コロナ禍で交換留学や海外研修の延期や中止などの対応をせざるを得ず、苦しいところです。しかしその中でも、太平洋島嶼地域留学生受入支援事業について、国内在住の太平洋島嶼地域出身者を受け入れ、対面でのプログラムを実施するなど、工夫を凝らしながら活動が進められています。さらに、対面による国際交流に代わるICTを活用した多様な学修機会を確保することを目的に、オンラインを活用して海外機関のプログラムに参加できるオンライン留学を実施しました。英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、中国語の5言語で開催しましたが、約2週間のプログラムに総勢47名が参加し、現地教員による授業に加え、現地学生とのオンライン上での交流など、充実した内容を経験できたものと思います。
 一方、世界展開力強化事業については、幸いCOILを活用した教育プログラム(派遣・受入共同プログラム)の実施が主軸になっているため、活発な活動を展開できています。その成果もあり、文部科学省の「大学の国際化促進フォーラム形成支援」事業に、本学がCOILを活用した持続的グローカル・イノベーション人材育成プロジェクトの幹事校として選定されるという快挙がありました。
 教育環境の整備としては、昨年決定した「ノートパソコン等の必携化基本方針」に基づき、種々準備をしてきましたが、本年より本格的に実施していくことになります。社会からは、新入社員におけるパソコン駆使能力が低いことについての懸念が聞こえており、そうした声に応えるためにも、本学の「デジタル・キャンパス」推進とも連動して展開したいと考えています。


4.研究活動

 昨年も優れた研究成果が数多く公表されました。それらの幾つかの解説は、本学のWEBページでも紹介しています。WEBページへの掲載数が一昨年の21本に対し、昨年は45本と倍以上の件数となっています。この増加は、研究広報活動が強化されていることの表れでもありますが、研究活動がより活発になっていることの反映であるならば、たいへん嬉しいことです。
 また、特色ある研究を進めるプロジェクトが順調に進展しています。JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の育成型に採択された「資源循環型共生社会実現に向けた農水一体型サステイナブル陸上養殖プロジェクト」は、県内外の大学、企業、行政、研究機関の27機関の賛同を得て「農水一体型サステイナブル陸上養殖共創コンソーシアム」をスタートさせ、新たに「本格型」に挑戦しようとしています。
 さらに、文部科学省等によるプログラムの採択も続いています。文部科学省「海洋資源利用促進技術開発プログラム 海洋生物ビッグデータ活用技術高度化」事業(理学部)、日本医療研究開発機構(AMED) 臨床研究・治験推進研究事業「病院外療養患者に対応可能なハイブリッド型バーチャル試験の手法を取り入れたCOVID-19患者におけるコルヒチン第3相試験プロトコルコンセプト作成」(医学研究科)、文部科学省「日本型教育の海外展開(EDU-Portニッポン)公衆衛生教育等の海外展開に関する調査研究」(医学部)などです。学内の研究プログラムである「首里城再興学術ネットワーク」や「ポストコロナ社会実現研究プロジェクト」によるユニークな研究も始まっています。
 他にも、文部科学省の「先端研究基盤共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)」にも採択されました。これを契機に、研究基盤を戦略的に導入・更新・共用する仕組みの強化・促進が進むものと期待しています。


5.社会貢献等の活動

 昨年は、地域社会の多くの組織と連携協定を結ぶことができました。これらの協定は、産学連携活動や研究成果の地域社会への還元を通じて、持続可能な発展の実現に貢献することを目的としています。沖縄ガスとの「持続可能な発展に向けた産学連携に係る協定」、沖縄電力との「脱炭素社会の実現に向けた産学連携に係る協定」、沖縄県や環境省沖縄奄美自然環境事務所などとの「沖縄島北部及び西表島の世界自然遺産登録地における保全管理等のための連携と協力に関する協定」などです。今後は、これらの協定に基づき、多様な活動展開ができればと考えています。
 昨年はまた、製薬企業へのヒト組織提供を通じて難病に対する再生医療等製品の開発の加速を目指し、日本初の「琉球大学産業利用倫理審査委員会」を設置し、琉球大学病院(琉球大学病院みらいバンク)と企業が協働してプロジェクトを推進できる体制を整え、実際の運用も始まりました。これも今後が楽しみです。
 SDGs推進についても、SDGs推進室の下に設置している4つのワーキング・グループ(教育、研究、社会貢献、業務・ガバナンス)が中心となり、多くの組織や人々と連携してさまざまな取り組みを進めています。琉大病院周産母子センターと連携した若年出産女性の出産・子育てを応援するシェルター「おにわ」の開設なども、特筆すべきものです。カーボンニュートラルに向けても、足元を見つめつつ、大学らしい取組、貢献を進めていければと思います。


6.活動の強化と発展を支える体制整備

 西普天間地区への医学部及び病院のキャンパス移転に向けた取り組みとしては、予定していた全ての土地の取得が完了し、病院の建設工事に着手しており、医学部関係施設についても、実施設計に着手し順調に進捗しております。まだまだやるべきことは多いですが、「沖縄健康医療拠点構想」の実現に向けて、努力を続けていきたいと思います。
 また昨年は、工学部で初の女性教授が誕生するなど、全学で5名の女性教授が誕生しました。これは、一昨年度に病院で初の女性教授が誕生したことに続く朗報であり、多様性の高いキャンパス実現に向けた大きな一歩だと考えております。引き続き、女性や外国人などが活躍できるキャンパス、またハラスメントをしない・させないキャンパスに向けての歩みを促進したいと思います。
 これから特に力を入れて全学的に展開したいのは、「デジタル・キャンパス」に向けた取り組みです。昨年、総合情報処理センターを情報基盤統括センターに改組しましたが、この機能強化をさらに推し進めます。千原キャンパス情報ネットワークの更新については、補正予算で措置されましたので、「デジタル・キャンパス」に向けて勢いよく前進できるものと確信しています。また、西普天間キャンパス移転後の情報ネットワーク整備についても具体的に検討を進めなくてはいけません。
 千原キャンパスにおける老朽施設・ライフラインの改善は引き続き重要な課題です。2019年度より開始された農学部校舎本館棟の大規模改修事業は本年度に完了予定となっております。また、本年度は工学部校舎の大規模改修事業の1期目に着手し、来年度事業として要求していた2期目も今年度の補正予算で措置されましたので、今後も引き続き計画的に改修を進めることになります。また、学生寮の再生整備等も計画通り進めていきます。


おわりに

 時代の変化はますます速くなり、先の見通しがますます立てにくくなっています。このような時代において、社会の大学に対する期待はますます大きくなっていると考えています。新型コロナウイルスへの対応が重要となる状況は当分続くと思われますが、本学に対する期待に応えるためには、コロナ対策をしっかりと継続しつつ、本学が長期ビジョンとして掲げる「地域とともに豊かな未来社会をデザインする大学」、「アジア・太平洋地域の卓越した教育研究拠点となる大学」への歩みを強めていく必要があります。
 一方、コロナ対応の過程でICT活用の流れが加速されました。この流れを、キャンパスのDXにしっかりと繋げていこうと取り組んでいます。そして、この取り組みをぜひ働き方改革にも連動するように進めたいと考えています。
 いまや、全地球的な気候変動を食い止めるべく、二酸化炭素排出削減をいかに進めるか、ウェルビーイングを重視して経済的な格差拡大をどう解消するのかなど、難しい問題が目白押しの時代です。しかしながら、このような時代に立ち向かっていく、自ら考えて行動できる人材を育成することは、現代の大学にとってやりがいのある、きわめて大事な責務であると考えています。本学がこの役割をしっかり果たしていけるよう、構成員の皆さまと一緒に頑張っていきたいと思います。

 本年が皆さまにとって幸多き年になることを、心よりお祈り申し上げます。

2022年(令和4年)1月11日
琉球大学学長  西田 睦

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