研究成果

絶滅したオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―

概要

 京都大学西川完途 地球環境学堂教授、松井正文 京都大学名誉教授を含む、国立科学博物館、琉球大学(教育学部 富永篤教授)、北九州市立いのちのたび博物館などの研究グループは、中国で絶滅したと考えられていたオオサンショウウオの一種が、日本国内の動物園と水族館で1頭ずつ飼育されていることを発見しました。現在、西日本の数地点で中国から持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオが日本の在来オオサンショウウオと交雑個体群を形成して問題になっていますが、その過去に持ち込まれた外来種の中に野外絶滅した種が含まれていました。この発見された個体は、絶滅種の復活のための救世主になる可能性があります。
 本研究成果は、外来種という、持ち込まれた国や地域でいわば厄介者として扱われている種が、世界的な種多様性の保全に貢献することがあるという事例の一つであるとともに、グローバル化が生物多様性の保全事業に様々な影響を与えることを示しています。
 本研究の論文は、科学誌Scientific Reports誌に2024年1月31日に掲載されました。


日本で生きていたスライゴオオサンショウウオ。上はサンシャイン水族館(東京・池袋)で飼育されている雄で(写真:吉川夏彦 提供)、下は広島市安佐動物公園で飼育されている雄(写真:広島市安佐動物公園 提供)。

<背景>

 日本では中国産のチュウゴクオオサンショウウオが1960年代以降に持ち込まれ、飼育施設から逃げ出したり、おそらく野外の河川に放されたりしたことで、在来種である日本の特別天然記念物オオサンショウウオと交雑しており、各地で文化財保全および生物多様性保全の観点から問題になっています。しかし最初に日本の河川に放された遺伝的に純粋なチュウゴクオオサンショウウオも、実は本来の生息地である中国では絶滅の危機に瀕しています。さらに近年チュウゴクオオサンショウウオは複数種に分割され、一部の種は絶滅または絶滅の恐れが非常に高くなっています。

<研究手法・成果>

 本研究では交雑オオサンショウウオのスクリーニングをする目的で京都市の鴨川のサンプルと、比較のために三重県と奈良県の日本のオオサンショウウオ、さらに徳島県の河川で捕獲されたものと動物園、水族館、個人宅で飼育されていたチュウゴクオオサンショウウオの遺伝子型を、ミトコンドリアDNAと核DNAのマイクロサテライト領域について調査しました。その結果、45個体の交雑個体と、28個体の広義のチュウゴクオオサンショウウオが見つかりました。そして、その後者の中に中国では野外絶滅したとされていたスライゴオオサンショウウオ4個体が見つかりました。

 今回得られた系統樹. ミトコンドリアDNAの塩基配列情報で描かれたもの。赤字が今回分析されたサンプルで、日本国内で採集された個体。4個体がスライゴオオサンショウウオと同じ遺伝子群に含まれていることがわかる。この系統樹は母系遺伝(母親からしか遺伝しない)するミトコンドリアDNAで得られたものであり、交雑個体は判定できないことに注意(赤字のサンプルに実際は交雑個体が含まれているが、この系統樹ではいずれかの種に振り分けられている)。
 残念ながら4個体のうち、現在も生存しているのは2個体でした。次に性別を調べましたが、オオサンショウウオは繁殖期以外では性別の判定が見た目では難しいため、雌の性染色体の一部領域を増幅するプライマーを用いたPCR法で鑑定しました。その結果、増幅が見られないために2個体とも雄と判断されました。
 実はスライゴオオサンショウウオは、かつて新種とされながら、後の研究でチュウゴクオオサンショウウオの同物異名とされていたものが、2019年に復活して再び独立種になったものです。原記載の時に調査されたのは1個体の標本(死んで標本にされたもの)のみ、さらに復活時には野外の個体群は絶滅しており、生きた個体の体色や形態が観察されたのは初めてのことです。今回の研究の結果、原記載論文での調査にミスのある可能性なども明らかになり、分類に関する研究が進展しました。

<波及効果、今後の予定>

 オオサンショウウオの仲間の中でも、最も大きくなるスライゴオオサンショウウオは、世界最大の両生類です。そして元の生息地では絶滅した種でもあり、できれば個体群を復活させて、今度は絶滅しないよう保護したいものです。
 問題は、現在は雄しか生存していないことですが、死んでしまった雌の細胞組織を冷凍保存していることが分かりました。そこで国立環境学研究所の 大沼 学 研究員 に依頼して、現在生きている雄個体の生殖細胞の凍結保存に加えて、死んでしまった雌の細胞組織を用いたクローン個体の復活と、その個体を用いた人工繁殖を計画しています。
 また、狭義のチュウゴクオオサンショウウオも貴重な種です。日本で見つかり動物園や水族館で飼育されているそれら個体を、イギリスの動物園に集約して系統ごとに人工繁殖をさせられないか、そして将来的に野外導入できないかという計画も出てきています。

<研究プロジェクトについて>

 本研究の一部は、河川整備基金助成事業の支援を受けて行われました。

<研究者のコメント>

 外来種問題は、解決が非常に難しく、科学的な正解がありません。外来種は悪にも正義にもなります。今回の発見は、そのような外来種問題の難しさを顕著に表している事例といえるでしょう。このニュースを機会に、外来種について考えるきっかけを提供できれば幸甚です。

<論文タイトルと著者>
  1. タイトル:Discovery of ex-situ individuals of Andrias sligoi, an extremely endangered species and one of the largest amphibians worldwide(世界最大の両生類にして極めて絶滅の恐れが高いスライゴオオサンショウウオを生息域外で発見)
  2. 著  者:Nishikawa, K., M. Matsui, N. Yoshikawa, A. Tominaga, K. Eto, I. Fukuyama, K. Fukutani, K. Matsubara, Y. Hattori, S. Iwato, T. Sato, Z. Shimizu, H. Onuma, and S. Hara
  3. 掲 載 誌:Scientific Reports誌 DOI:10.1038/s41598-024-52907-6
<関連情報>

今回の論文の著者の多くが在籍または卒業した研究室:
人間・環境学研究科西川研究室:https://nishikawalab.h.kyoto-u.ac.jp/
日本爬虫両棲類学会HP:http://herpetology.jp/index_j.php
国立環境学研究所 大沼 学 研究員:https://www.nies.go.jp/researchers/201174.html

<今後>

 オオサンショウウオの仲間の中でも、最も大きくなるスライゴオオサンショウウオは、世界最大の両生類です。そして元の生息地では絶滅した種でもあり、できれば個体群を復活させて、今度は絶滅しないよう保護したいものです。
 問題は、現在は雄しか生存していないことですが、死んでしまった雌の細胞組織を冷凍保存していることが分かりました。そこで国立環境学研究所の 大沼 学 研究員 に依頼して、現在生きている雄個体の生殖細胞の凍結保存に加えて、死んでしまった雌の細胞組織を用いたクローン個体の復活と、その個体を用いた人工繁殖を計画しています。
 また、狭義のチュウゴクオオサンショウウオも貴重な種です。日本で見つかり動物園や水族館で飼育されているそれら個体を、イギリスの動物園に集約して系統ごとに人工繁殖をさせられないか、そして将来的に野外導入できないかという計画も出てきています。