琉球大学理工学研究科博士後期課程1年の中島広喜氏と、同大学のJames Davis Reimer 准教授、成瀬貫 准教授の3名が琉球列島からシャコ類の新種2種を発見しました。
この研究成果は、2023年2月1日に国際学術雑誌Zootaxa誌に公表されました。
<発表概要>
琉球大学理工学研究科博士後期課程1年の中島広喜氏は、同大のJames Davis Reimer准教授および成瀬貫 准教授と共に、琉球列島から希少なシャコ類3種を発見し、うち2種類が新種であることを国際科学誌「Zootaxa」に公表しました。
研究背景
シャコ類は世界から約500種が知られている純海産甲殻類です。国内では食用種としてシャコOratosquilla oratoriaという1種が有名ですが、70種以上のシャコ類が国内から報告されています。さらに最近の著者らによる研究から、特に琉球列島においてはまだまだ未知のシャコ類が生息していることが分かってきています。その筆頭として、今回の3種が含まれているヒメシャコ科Nannosquillidaeという分類群が挙げられます。これらの種は全長20~90 mmの比較的小型の分類群で、砂泥底に深い巣穴を掘って生息しています。こういった要因から発見・採集が難しい分類群であるためか、特に調査が及んでいない分類群でした。
そこで筆者らは西表島や沖縄島などにおいて、ヒメシャコ科シャコ類を対象に調査を行いました。これらの調査では、干潟や水深20 m程度までの砂地で巣穴を探し、見つけた巣穴の入口からヤビーポンプ(手動の吸引ポンプ)でシャコ類を吸引して採集しました(図1)。なお、これらの研究は筆頭著者の中島氏の修士研究の一環として行いました。
図1.銀色の筒状のものがヤビーポンプ。写真は吸い上げたものをザルで濾しているところ。
研究成果
調査の結果、トゲヒメトラフシャコAcanthosquilla derijardi Manning, 1970という種と、それによく似ている複数の標本を採集することができました。これらの外部形態の特徴やDNA配列(ミトコンドリアや核の部分配列)を比較検討した結果、トゲヒメトラフシャコに加え、異なる2種が含まれていることを発見しました。あらためて文献情報を精査したところ、その2種はこれまで知られているトラフヒメシャコ属Acanthosquilla Manning, 1963の8種の全てと明確に異なり、未記載種(学名のつけられていない種)であることがわかりました。そこで、新種としてリュウキュウトゲヒメトラフシャコAcanthosquilla ryukyuensis 、スズキトゲヒメトラフシャコAcanthosquilla shoheiiという和名・学名を2種にそれぞれ与えました。なお、これらの標本は琉球大学博物館(風樹館)に保管されています。論文で扱った3種の詳細は以下の通りです。
トゲヒメトラフシャコ Acanthosquilla derijardi Manning, 1970(図2A)
発見場所:西表島、鳩間島、久米島、沖縄島、加計呂麻島、奄美大島。
備考:得られた標本の全長は最大で60 mmほどでした。マダガスカルからニューカレドニアまで広い範囲から記録のある種です。これまでに国内から記録があることになっていましたが、実は分布の証拠となる標本を示した文献は確認されていませんでした。今回の研究では国内から得られた標本に基づく確実な記録を残すとともに、成長変異なども加味した詳細な形態学的情報と、それと結びついたDNAデータも揃えることができました。
図2.トラフヒメシャコ属3種。A:トゲヒメトラフシャコ、
B:リュウキュウトゲヒメトラフシャコ、C:スズキトゲヒメトラフシャコ。スケールは全て5 mm。①~③が額板、④~⑥が尾節の模式図。
リュウキュウトゲヒメトラフシャコ Acanthosquilla ryukyuensis Nakajima, Reimer & Naruse, 2023(図2B)
発見場所:西表島、沖縄島、野甫島、枝手久島(奄美大島の近隣)。
備考:全長は最大で70 mmほどでした。沖縄島恩納村の干潟から初めて発見したときに、これは未記載種だと直感し、胸が高鳴ったのを憶えています。トゲヒメトラフシャコに似ていますが、頭部にある額板の形状が角ばっていることや(図2②)、尾節の側棘が二又状(図2⑤)になることなどから見分けることができます。学名と和名は、今回の標本が琉球列島で採集できたことに由来します。文献情報を再検討したところ、オーストラリアにも分布している可能性があることがわかっています。
スズキトゲヒメトラフシャコ Acanthosquilla shoheii Nakajima, Reimer & Naruse, 2023(図2C)
発見場所:西表島、鳩間島、沖縄島、野甫島、伊平屋島、奄美大島。
備考:全長は最大で50 mmほどでした。額板(図2③)の形状が角ばっていることでリュウキュウトゲヒメトラフシャコにも似ていますが、尾節の模様(図2⑥)が異なることなどから他の種と見分けられます。
この種は私が鈴木祥平(琉球大学同窓生)海洋生物研究助成による支援を受けて行った西表島での野外調査(当時博士前期課程1年)が発見のきっかけとなっており、学名と和名は故 鈴木祥平氏や、ご援助を下さったご家族への献名です。
今後の展望
研究を進める中で、日本各地から今回と同じヒメシャコ科や別の分類群から未知のシャコ類が他にも多く発見されています。引き続きこれらの調査と、成果の公表(論文としての出版)を続けていくつもりです。また今後は特に海外の種との比較を進め、琉球列島付近のみならず、より広い範囲で研究を進めていきたいと考えています。
研究費
本研究の一部は鈴木祥平(琉球大学同窓生)海洋生物研究助成の支援を受けて実施されました。
<論文情報>
(1) タイトル:Morphological and phylogenetic study of Acanthosquilla Manning, 1963 (Stomatopoda: Nannosquillidae) mantis shrimps, with description of two new species from the Ryukyu Islands, Japan (琉球列島より発見された2新種の記載を伴うトラフヒメシャコ属Acanthosquilla Manning, 1963の形態学的・分子系統学研究)
(2) 雑誌名:Zootaxa
(3) 著者:Hiroki Nakajima (中島広喜)1, James Davis Reimer1,2 & Tohru Naruse (成瀬貫)1,3
(4) 所属:1琉球大学理工学研究科、2琉球大学熱帯生物圏研究センター、3琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設
(5) DOI:https://doi.org/10.11646/zootaxa.5231.4.1