研究成果

琉球列島と小笠原諸島から発見された、 北半球や日本初となるシャコ類(甲殻類)4種の報告 目標14:海の豊かさを守ろう

 琉球大学理工学研究科の中島広喜氏(博士前期課程2年)と、お茶の水女子大学湾岸生物教育研究センターの吉田隆太 特任助教、琉球大学熱帯生物圏研究センターの成瀬貫 准教授からなる共同研究グループが、琉球列島と小笠原諸島の沿岸海域から、4種の希少なシャコ類を発見・報告しました。この4種には本研究が北半球初記録となる種や、国内から新記録となる種等が含まれていました。
この研究成果は、2022年2月23日にPlankton and Benthos Research誌に公表されました。

<発表概要>
 琉球大学理工学研究科の中島広喜氏(博士前期課程2年)、お茶の水女子大学湾岸生物教育研究センターの吉田隆太 特任助教、琉球大学熱帯生物圏研究センターの成瀬貫 准教授らの共同研究グループが、琉球列島と小笠原諸島から希少なシャコ類4種を発見し、国際科学誌「Plankton and Benthos Research」に公表しました。

研究背景
 シャコ類は世界から約500種が知られている甲殻類で、主に熱帯から亜寒帯の浅海域にかけて、岩やサンゴなどの隙間や、海底に掘った巣穴に生息しています。強大に発達した第2顎脚(捕脚)がシャコ類の特徴で、この捕脚を高速で繰り出し、餌の貝などを割ることができる種や、魚類などを捕らえることができる種などが知られます。シャコ類は国内では食用種となる「シャコ」1種が有名ですが、実際は70種以上のシャコ類が日本から報告されています。しかし、海洋生物の種多様性が非常に高いことが知られる琉球列島の沿岸域でシャコ類を対象に行われた研究はほとんどなく、これまでに琉球列島からは30種程度しかシャコ類の記録がありません。したがって、琉球列島にどのようなシャコ類が分布しているのかは明らかになっていない部分が大きいと考えられます。そこで今回、西表島や沖縄島で現地調査を行うと共に、琉球大学博物館(風樹館)や国立科学博物館に収蔵されていた琉球列島や小笠原諸島の標本について調査し、シャコ類の種多様性について迫るための研究を行いました。



図1.ヤビーポンプを使用したシャコ類の採集(撮影 伊藤大輝)


図2.アデヤカフトユビシャコモドキ(全長 20.9 mm)。

研究成果
 今回検討した標本は、砂地に開いた穴からヤビーポンプ(海外で普及している、釣り餌となる甲殻類を採集するための手動のポンプ)で吸引したり(図1)、海底に溜まった死サンゴ礫の間隙などから直接採集しました。本研究で報告した4種の詳細は以下の通りです。

・アデヤカフトユビシャコモドキ(和名新称)(図2)
学名:Gonodactylaceus ternatensis (De Man, 1902)
今回の発見場所:西表島、石垣島、小笠原諸島母島。死サンゴの瓦礫間等から採集。
特色:これまで西インド洋からオーストラリア、東シナ海にかけて記録があった。今回が標本に基づく日本初記録となる。
和名:本種のオスは青色の尾肢を有するなど、鮮やかな色彩であることから和名をアデヤカフトユビシャコモドキとした。

・ノコバトラフシャコ(和名新称)(図3)
学名: Lysiosquilloides siamensis (Naiyanetr, 1980)
今回の発見場所:浜比嘉島(沖縄島東岸側に位置)の干潟。
特色:これまでにタイ、フィリピン、オーストラリア、ニューカレドニアのみで記録がある。本研究が本属種の日本初記録。発見時にタコ類に捕食されていた。
和名:尾節後縁に見られる鋸歯状の構造にちなみ、属の和名をノコバトラフシャコ属、種の和名をノコバトラフシャコとした。


図3.ノコバトラフシャコ。A:頭部背面観。B:前半身左側面観。
   C:尾肢・尾節背面観。D:発見時、タコ類に捕食されていた。

・ツブアリマシャコ(和名新称)(図4)
学名:Alimopsoides tuberculatus Moosa, 1991
今回の発見場所:沖縄島名護湾。
特色:1属1種。今まではオーストラリアとニューカレドニアのみから記録されていた。今回が北半球からの初記録となる。
和名:腹節や尾節の背面に特徴的な粒状の構造を有すため、属の和名をツブアリマシャコ属、種の和名をツブアリマシャコとした。

・チュラカクオシャコ(和名新称)(図5)
学名:Busquilla plantei Manning, 1978
今回の発見場所:西表島の2地点のみ。
特色:これまでにマダガスカルからオーストラリア、ハワイにかけての非常に広い範囲から記録がある。今回が日本初記録。
和名:尾肢や尾節の模様が非常に美しい種であることから、和名をチュラカクオシャコとした。

将来の展望
  以上の様に、琉球列島と小笠原諸島から4種の希少なシャコ類を発見できました。本結果は国内、特に琉球列島におけるシャコ類の種多様性の解明がまだまだ不十分であったことを示唆しています。沿岸環境の悪化を受け、こうした未知の種が人知れず消滅する事態を避けるためにも、シャコ類の種多様性やその分布を解明するための調査を続けるほか、他地域に生息する種との遺伝的な比較・検討も進めています。

<論文情報>
(1)タイトル:Records of four mantis shrimp species (Crustacea: Stomatopoda) from the Ryukyu and Ogasawara islands, Japan (琉球列島と小笠原諸島より発見された
       4種のシャコの記録) 
(2)雑誌名:Plankton and Benthos Research
(3)著者:Hiroki Nakajima (中島広喜)1, Ryuta Yoshida (吉田隆太)2 & Tohru Naruse (成瀬貫)1,3
(4)所属:1琉球大学理工学研究科、2お茶の水女子大学湾岸生物教育研究センター、3琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設
(5)DOI:https://doi.org/10.3800/pbr.17.34
(6)HP:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pbr/17/1/17_B170104/_article