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福井県立大学恐竜学部(元琉球大学理学部)の藤田和彦教授は、琉球大学・東京大学・名古屋大学・東北大学・九州大学・シドニー大学との国際共同研究により「今から約4~3万年前の地球全体の平均海面水位は現在を基準として約-101 メートルから-119 メートルであり、約3万5千年前から急激に低下していき、最後の氷河期の最盛期に突入したこと」を世界で初めて明らかにしました。この研究成果は現代の地球温暖化とは真逆の“地球寒冷化”の時期に海面水位がどのように低下し、氷床がどの程度発達したのかを知るうえで重要な成果であり、地球温暖化予測モデルの精度向上にもつながります。 この研究成果は地球惑星科学分野の著名な国際学術誌『Earth and Planetary Science Letters』に10月3日付でオンライン版に公開されました。 |
<研究の背景>
現代は地質学的には「第四紀」(注1)という時代です。第四紀は約258万年前から始まり、「氷期(氷河期)」とよばれる相対的に寒冷な時期と「間氷期」と呼ばれる相対的に温暖な時期とが約4万年や約10万年の周期で繰り返されてきました。現在は間氷期にあたります。氷期には地球上の高緯度地域で氷床や氷河が拡大し、その分だけ海水の量が減って海面水位が低下します。一方、間氷期には氷床や氷河が融解し、その分だけ海面水位が上昇します。このように気候の変動と地球上の氷の量と海面水位の高さには密接な関係があります。しかしながら、過去の氷床や氷河の発達規模や量については直接的な記録が限られるため、より詳細な記録が残されているサンゴ礁や深海底の堆積物に含まれる化石の化学分析値(酸素同位体比:注2)から過去の海面水位を復元し、そこから当時の氷床や氷河の量を復元する必要がありました。
最後の氷河期(最終氷期)は今から約11万年前から約2万年前の期間でした。特に今から3万年前から1万7千年前には氷床や氷河が最も発達した時期(最終氷期最盛期:注3)がありました。その前の5万7千年前から3万年前までの時期(海洋酸素同位体ステージ3:注4)は、どのように氷床や氷河が発達して最終氷期最盛期に突入したのかを明らかにするうえで重要な時期です。高緯度地域における当時の海岸線や氷床分布域に関する最近の研究では、約5~4万年前には氷床が少なく、海面水位が高く、その後急激に低下していくことが示されましたが、この見解は従来のサンゴ礁や深海底堆積物に基づく海面水位記録とは一致せず、議論されてきました。
<今回の研究成果>
藤田教授と共同研究者らは2010年にオーストラリアのグレートバリアリーフの沖合で実施された統合国際深海掘削計画(IODP:注5)第325次航海の参加メンバーでもあります。同航海で掘削された多数の柱状堆積物コア試料を研究に用いました。藤田教授らは特に、コア試料に含まれる有孔虫という殻をもつ単細胞生物(星砂の仲間)の化石に注目しました。有孔虫は殻がそのままの形で化石として残りやすく、形もさまざまで種類の違いを形から区別することができます。またサンゴ礁域に分布する有孔虫は光合成をする微小な藻類と共生しているため、水深に伴う光量や栄養塩濃度の変化に敏感で、種類により生息する水深が異なります。藤田教授らは、この有孔虫化石の種構成から当時の水深を復元し、有孔虫化石の放射性炭素年代測定(注6)により地層の年代を特定しました。これらのデータから統計学的手法により当時の相対的海面水位(地域的な海面水位の変化)を復元しました。さらに氷床量と海水量の分配の変化に伴う表面荷重変化(ハイドロアイソスタシー:注7)や堆積物の荷重による変化を補正して、地球全体の平均海面水位(全球平均海面水位、または汎世界的海面水位)を復元しました。
その結果、海洋酸素同位体ステージ3の後期から最終氷期最盛期にかけて(3万9千年前から1万8千年前まで)の全球平均海面水位の長期的な傾向が明らかになりました(図参照)。特に今から3万9千年前から3万年前にかけての連続的な全球平均海面水位記録は世界初であり、当時の全球平均海面水位は現在を基準として-101メートルから-119メートルまでの範囲にあったことが判明しました。この時期の全球平均海面水位は徐々に低下していく傾向を示しますが、特に約3万5千年前から2万8千年前までの約7千年間に低下の傾きが大きくなり、海面水位が約17メートル低下しました。このことは当時、北半球の高緯度を中心とした氷床の発達が加速したことを意味します。

図. 約4万年前から1万8千年前にかけての全球平均海面水位の変動史(単位:メートル)。濃い青色の線は全球平均海面水位を示す。青色の網掛けは95%信頼区間を示す。破線は、全球平均海面水位の変動史における5つの期間の境界を示す。LD:最終退氷期、LGM:最終氷期最盛期(最新研究に基づきLGM-aとLGM-bに区分)、MIS 3:海洋酸素同位体ステージ3。
<研究成果の意義>
本研究の成果は、現代の地球温暖化とは真逆の“地球寒冷化”が対象ですが、現代の地球温暖化と無関係ではありません。地球温暖化の将来を予測するためには、その予測モデルやシミュレーションの基礎データとなる過去の正確な観測値が必要です。気候が大きく変化する時期(海洋酸素同位体ステージ3)や気候の極限状態(最終氷期最盛期)をモデルがどの程度精度よく復元できるかを検証することにより、モデルの信頼度を高めることができるからです。
本研究成果は、福井県をはじめとする日本列島でも約4~3万年前に海面水位が少なくとも100~120メートルほど低下していたことを意味します。当時の福井県は今よりも陸地が日本海側へ広がっていました。また、この時期は人類が大陸から日本列島へ渡ってきた時期でもあり、全球平均海面水位の低下に伴う陸地の拡大と人類の移動との関連が注目されます。
さらに福井県の三方五湖の一つである水月湖の湖底には“世界標準のものさし”として重要な年縞堆積物が約7万年間分存在し、本研究で明らかにした約4~2万年前の時期の年縞も保存されています。年縞堆積物から明らかにされる当時の陸域の気候と本研究で明らかとなった当時の海洋の変化の記録とを比較することで、地球全体の気候変動・氷床変動・海洋変動の関連性や仕組みを理解することにつながります。
<用語説明>
注1)第四紀:最も新しい地質時代で、258.1万年前から現在までをいう。寒冷な「氷期(氷河期)」と温暖な「間氷期」が繰り返されることで特徴づけられる。過去数十万年間では氷期は比較的長く10万年ほど続くのに対して、間氷期は比較的短く1万年程度である。
注2)酸素同位体比:酸素には質量数が異なる同位体が存在し、存在率が高い酸素16(16O)と存在率が低い酸素18(18O)などが存在する。地球科学では酸素同位体比といえば、16O と18Oの比率(18O/16O)を指す。化石の殻の酸素同位体比は当時の海水の酸素同位体比や海水温などによって決まる。海水の酸素同位体比は、地球上の氷床量を反映する。深海底は海水温の変動が小さいため、深海堆積物中の化石の酸素同位体比から当時の海水の酸素同位体比が分かり、そこから当時の氷床量や全球平均海面水位が推定される。
注3)最終氷期最盛期:現代からさかのぼって最近の氷期の期間のうち最も寒く氷床が拡大した時期。最新の研究では約3~1.7万年前と定義される。地球表層気温は熱帯でも3 ℃以上下がり、北米や北欧に氷床が大規模に発達した。全球平均海面水位は2段階に低下し、約2万500年前に約125~130メートルまで低下した。
注4)海洋酸素同位体ステージ3:深海堆積物中の底生有孔虫化石殻の酸素同位体比の変動に基づいて区分された、約5.7万年前から3万年前までの時期。最終氷期の中でも相対的に温暖な時期にあたる。短い周期で激しい気候変動が起きていた時期でもある。
注5)IODP:Integrated Ocean Drilling Program(統合国際深海掘削計画)の略。日本と米国が主導し、地球環境変動、地球内部構造及び地殻内生物圏の解明を目的として世界の様々な海底を掘削する国際プロジェクト。グレートバリアリーフでは2010年に第325次航海として掘削が行われた。現在は、日本と欧州が主導するIODP3に引き継がれている。
注6)放射性炭素年代測定:炭素には質量の異なる同位体が存在する。最も多いのは質量数12の炭素であるが、質量数が13と14の炭素もわずかな割合で存在する。このうち炭素14は放射性同位体であり、大気中の窒素が宇宙線由来の中性子と反応し、放射性炭素が生成される。大気中の放射性炭素を生物が取り込み、生物の死後に放射壊変により減少することを利用して、死後どの程度時間が経っているのか測定する方法。
注7)ハイドロアイソスタシー(海水性地殻均衡):グレートバリアリーフのような氷床分布域から離れた地域において、氷床の拡大・縮小に伴う海水の荷重変化によってアイソスタシー(平衡状態)を回復しようと地殻が隆起・沈降する現象のこと。
<論文情報>
表題:Global mean sea-level fall from late Marine Isotope Stage 3 into the Last Glacial Maximum inferred from Great Barrier Reef large benthic foraminiferal assemblages (和訳:グレートバリアリーフの大型底生有孔虫群集から推定された海洋酸素同位体ステージ3から最終氷期最盛期にかけての全球平均海面水位の低下)
著者:Kazuhiko Fujita1, Choko Nakada2, Noriko Yagioka2, Yosuke Miyairi3, Marc Humblet4, Hironobu Kan5, Yasufumi Iryu6, Jody M. Webster7, Yusuke Yokoyama3
著者所属先:1福井県立大学、2琉球大学、3東京大学、4名古屋大学、5九州大学、6東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)、
7 シドニー大学
掲載誌:Earth and Planetary Science Letters
オンライン公開日:2026年10月3日
DOI:10.1016/j.epsl.2026.120379