研究成果

AIで心不全の悪化を早期に捉え地域医療を支える ~非専門医と専門医をつなぐ統合型セーフティーネットSaMDの開発がAMEDに採択~ 目標3:すべての人に健康と福祉を

     琉球大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・神経内科学講座の楠瀬賢也教授を研究開発代表者とする研究プロジェクト「AIを活用した心不全(※1)悪化の早期検知と非専門医診療判断支援のための統合型セーフティーネットSaMD(※2)の開発」が、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和8年度「医工連携・人工知能実装研究事業」に採択されました。

     本研究は、琉球大学を中心に、徳島大学、九州大学、北海道大学、北里大学と、琉球大学/徳島大学発ベンチャーの株式会社サウスウッドが連携して進めます。心エコー、胸部X線、血液検査、薬剤情報などをAIで統合し、心不全悪化の兆候を早期に捉えるとともに、非専門医が専門医への相談・紹介の必要性を判断するための支援を行うプログラム医療機器(SaMD)の開発を目指します。 

    <本研究の背景>
     心不全は、心臓の働きが低下して息切れやむくみなどを生じ、悪化と回復を繰り返しやすい病気です。悪化の初期には変化が小さく、症状、画像検査、血液検査、薬剤の状況などを総合して判断する必要があります。一方、心不全専門医は地域によって偏在し、かかりつけ医や在宅医などの非専門医が継続診療を担う場面も増えています。
     離島を含む沖縄県のように医療機関間の距離が大きい地域では、状態変化を早く捉え、必要なときに専門医へつなぐ仕組みが重要です。診療現場では「まだ様子をみてよいのか」「治療を見直すべきか」「専門医へ相談・紹介すべきか」を、限られた情報と時間の中で判断しなければなりません。

    <解決すべき社会課題>
     心不全では、単一の検査値だけで悪化を判断することは難しく、複数の所見を組み合わせた専門的な判断が求められます。地域医療では、専門医へ相談するタイミングが施設や担当医の経験に左右されやすく、相談・紹介の遅れや、反対に過度な受診につながる可能性がありました。近年、様々な分野で実用化が進んでいるAI技術は、こうした複雑で高度な医師の判断を手助けするツールになると期待されています。琉球大学では2020年4月から2025年3月までの5年間、沖縄県内の5つの医療機関と連携し「心不全に対する治療介入法と新たな人工知能によるアプローチを模索する多施設共同研究(OKINAWA-HF, 研究代表者:楠瀬 賢也)」を実施し、心エコーやX線画像のAI解析を通じ心不全の診断・治療効果の評価などに関する新たなアプローチを探求しました。こうした取り組みを発展させる形で、本研究では、AI予測を「数値を出すだけ」で終わらせず、次の診療行動につながる判断材料として提示します。

    <本研究で目指すこと>
     本研究では、沖縄の心不全登録事業であるOKINAWA-HFをベースに、医療情報をAIで統合し、近い将来に早期介入が必要となる可能性を評価するプログラム医療機器(SaMD)を開発します。見落としやすい悪化の兆候を示し、専門医への相談・紹介を適切な時期に行うための「セーフティーネット」として機能させます。本研究ではこのプログラム医療機器を医療機器としての実用化を目指します。

    <社会的意義・今後の展望>
     本プログラム医療機器の実用化により、地域の非専門医が心不全悪化の危険信号を早期に把握し、治療が必要な患者さんを適切な時期に専門医療へつなぎやすくなることが期待されます。沖縄で検証を進め、多施設評価を通じて全国の地域医療へ展開可能なモデルを構築します。

    <研究開発体制>
    参画機関              主な役割
    琉球大学              研究全体の統括、心不全臨床データ、地域実装、患者・市民参画
    徳島大学              少ない心エコー断面から評価するAI技術の開発
    九州大学              臨床研究支援、薬事・レギュラトリーサイエンス
    北海道大学           遠隔医療・レジストリ研究の設計支援
    北里大学              総合診療・地域医療ネットワークでの評価
    株式会社サウスウッド       ソフトウェア実装、画面設計、UI/UX開発

    <事業情報>
    事業名    国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 令和8年度 「医工連携・人工知能実装研究事業」
    研究開発課題名    AIを活用した心不全悪化の早期検知と非専門医診療判断支援のための統合型セーフティーネットSaMDの開発
    研究開発代表者    楠瀬 賢也(琉球大学大学院医学研究科 教授)
    研究開始              令和8年9月

    <用語解説>
    ※1)心不全:心臓の働きが低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態。息切れ、むくみ、体重増加などがみられ、悪化すると入院が必要になります。
    ※2)SaMD(Software as a Medical Device):医療上の目的で使用される、医療機器としてのソフトウェア(プログラム医療機器)です。