研究成果

サンゴを覆い殺すテルピオス海綿を産卵場所として利用する巻貝を世界で初めて発見

 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設の山城秀之教授らの研究チームによる研究成果が、国際学術雑誌「Scientific Reports」誌に掲載されました。
 本件に関する取材については、下記のとおりになりますので、よろしくお願いします。
<発表のポイント>
◆サンゴを覆い殺すテルピオス海綿の上に小さな巻貝を見つけ、その貝が海綿の組織内に卵のうを産みつけていることを発見しました。
◆海綿に積極的に関与している生物が存在することを初めて明らかにしました。       
◆サンゴvs海綿の関係に加え、第三者の関与を調べる糸口となりました。 
                                                          

【発表概要】
 インド洋から太平洋にかけてのサンゴ礁でサンゴが減少する原因の一つとして、サンゴ被覆性のテルピオス海綿が知られています。今回、海綿の定期調査中に小さな巻貝を見つけ、またその貝が海綿の組織内に卵のうを産みつけていることを発見しました。貝は、サナギチビカニモリ属の1種と同定されました。これらの結果を、国際科学誌「Scientific Reports」に公表しました。サンゴと海綿の関係に加えて他の生物が関与していることがわかり、今後のサンゴ礁の保全に寄与することが期待されます。

【研究の背景】
 世界中のサンゴは、温暖化に伴う大規模白化、オニヒトデ等による食害や細菌性感染症などにより急激に減少しています。将来、更にサンゴは減少し、サンゴ礁は環境変動の影響を受けにくい海藻や海綿に置き換わると予測されています(図1)。
 
 サンゴを覆い殺す海綿の被害が世界中のサンゴ礁から報告されています。その一つ、テルピオス海綿は、灰色から黒色を呈し、1mm以下の薄い組織ながら生きているサンゴを覆い殺し拡がっています。琉球列島のほとんどの島に棲息するものと考えられています(図2)

図1 現在のサンゴを中心として多種多様な生物を育むサンゴ礁は、海藻や海綿に置き換わることが予測されている。

【方法と結果】
 本研究グループは、テルピオス海綿の成長や生殖の調査を行ってきました。その過程で、海綿の表面に小さな巻貝を発見しました(図3)。当初はたまたま付着しているものと考えていましたが、糸満市と今帰仁村で成貝がまた恩納村、本部町、今帰仁村で幼生や卵のうが見つかったことから、この巻貝について詳細に調べました。貝の殻長は約1.4mm、卵のう1個あたりベリジャー幼生は約111匹でした。以下に分析と観察の結果を示します。

DNA分析による同定:貝殻の形態比較および成貝と幼生のミトコンドリアDNAのCOI(チトクロームcオキシダーゼサブユニットI)遺伝子領域を用いた分子系統解析の結果、クリイロケシカニモリ科サナギチビカニモリ属の1種Joculator sp.と同定されました(図4)。

顕微鏡観察:薄く切った組織切片の顕微鏡観察から、この貝が海綿の組織内に産卵していることを明らかにしました(図5)。

卵のうの観察:海綿の組織内に産みつけられた卵のうは成熟に伴い、次第に外側に移動・膨張し、多数の幼生を放出しました(図6)。

幼生の行動観察:幼生は明るい方向に泳ぐ正の走光性を持つこともわかりました(図7)。

【今回の発見の意義と展望】 
 テルピオス海綿は組織内に無数のガラスの骨片を持ち、更に表面には砂粒をまとうため、貝にとっては安全な産卵場所かもしれません。この貝が海綿を餌としているのかは未解明です。今後、両者の関係をより詳細に解明するため、沖縄島以外の場所あるいは外国のサンゴ礁での調査が必要です。これまで、サンゴとテルピオス海綿との1対1の関係しか知られていませんでしたが、海綿を利用する巻貝がいることが初めてわかり、生物同士がより多様で複雑な関係で繋がっていることが明らかとなりました。
 本研究成果は、サンゴ礁の脅威となりつつあるテルピオス海綿の動態を明らかにする上で重要な発見となります。


   
   図2 サンゴを覆い殺すテルピオス海綿(灰色の部分)、今帰仁村。       


  図3 テルピオス海綿から発見された巻貝の生体と殻、右は幼貝。


 図4 成貝と幼生の分子同定の結果、サナギチビカニモリ属の1種Joculator sp.と同定された。

  
     図5 海綿の組織切片写真。海綿の幼生と巻貝の卵のうが観察される。
         卵のうの中にはベリジャー幼生があった。


  図6 サンゴ枝を覆う海綿の組織内に産み付けられた巻貝の卵のう。
              成熟した卵のうは次第に膨張し、卵のうの外に無数のベリジャー幼生を放出した。       

  
 図7 (左)交尾する巻貝、(右)明るい方向に集まるベリジャー幼生。

<論文情報>
(1)Snails associated with the coral-killing sponge Terpios hoshinota in Okinawa Island, Japan論文タイトル(沖縄島に棲息するサンゴ被覆性海綿(テルピオス ホシノ  
    タ)を利用する巻貝について) 
(2)雑誌名 Scientific Reports
(3)著者 Hideyuki Yamashiro 山城秀之(琉球大学熱帯生物圏研究センター), Hiroaki Fukumori 福森啓晶((現)東京大学大気海洋研究所・琉球大学熱帯生物圏
         研究センター), Siti Nurul Aini (琉球大学理工学研究科), Yurika Hirose 廣瀨友里香((現)(一社)環境パートナーシップ会議・琉球大学理工学研究科)
(4)DOI番号https://doi.org/10.1038/s41598-021-00185-x
(5)https://rdcu.be/czRlX
        補足資料(Supplementary Information)として、巻貝の交尾行動(Video S1)、卵のうからベリジャー幼生が孵化する様子(インターバル撮影、Video S2)およびベリジ
        ジャー幼生が孵化する様子(インターバル撮影、Video S2)およびベリジャー幼生が明るい方向に集まる正の走光性行動の映像(Video S3)をご覧いただけます。