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琉球大学 熱帯生物圏研究センター西表研究施設の和智 仲是(わち なかただ)助教は、八重山諸島ではこれまで与那国島でしか確認されていなかった、ミズメイガ類の一種・ミツクロモンミズメイガを、石垣島で初めて記録しました。
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<発表概要>
ミズメイガ亜科のガは、その和名(ミズ-メイガ)が示すとおり湖や池といった止水域や、小川・河川などの流水域の周辺に生息し、世界で約800種が知られています。チョウやガの仲間では珍しくほとんどの属で幼虫は水生で、植物・コケ類・藻類を餌とします。ミズメイガ亜科のなかでも特に種数が多い Eoophyla 属は、インドから東南アジア、オセアニアの島々、オーストラリア大陸まで広く分布します。日本ではこれまでに、
ヨツクロモンミズメイガ E. inouei Yoshiyasu, 1979
タイワンヨツクロモンミズメイガ E. conjunctalis (Wileman & South, 1917)
ミツクロモンミズメイガ E. gibbosalis (Guenée, 1854)
の3種が知られ、その分布は琉球列島を中心としています。石垣島・西表島にのみ分布し日本固有種でもあるヨツクロモンミズメイガ、奄美諸島や沖縄諸島に分布するタイワンヨツクロモンミズメイガが長い間日本での既知種とされてきました。そして最近になってインド、インドネシア、ニューギニア、フィリピン、中国大陸(雲南省)、台湾にかけて広く分布するミツクロモンミズメイガも日本に生息していることが確認されています。
このミツクロモンミズメイガは2014年に与那国島で初めて記録されたのち、2016から2024年にかけて沖縄諸島(沖縄島・屋我地島・久米島)や奄美諸島(喜界島)でも記録されました。本種の幼虫期は未確認ですが、沖縄島では多くの成虫が湧水周辺で採集されています。
2025年8月11日、和智助教が休暇中に宿泊した石垣島南部のホテルの庭園で、まだ石垣島での報告がないミツクロモンミズメイガの成虫が確認されました。和智助教と娘のかの子さんが庭園を散歩中、観賞用池のそばでかの子さんが「お父さん、見たことない蛾がおるよ。来て」と呼びかけたことがきっかけでした。和智助教が確認すると、確かに独特の斑紋をした小さな蛾(図1)が庭木の葉裏に止まっており、研究室に持ち帰って同定した結果、石垣島では未記録のミツクロモンミズメイガであることが判明しました。
本個体が8月に得られたことは、過去の記録(6~12月に採集)とも時期が一致します。また、沖縄島において湧水付近で記録されたのと同様、観賞用池という人工的な水環境で確認されたことから、ミツクロモンミズメイガは他の2種よりも自然度の低い環境を利用できる可能性があります。
今回の石垣島での記録は、八重山諸島で2地点目となる確実な記録であり、日本でのミツクロモンミズメイガの分布の理解を深める上で重要な知見と考えています。また身近な自然環境へのちょっとした注意や関心が、新しい発見につながることも示しています(注)。ただし人工環境での採集であること、個体数が1頭のみであることから、定着状況については今後の調査が必要です。こうした小さな記録の積み重ねが、琉球列島の昆虫相を理解するための基礎となると考えています。

図1. 石垣島のミツクロモンミズメイガ
和名の元になった後翅の3つの特徴的な斑紋(左)と発見時の様子(右)(和智仲是撮影)
<今後の展望>
今後は、石垣島だけでなくより自然度の高い環境(特に西表島など)での成虫・幼虫の継続的探索、幼虫期の生態や食性の解明、近縁種との利用環境の違いの分析、地域個体群の形態・遺伝的多様性の評価などが必要と考えています。一連の研究によって、琉球列島の水環境に依存する昆虫への理解がさらに深まることが期待されます。
注 八重山の身近な自然環境への関心が新しい発見につながった例
「これ、なに?」3歳児が見つけたのは、実は八重山初記録のハチの繭だった(琉球大学・研究成果, 2025年1月9日, https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/63551/)
⽯垣島の固有種イシガキハイイロハネカクシを⻄表島でも確認 20 年にわたる観察が決め⼿(琉球大学・研究成果, 2025年10月6日, https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/71296/)
世界的に珍しいハエの、誰も見たことがなかった繁殖行動 地域住民の協力で明らかに(琉球大学・研究成果, 2025年11月7日, https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/72107/)
<主な参考文献>
すべての引用文献については論文をご参照ください。
1) 青柳克, 2016. 自宅灯下でみられた昆虫10年間の記録; 沖縄島初記録ヒゲブトナガカメムシ及びミズメイガの一種 Eoophyla gibbosalis. 琉球の昆虫, (40): 134–141.
2) 木村正明, 2020–2025. 琉球産蛾類目録
https://gashowkimura.wixsite.com/website/moths-of-ryukyu
3) 木村正明・鷹野拓海, 2020. Eoophyla gibbosalis (Guenée, 1854) (ツトガ科, ミズメイガ亜科) の和名と新産地. 蛾類通信 (295): 527–528.
4) 那須義次・広渡俊哉・坂巻祥孝・岸田泰則, 2023. 日本の小蛾類. 191 pp. Gakken, 東京.
5) Wagner, D., 2025. Pyraloidea: Cerambidae: Acentropinae, Aquatic snout moths. p. 160. In: Moths of the world, a natural history. 240 pp. Princeton University Press, Princeton & Oxford.
6) Yoshiyasu, Y., 1985. A systematic study of the Nymphulinae and the Musotiminae of Japan (Lepidoptera: Pyralidae). Scienctific Reports of the Kyoto Prefectural University Agriculture, 37: 1–162.
<論文情報>
(1) 論文名:Occurrence of Eoophyla gibbosalis (Guenée, 1854)
(Lepidoptera: Crambidae: Acentropinae) from Ishigaki Island, the Yaeyama Islands, southwestern Japan
(2) 雑誌名:Japanese Journal of Systematic Entomology 31 (2): 313–317
(3) 著者名:Nakatada Wachi
(4) URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsystent/31/2/31_313/_article
(5) DOI: https://doi.org/10.69343/jjsystent.31.2_313
