研究成果

海藻養殖が有効な二酸化炭素除去戦略であることを証明する研究がスタート ― 戦略的創造研究推進事業(CREST)採択 目標14:海の豊かさを守ろう目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

     国立研究開発法人科学技術振興機構(略称:JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)に、長崎大学、琉球大学、理研食品株式会社との共同で応募した研究課題「海藻養殖漁場におけるブルーカーボン(※)の高精度定量化と固定能評価」が採択されました。長崎大学海洋未来イノベーション機構のNishihara, Gregory N. (西原直希)教授を研究代表者とする研究で、本大学では、農学部の小西照子教授、理学部の藤村弘行教授、田中厚子准教授、熱帯生物圏研究センターの伊藤通浩助教らが参加します。CRESTは審査が非常に厳しい大型研究費プロジェクトで、令和5年度の採択率はわずか9.1%でしたが、本研究課題はその厳しい審査を乗り越えて採択となりました。

    【本研究の背景】

     海藻は有効な二酸化炭素除去(CDR※)能力を有すると考えられており、ノリ養殖など我が国で伝統的に行われてきた海藻養殖は、地球温暖化という課題を解決し得る技術として、近年では海外でも注目されています。しかし、CDRを主目的とした大規模海藻養殖は、海藻養殖生態系の生態系純一次生産量(NEP※)、すなわち、海藻による光合成量から海藻自身の呼吸量を差し引いた値について定量評価する研究が少ないため、むしろCO2を放出する懸念や生態学的撹乱および経済的リスクの点から消極的な意見もあります。そこで、長崎大学と琉球大学の研究チームは、CO2の変化(右記図)に着目し、海藻養殖場によるCO2の吸収と固定を多面的かつ包括的に定量評価する研究が必要だと考えました。

    【期待される成果】

     宮城県のワカメ養殖場および沖縄県のオキナワモズク養殖場のCO2吸収能の評価研究を実施しながら、海藻が環境中に放出する多糖を評価し、養殖場における有機炭素の定量化を目指します。本研究は海藻養殖産業におけるカーボンニュートラル化やブルーカーボンにおけるカーボンクレジットの高精度定量化に貢献し、地球温暖化対策にも貢献すると期待されます。

    【戦略的創造研究推進事業(CREST)について】

    CRESTは、我が国が直面する重要な課題の克服に向けて、独創的で国際的に高い水準の目的基礎研究を推進し、社会・経済の変革をもたらす科学技術イノベーションに大きく寄与する、新たな科学知識に基づく創造的で卓越した革新的技術のシーズ(新技術シーズ)を創出することを目的としています。

    受託した研究事業の基本情報

    ●事業名:
    令和6年度戦略的創造研究推進事業委託研究事業 (CREST)
    研究領域:海洋とCO2の関係性解明から拓く海のポテンシャル

    ●課題名:
    海藻養殖漁場におけるブルーカーボンの高精度定量化と固定能評価

    ●実施体制:
    研究代表者:長崎大学 海洋未来イノベーション機構 環東シナ海環境資源研究センター 教授 Nishihara, Gregory N. (西原 直希)
    主たる共同研究者:琉球大学 農学部 亜熱帯生物資源科学科 教授 小西 照子 
    研究協力機関:理研食品株式会社
    * 理研食品株式会社は、理研ビタミン株式会社のグループ会社です

    ●期間:
    最長5.5年間(ただし実施期間中の各種評価等により変更がありえる)

    ●助成金額(直接経費):
    最大270,000,000円(ただし実施期間中の各種評価等により変更がありえる)

    用語説明

    ブルーカーボン:
    海域で吸収・貯留されている炭素のこと。2009年に国連環境計画 (UNEP) によって定義された用語。なお、最近では森林などの陸域で吸収・貯留されている炭素をグリーンカーボン、海域のものをブルーカーボン(Blue Carbon)として区別することが多い。

    二酸化炭素除去(Carbon Dioxide Removal; CDR):
    大気中の二酸化炭素を除法し、陸や海に炭素を長期間貯留する人為的な活動のこと。

    生態系純一次生産量(Net Ecosystem Production; NEP):
    植物において、光合成による生産から呼吸による消費のみを差し引いたもの

    関連リンク


    ◆戦略的創造研究推進事業(CREST)の概要:
    https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/about/index.html

    ◆CREST研究領域の紹介:
    https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/bunya2023-2.html