千葉県立中央博物館栗田隆気研究員と琉球大学熱帯生物圏研究センター戸田守准教授は、沖縄島と周辺の小島に生息するヤモリの仲間(トカゲモドキ類)であるクロイワトカゲモドキのDNAと形態形質を詳細に調べ、沖縄島北部と古宇利島の個体群を新種Goniurosaurus nebulozonatus(ヤンバルトカゲモドキ)として記載しました。 |
<論文の概要>
クロイワトガゲモドキとは?:トカゲモドキ類はまぶたを持つことが特徴のヤモリの仲間で、国内では鹿児島県の徳之島から沖縄諸島にかけて分布しており、2種5亜種が知られています。このうち、沖縄島とそれに隣接する小島に生息する亜種クロイワトカゲモドキには、これまでの研究により、遺伝的に大きく異なる2つの個体群が含まれることがわかっていました。両者は名護市の北縁あたりを境界に分布しており、境界部付近では交雑をしています。しかし交雑帯の範囲は狭く、その外側では両者がそれぞれ特有の遺伝的特徴を保っている状況から、2つの異なる種とみなされるべきことが指摘されていました。トカゲモドキ類は主に体の模様の特徴で分類されているのですが、クロイワトカゲモドキは模様の変異がとても大きく、2つの個体群の識別は容易ではありませんでした。
研究方法と結果:本研究では、遺伝子解析により両者の違いを改めて確認するとともに、博物館標本に加えて野外で撮影した500枚を超える画像資料を準備し、それをもとに体の各部位の長さ、鱗の数や状態、模様などを類型化・数値化して外部形態形質データを整理しました。それらのデータに基づき、2つの個体群がどの程度の精度で判別可能かを評価したところ、標本に基づいた場合には95%以上、画像資料に基づく場合でもおよそ80%の精度で識別できることが示されました。この結果が一つの根拠となり、2つの個体群を正式に別種として分けることにしました。もともとのクロイワトカゲモドキの名が該当するのが名護市以南の種であるため、北部の種が新種となったわけです。
新種ヤンバルトカゲモドキの特徴:本種は、胴背面の中央部に縦帯が見られないことが多く、縦帯や横帯がある場合でも、それらと地色の境界がぼやけるのが特徴です。さらに、腿のイボ状の鱗の密度や足の裏の鱗などにも特徴があり、それらを総合して識別する必要があります。ちなみに、本種の学名Goniurosaurus nebulozonatusは「ぼやけた横帯を持つトカゲモドキ」という意味です。
明らかになったトカゲモドキ類の多様性:この論文では、これら2種に加え、他の島に分布する亜種との系統分析も行い、その結果から、現在、亜種とされている琉球列島産のトカゲモドキ類はすべて独立した種として扱うべきことも示しました。また系統関係は不明なものの、絶滅種のヨロントカゲモドキもクロイワトカゲモドキの亜種ではなく、やはり独立種として扱うべきと結論づけています。よって、琉球のトカゲモドキは現生種7種および絶滅種1種ということになります(図1)。
<論文の意義と今後の課題>
本研究により、変異に富む琉球産トカゲモドキ類の分類が整理されたことは、同地域の陸生動物相の多様性に関する我々の理解を大きく前進させ、同時にその保全単位を明確にした点で意義があります。とはいえ、ヤンバルトカゲモドキとクロイワトカゲモドキの交雑帯がどのように維持されているのか、そしてそもそもこの2種がどこでどのようにして分化したのかについては未だ不明な点が多く、今後の研究の課題です。
上にも示したように、2種に分割される前のクロイワトカゲモドキは天然記念物であり、平成27年からは種の保存法によっても個体の捕獲等が規制されています。それが分割されたヤンバルトカゲモドキも狭義のクロイワトカゲモドキも引き続き種の保存法等の規制対象です。捕獲および譲渡しなどが禁止されています。法規制を超えて、この多様なトカゲモドキ類を一種も欠けることなく後世に残すことも今後の大きな課題です。
図1.新種ヤンバルトカゲモドキを含む、琉球列島産の8種のトカゲモドキ類
<論文情報>
- 論文タイトル:Genetic and morphological studies on Goniurosaurus kuroiwae (Squamata: Eublepharidae), with a description of a new species from the northern part of Okinawajima Island, Ryukyu Archipelago, Japan(クロイワトカゲモドキ(爬虫綱:有鱗目)の遺伝学的・形態学的研究:特に、沖縄島北部からの新種の記載について)
- 学術誌名: Current Herpetology 43 (1) (2024年2月27日発行)
- 著者名:Takaki KURITA1 (栗田隆気) and Mamoru TODA2 (戸田守)
1 千葉県立中央博物館、2琉球大学熱帯生物圏研究センター - DOI:https://doi.org/10.5358/hsj.43.86