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農学部の陳 碧霞准教授と日室千尋博士(協力研究員)、池川雄亮博士(協力研究員)が『第45回沖縄研究奨励賞』を受賞しました

 琉球大学農学部の陳 碧霞准教授日室千尋博士(協力研究員)、池川雄亮博士(協力研究員)『第45回沖縄研究奨励賞』を受賞しました。沖縄研究奨励賞(奨励賞)は、公益財団法人沖縄協会の設立目的にある「沖縄の振興施策への積極的な協力」に関連し、これを推進する事業として、沖縄の地域振興に貢献する人材を発掘し育成することを目指して、昭和54年7月に設置されたものです。

陳 碧霞 准教授(農学部亜熱帯地域農学科)


陳 碧霞 准教授:竹富島でのフクギ巨木調査 (2023年10月)

<研究題目>
琉球列島における伝統集落景観とフクギ屋敷林老木分布に関する調査研究

<研究の概要>
 沖縄には屋敷がフクギ林で囲まれ、さらにその外側に海浜から幾重にも抱護(防風林)(注1)と呼ばれる林帯で取り囲まれている伝統集落景観が見られる。その多くは戦争や土地開発などで破壊されてしまったが、今でもその一部の景観を本部町備瀬、今帰仁村の今泊や離島の多良間島・渡名喜島などの集落で確認することができる。今の所これらの景観は東アジアの集落では見ることのできない沖縄独特のものである。
 陳氏が20年以上かけて、琉球王朝時代に系譜をもつ県内外のフクギ屋敷林と抱護(防風林帯)の植生構造および沖縄の典型的な風水集落構造を明らかにした。多良間島を事例としてフィールド調査を行ったところ、集落内の道路は直線ではなく、蛇行しており、道路の交差点は直角になっていないことが分かった。沖縄の抱護は、季節風や台風から家屋や耕地を守るバリアーの役目を第一義に考えており、中国や韓国の風水である龍脈概念とは違うところである。これは風水の基本原則である「蔵風得水」の中の「蔵風」に特化したもので、中国の古典的な「大陸型風水モデル」に対し、より沖縄に対応した「島嶼型風水モデル」と位置付けている。
 琉球列島の30余りの島々における各集落の残存フクギの毎木調査を行い、フクギ老木の推定樹齢により、フクギが17世紀後半から、奄美大島から波照間島までの琉球列島の全域に存在していたことを明らかにした。西表島の調査結果から西表島に流れ着いたフクギの種子から西表島のフクギ屋敷林が始まり、それが徐々に琉球列島に広がったという仮説を提示し、フクギ屋敷林は琉球列島のほぼ全域に分布していることから、琉球固有の文化的産物であることを示した。
 アンケート調査・ヒアリング調査、文献捜索などの社会学、植物民俗学的手法を用いて、フクギという植物に観光的価値や文化的価値を見出している点である。琉球列島に現存するフクギの木を3万本にわたり1本1本樹高と幹の太さ等を調査し、集落ごとのフクギ老木データを作り、集落内のフクギ老木布図の作成により、フクギの空間分布を可視化した。更に住民へのインタビューを行い、フクギ屋敷林の管理現状及び保全課題を明らかにした点である。これらを地域に共有することができ、フクギへの理解と保全へ役立てることができるようになった。

注1:自然環境の厳しい沖縄で、冬の北風と夏の台風から農作物や家屋を守るために、琉球王朝時代の人々は植林の手法を使って、海岸から内陸にかけて幾重にも抱護の林帯を造成している。沖縄の「抱護」は、集落を抱いて護る地形や植林のことを指す中国由来の風水言葉である。その形態には村を守る「村抱護」、集落内の屋敷を囲む「屋敷抱護」、海浜の環境を守る「浜抱護」などがある。その複層な防風林形態は、農業生産域と居住域を同時に保全するような合理的な構造になっている。

<受賞者コメント>
 この度は第45回沖縄研究奨励賞に選んでいただきました。とてもうれしくて光栄です。調査研究にあたり、ご協力していただいた地域住民、共著者の皆様、琉球大学農学部森林政策学研究室、里山自然学研究室の皆様、奨励賞の選出に関わった推薦及び選考委員の皆様に感謝を申し上げます。これからも沖縄県に貢献できるように頑張ってまいります。これからもどうぞご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。

<関連論文情報>
Ⅰ著書
Chen, B. and Nakama Y. (2012) Traditional Rural Landscapes in Island Topography in East Asia, Nova Science Publishers, Inc., New York. 224pp
陳碧霞(2016)「減災機能に備えるランドスケープ・デザイン学」、琉球大学国際沖縄研究所[編]『島嶼型ランドスケープ・デザイン』, 沖縄タイムス社 pp.69-92.
陳碧霞(2019)『近世琉球の風水と集落景観』.榕樹書林. pp.236.
Coggins, C., Chen, B. (2022) SACRED FORESTS OF ASIA: Spiritual Ecology and the Politics of Nature Conservation. Routledge/Earthscan. Pp.348.(共著)
陳碧霞(2023)『琉球列島のフクギ並木』鹿児島市、南方新社. pp.246. (単著)

Ⅱ 学術論文(レフェリー付き学会誌)
Chen, B., Nakama, Y., and Kurima, G. (2008) Layout and composition of house-embracing trees in an island Feng Shui village in Okinawa, Japan. Urban Forestry & Urban Greening, 7 (1): 53-61.
Chen, B., Nakama, Y., and Kurima, G. (2008) The Ryukyu Islands Feng Shui village landscape. Worldviews: Global Religion, Culture, and Ecology 12 (1): 25-50.
Chen, B., and Nakama, Y. (2015) Residents’ Preference and Willingness to Conserve Homestead Woodlands: Coastal Villages in Okinawa Prefecture, Japan. Urban Forestry & Urban Greening 14(4):919-931.
Chen, B., Nakama, Y., Urayama, T. (2016) Dimensions and management of remnant Garcinia subelliptica tree belts surrounding homesteads- a case study from two villages on the Sakishima Islands, Okinawa Prefecture, Japan –. 海岸林学会誌 15 (2): 29-36.
Chen, B., Nakama, Y., Zhang, Y. (2017) Traditional village tree landscapes: tourists’ attitudes and preferences for conservation. Tourism Management 59:652-662. Doi.org/10.1016/j.tourman.2016.09.007.
Chen, B. and Liang, L. (2020) Old-growth trees in homesteads on the Ryukyu Archipelago, Japan: uses, management, and conservation. Small-scale Forestry 19 (1): 39–56. https://doi.org/10.1007/s11842-019-09430-8
Chen, B. and Wang, Y. (2020) Carbon storage in old-growth homestead windbreaks of small islands in Okinawa: Toward the sustainable management and conservation. Forests. 2020, 11, 448; doi:10.3390/f11040448
Chen, B., Akamine, H.* (2021) Distribution and utilization of homestead windbreak Fukugi (Garcinia subelliptica Merr.) trees: An ethnobotanical approach. Ethnobiology and Ethnomedicine. 17 (11) https://doi.org/10.1186/s13002-021-00434-3.
Chen, B.*(2023)Visitors’ perceptions of traditional homestead windbreaks from user-generated comments. Urban Forestry & Urban Greening. https://doi.org/10.1016/j.ufug.2023.127950

日室千尋 博士(農学部協力研究員):代表
池川雄亮 博士(農学部協力研究員)


日室千尋 博士(農学部協力研究員)

池川雄亮 博士(農学部協力研究員)

<研究題目>
不妊虫放飼法を用いたアリモドキゾウムシ根絶に関する研究

<研究の概要> 
 2012年12月に沖縄県久米島、2020年12月に津堅島において、サツマイモの害虫で、侵略的外来種であるアリモドキゾウムシCylas formicarius(注1)に対して不妊虫放飼法(注2)を用いて根絶が達成されました。
  Knipling博士によって発案された不妊虫放詞法は、農薬などと違って環境負荷が少ない害虫管理法として世界で注目されているが、失敗例も多く、実用化に多くの問題を抱えている。沖縄県では、1993年のウリミバエ根絶成功のノウハウを踏まえ、サツマイモの害虫であるアリモドキゾウムシの根絶事業に取り組みました。本研究では久米島において、不妊虫放飼法を用いた世界初の甲虫類根絶成功事例として、国際的にも高い評価を受けている一方で、他地域への応用、再侵入対策に課題が残されていました。勝連半島から4kmしか離れておらず、島外から雄の飛来がある津堅島(うるま市)では、駆除確認調査に用いるトラップに誘殺される雄が島外由来なのか、島内で繁殖に由来した雄なのかが判断できず、根絶確認が困難になりました。そこで、一時的に飛来源である勝連半島で防除し、島内でのトラップで誘殺される雄を抑えることで、根絶確認に結びつけました。また、飛来雄の誘殺の時空間パターンを定式化し、トラップで誘殺された場合に、飛来か再発生かを判断するためのシステムを構築し、再侵入対策を行いました。
 受賞理由として、「この独創的な研究は「沖縄発世界へ」となると同時に、カンショを中心にした新しい一次産業の振興に多大に貢献するものである。これまでの長期にわたる根気強い研究に改めて敬意を表したい。」と述べられています。

世界初!不妊虫放飼法を用いた甲虫類の根絶事例 ~沖縄県久米島における19年間の侵略的外来種アリモドキゾウムシ根絶プロセス~ | 琉球大学 (u-ryukyu.ac.jp)

<用語解説>
注1:アリモドキゾウムシ Cylas formicurius
 体長約6mmのゾウムシの1種。熱帯、亜熱帯地域に広く分布するサツマイモの重要な世界的害虫。日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。日本国内ではトカラ列島以南の南西諸島、及び小笠原諸島に分布する。食害されたサツマイモは有害物質イポメアマロンを産出するため、人畜にとって有害となり、その経済的損失は、世界中で年間100万ドル以上と言われている。
注2:不妊虫放飼法
 害虫管理方法の1つ。対象害虫を大量に増殖し、放射線等で不妊化し野外へ放すことで野生虫同士の交尾を妨げ、繁殖を阻害、害虫密度を抑制し、やがて根絶に至らせる手段。この方法でキュラソー島やフロリダ半島でのラセンウジバエCochliomyia hominivoraxの根絶成功を初めとし,日本でも1993年に琉球列島でウリミバエZeugodacus cucurbitaeの根絶が達成された.農薬などと違って環境負荷が少ない害虫管理法として世界で注目されている。
注3:雄除去法
 ある種の化学物質などを用いて、雄のみをトラップなどに大量に誘引し、殺すことで野生虫同士の交尾を阻害し、野生虫の密度を抑制する方法。たとえば、メチルオイゲノールというミカンコミバエの雄を強力に誘引する物質と殺虫剤を染み込ませた板(テックス板)を散布、設置する雄除去法によって、南西諸島に侵入したミカンコミバエはわが国から1986年に根絶された。

<受賞者コメント>
日室博士:これらの成功例をモデルケースとして、国内外での害虫管理、不妊虫放飼法の発展に寄与できれば幸いです。なによりも沖縄県の農業振興や学術振興に貢献できて嬉しく思います。
池川博士:害虫の根絶事業は根絶をしたら終わりではなく、その後の再侵入対策がとても重要です。その方面での課題が残っていますので、これからも研究に励みたいと思います。

<関連論文情報>
論文タイトル:First case of successful eradication of the sweet potato weevil, Cylas formicarius (Fabricius), using the sterile insect technique. (アリモドキゾウムシCylas formicarius (Fabricius)を不妊虫放飼法によって根絶成功した初めての事例)
掲載誌名:PLOS ONE
著者名:Chihiro Himuro*, Tsuguo Kohama, Takashi Matsuyama, Yasutsune Sadoyama, Futoshi Kawamura, Atsushi Honma, Yusuke Ikegawa and Dai Haraguchi*
日室千尋(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、小濱継雄(沖縄県病害虫防除技術センター、現在は宜野湾市)、松山隆志(沖縄県病害虫防除技術センター、現在は沖縄県農業研究センター)、佐渡山安常(沖縄県病害虫防除技術センター)、河村太(沖縄県病害虫防除技術センター)、本間淳(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、池川雄亮(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、原口大(沖縄県病害虫防除技術センター)
DOI番号:10.1371/journal.pone.0267728
アブストラクトURL:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0267728

論文タイトル:Eradication of sweetpotato weevil, Cylas formicarius, from Tsuken Island, Okinawa, Japan, under transient invasion of males. (オスが再侵入する状況下での沖縄県津堅島でのアリモドキゾウムシCylas formicarius (Fabricius)を根絶)
掲載誌名:Journal of Applied Entomology
著者名:Yusuke Ikegawa*, Futoshi, Kawamura, Yasutsune Sadoyama, Kunio Kinjo, Dai Haraguchi, Atsushi Honma, Chihiro Himuro, and Takashi Matsuyama*
池川雄亮(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、河村太(沖縄県病害虫防除技術センター)、佐渡山安常(沖縄県病害虫防除技術センター)、金城邦夫(沖縄県病害虫防除技術センター、現在は沖縄県農業研究センター)、原口大(沖縄県病害虫防除技術センター)、本間淳(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、日室千尋(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、松山隆志(沖縄県病害虫防除技術センター、現在は沖縄県農業研究センター)
DOI番号:10.1111/jen.13004
アブストラクトURL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jen.13004

論文タイトル:A New System for Detecting Initial Colonization by Invasive Pests and Their Locations. (侵入害虫の初期発生とその場所を検出する新しいシステム)
掲載誌名:Journal of Economic Entomology
著者名:Yusuke Ikegawa*, Atsushi Honma, Chihiro Himuro, and Takashi Matsuyama*
池川雄亮(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、本間淳(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、日室千尋(琉球大学農学部、琉球産経(株)、沖縄県病害虫防除技術センター)、松山隆志(沖縄県病害虫防除技術センター、現在は沖縄県農業研究センター)
DOI番号:doi.org/10.1093/jee/toz228
アブストラクトURL:https://academic.oup.com/jee/article/112/6/2976/5556837