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医学研究科の発表論文がスリランカ科学評議会の「大統領賞」を受賞しました: 人獣共通感染症に関する国際共同研究 目標3:すべての人に健康と福祉を目標6:安全な水とトイレを世界中に目標11:住み続けられるまちづくりを目標15:陸の豊かさも守ろう

 琉球大学大学院・医学研究科のトーマ・クラウディア准教授、医学部実験実習機器センターの佐藤行人准教授、スリランカ・ペラデニヤ大学 (University of Peradeniya)のチャンディカ・ガマゲ(Chandika D. Gamage)教授らの国際研究チームにて行った共同研究の成果(下記)が、2023年 11 月 21 日に、スリランカ科学評議会の『大統領賞』を受賞しました(Presidential Award from the National Research Council (NRC), Sri Lanka.)。

顧みられない熱帯病「レプトスピラ症」の感染源を環境DNAから推定~世界の熱帯・亜熱帯で役立つ手法を沖縄から発信、スリランカで実証~

<研究の概要>
 河川水や土壌などの環境試料から直接DNAを分析し、病原体や生息する動物などを遺伝子解析する技術は環境DNA分析と呼ばれ、注目されている。そこで筆者と琉球大学大学院・医学研究科・細菌学講座 のトーマ・クラウディア准教授を中心とする共同研究で、人獣共通感染症の病原体レプトスピラを環境DNAから分析する技術を開発し、それをスリランカの農業地帯に適用したのが本研究である。第一著者のチャンディカ・D・ガマゲ教授が勤務するペラデニア大学の近郊には、湿潤気候帯のキャンディと中間的気候のジランドゥルコッテがあり、後者でレプトスピラ症の報告数が多い。しかし、湿潤なキャンディでも潜在的リスクは高い可能性があるため、レプトスピラと動物の環境DNAを分析。その結果、キャンディのほうが最大80倍の強度で病原性レプトスピラの検出が認められること、またその検出度数が、ウシ・スイギュウのDNA検出と有意に相関することを報告、地域の感染症リスクや家畜衛生の評価に環境DNA分析が有用であることを示唆した。

<著者コメント>
 琉球大学のメンバー(下記)で取り組んだ国際共同研究が、共同研究先のスリランカから、栄誉ある賞を頂きまして、誠に光栄に存じます。本研究は、地域の病原体と宿主動物の解明という、新型コロナウイルスの流行においても大きな問題となった点について取り組んだものです。本研究では、レプトスピラ症という疾患をテーマに取り組んでいます。SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標に含まれる「健康と福祉」「安全な水とトイレ」「住み続けられるまち」「陸の豊かさ」に資する研究内容です。本研究の受賞は、琉球大学発の研究や技術に基づいた国際貢献が、その相手先政府によって認められた証だと考えられます。今後も必要とされる様々な国に貢献していけるよう、努めて参りたいです。(医学部 実験実習機器センター准教授 佐藤行人)

<用語解説>
・環境DNA: 河川水や土壌などの環境媒質中に微量に含まれる生物由来のDNA断片。主な由来は、付近に生息する生物の皮膚片や羽毛、粘液、細胞片、死骸などであると考えられている。
・人獣共通感染症: ヒトと動物(哺乳類・鳥類など)に、共通して感染する病原体によって発症する疾患(病気)のこと。病原体となるものは、インフルエンザウィルスなどのほか細菌、真菌、原虫、寄生虫など多岐に渡る。
・レプトスピラ: らせん形の細長い細菌。64種ほどが知られており、病原性・低病原性・非病原性に分けられる。病原性と低病原性の種は、人獣共通感染症のレプトスピラ症を起こす。

<謝辞>
 本研究は、次の研究助成のもとで行われました:文部科学省・科学研究費補助金(17K19298、18H02655、20K12258)、琉球大学・時空間ゲノミクスプロジェクト、および同大学・外国人客員研究員制度。ならびに、同大学・研究基盤統括センター、研究企画室、戦略的研究プロジェクトセンターによる共同利用・共同研究の支援を受けました。また、情報・システム研究機構・国立遺伝学研究所が有する遺伝研スーパーコンピュータシステムを利用しました。

<論文情報>
論文タイトル:Understanding leptospirosis eco-epidemiology by environmental DNA metabarcoding of irrigation water from two agro-ecological regions of Sri Lanka
(和訳)スリランカにおける2種類の農業生態地域で実施した潅漑水の環境DNAメタバーコーディング分析によるレプトスピラ症の生態疫学的理解
雑誌名:    PLOS Neglected Tropical Diseases
著  者:    Chandika D. Gamage, Yukuto Sato, Ryosuke Kimura, Tetsu Yamashiro, Claudia Toma
チャンディカ・ガマゲ(ペラデニヤ大 医学部 教授)、佐藤行人(琉球大 医学部 実験実習機器センター 准教授)、木村亮介(琉球大院 医学研究科 教授)、山城哲(琉球大院 医学研究科 教授)、トーマ・クラウディア(琉球大院 医学研究科 准教授)
DOI番号: 10.1371/journal.pntd.0008437
URL: https://journals.plos.org/plosntds/article?id=10.1371/journal.pntd.0008437