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理学部の小林峻助教、有光暁准教授および伊澤雅子名誉教授らの論文が2023年度日本昆虫学会論文賞を受賞しました

 理学部海洋自然科学科生物系の小林峻助教、同化学系の有光暁准教授、伊澤雅子名誉教授らの論文が、2023年度日本昆虫学会論文賞を受賞しました。
 一般社団法人日本昆虫学会(会員数約1000名)は、昆虫学の進歩・普及を図ることを目的として、1917年に設立された学会で、学術分野、保全分野、教育分野などで多岐にわたる活動を展開しています。同賞は、日本昆虫学会が発行する英文誌Entomological Scienceまたは和文誌昆虫(ニューシリーズ)に掲載された論文から、毎年2編の論文に授与される賞です。
 2023年9月16日に佐賀大学で開催された日本昆虫学会第83回大会で授賞式が行われました。

<受賞論文>

 Effect of spraying behavior and body size on predators of the big head stick insect Megacrania tsudai (Phasmatodea: Phasmatidae).
(ツダナナフシの捕食者に対する防御液噴射および体サイズの効果)
Kobayashi S., Takaoka C., Tanimoto H., Arimitsu S., Izawa M. 2022. Entomological Science 25(2): e12508. DOI: https://doi.org/10.1111/ens.12508.

<受賞者>

 小林峻・高岡千早・谷本拓夢・有光暁・伊澤雅子

<受賞のコメント>

沖縄に分布する昆虫をモデルとした生物の分布と進化についての研究が、このような形で評価され大変うれしく思います。琉球列島には面白い生態をもった生物が多く生息しています。今後も、琉球列島に生息している動物の生態や動物と植物の相互関係に関する研究を進めていこうと思います。


筆頭著者の小林峻助教 

<論文内容>

 沖縄県の先島諸島と台湾に分布する昆虫のツダナナフシは、襲われるとミントの香りのする液体を噴射することが知られており、捕食者による攻撃から身を守るためのものだとされていました。しかし、実際に捕食者に対して防御効果があるかどうかは明らかになっていませんでした。また、本種は卵から孵化した際には体長が3㎝ほどですが、4~5カ月かけて成虫になると10㎝を超えるというように、成長に伴い体サイズが大きく変化します。そこで、本研究では防御液の効果と成長に伴う体サイズの変化が天敵からの捕食回避にどのように機能しているかを明らかにすることを目的としました。


研究対象種のツダナナフシ

 蒸留水とツダナナフシから採集した防御液の各々を捕食者と思われる動物に滴下する実験を行った結果、蒸留水の場合には何も反応しませんでしたが、防御液の場合には昆虫や鳥など様々な動物が液をぬぐい取る行動をしました。この結果から、防御液には捕食者に対して忌避行動を引き起こす効果があることが明らかとなりました。また、体サイズが小さい幼虫のうち、防御液がなくなっている状態では、昆虫から鳥まで様々な動物に捕食されてしまいましたが、成虫になると防御液がなくても、体サイズの効果により鳥以外の捕食者には捕食されなくなりました。
 これまでに我々のチームの研究は、「防御液の成分は成長しても変わらない*」ことや、「体色は緑色で鳥が餌植物の葉の色と識別しにくいという背景同調をしている**」ことを明らかにしてきました。さらに、我々は「本種は卵の海流分散により分布域を拡大している***」ことも明らかにしています。ただ、これは孵化する場所が他人任せになる不確実な分散方法です。
 生物は卵や幼生、種子などを新しい定住地に何かしらの方法で移動させることがあります。これを分散といいますが、その手段が風任せや海流任せの場合、分散先が定まりにくいと考えられます。その場合、特定の捕食者が想定できないため、様々な捕食者に対して防御策を講じる必要があります。
 本種の場合には、幼虫から成虫まで体色を鳥の餌植物の色と同調させることで鳥からの識別から逃れると同時に、防御液を噴射することで鳥以外の動物からの捕食も回避していると考えられます。このように複数の防御方法を組み合わせることにより、分散先でもあらゆる動物からの捕食を避けることができると考えられます。本研究の結果は、動物の分散方法の進化と防御機構の進化が関連していることを示唆しています。

<関連論文>

* Kobayashi S., Arimitsu S., Takaoka C., Ono T., Izawa M. 2023. Quantitative chemical analysis of defensive secretion of Megacrania tsudai (Phasmatidae) and effect of actinidine on its potential predators. Journal of Chemical Ecology. https://doi.org/10.1007/s10886-023-01441-2
** Kajiwara Y., Kobayashi S., Mochida K., Fujimoto S., Yamahira K., Izawa M. 2021. An attempt of the predation avoidance mechanism of Tsuda’s giant stick insect, Megacrania tsudai (Phasmatodea: Phasmatidae), based on the spectral reflectance of the insect and a Pandanus odoratissimus leaf. The Biological Magazine, Okinawa, 59: 51–56.
*** Kobayashi S., Usui R., Nomoto K., Ushirokita M., Denda T., Izawa M. 2014. Does egg dispersal occur via the ocean in the stick insect Megacrania tsudai (Phasmida: Phasmatidae)?. Ecological Research, 29(6): 1025–1032. DOI: 10.1007/s11284-014-1188-4