研究成果

コロナ禍の身体活動量には社会経済格差がある 目標1:貧困をなくそう目標3:すべての人に健康と福祉を目標10:人や国の不平等をなくそう

 神戸大学大学院人間発達環境学研究科の喜屋武享助教、琉球大学医学部の高倉実教授は、コロナ禍における身体活動の実施状況に社会経済的な格差があることを突き止めました。身体活動の場面毎に格差の様相が異なることを明らかにした世界初の研究成果です。
 経済格差の拡大が懸念される中、経済状態による健康格差の実態を継続的にモニタリングする必要性が顕になりました。
 この研究成果は2022年3月18日にPublic HealthにPre-proofが掲載されています。

〈ポイント〉
● 本研究は、コロナ禍における場面別の身体活動実施状況に関する社会経済格差を検討した世界で初めての研究です。
● 仕事、余暇、移動に関する身体活動や座位行動において、所得や学歴による格差が認められました。その中でも余暇の身体活動は格差が大きく、低所得/低学歴ほど少ないことがわかりました(図1-a、図2-a)。
● 仕事の身体活動は、他の場面の身体活動とは逆に、低学歴ほど長いことがわかりました(図1-b、図2-b)。仕事の身体活動が長いことは心疾患などの危険性が高まることが示唆されていることから、公衆衛生の観点からは良くないことと解釈されます。
● このことが健康に対して中長期的にどのような影響を与えるのか、引き続き観察していく必要があります。





〈研究の背景〉
 十分な身体活動は精神障害を含む慢性疾患や死亡リスクを抑えることが知られています。この身体活動の恩恵を人々が公平に享受できることが理想です。しかしながら、身体活動をはじめとする健康行動には、収入や学歴などの社会経済状況による格差が生じている(健康格差)ことが以前から指摘されてきました。すなわち、低収入や低学歴の人ほど不健康であるということです。新型コロナウイルス感染症の蔓延により、観光業や飲食業などの特定の業種は経済的な打撃を受けました。公衆衛生分野では、これによる健康格差の拡大が懸念されています。

 コロナ禍における国民の身体活動の実態や運動に対する意識は、政府によるweb調査やスマートフォンアプリの歩数データ等を用いた大規模データから、コロナ以前と比較してむしろ良好な方向に遷移したことが報告されています。しかしながら、これらの情報は調査方法の特質上、社会経済状態が脆弱な人々のデータを反映していない可能性がありました。言い換えると、支援が必要な人々の実情を捉えられていない可能性があるということです。

〈研究の内容〉
 研究チームは、笹川スポーツ財団が人口割合や地域規模を考慮した精緻な調査法により収集したデータ(スポーツライフデータ)を用いて、コロナ禍における身体活動格差の実態究明に迫りました。
 
格差勾配指標・格差相対指標という、社会経済状態を指す要因(本研究の場合、所得と学歴)の各カテゴリーにおける人口割合の違いを考慮した格差指標を用いている点が本研究の特徴の一つです。

〈今後の展開〉
 本研究により、健康格差の実態を継続的にモニタリングし、経年変化を追う必要性が示されたことになります。政策の方向性を検討する上で一つの参考資料になることを期待しています。

〈用語解説〉
 座位行動:座位、半臥位または臥位の状態で行われるエネルギー消費量が1.5代謝当量(メッツ)以下のすべての覚醒行動を指す。

 等価所得:世帯所得をもとに、世帯の構成員の生活水準を表すように調整した所得。世帯所得を世帯人員の平方根で割ることで求める。

〈論文情報〉
・タイトル “Socioeconomic inequalities in physical activity among Japanese adults during the COVID-19 pandemic”
       DOI:10.1016/j.puhe.2022.03.006

・著者  Akira Kyan, Minoru Takakura

・掲載誌 Public Health