琉球大学熱帯生物圏研究センターのシニゲル博士、波利井准教授らの研究チームによる研究成果が、日本サンゴ礁学会誌英文誌「Galaxea, Journal of Coral Reef Studies」のオンライン早期公開版に掲載されました(2021年11月19日付け)。 |
<発表概要>
沖縄のサンゴ礁は、通常のスクーバ潜水ができる水深よりもはるかに深く広がっています。この水深30m以深のサンゴ礁は中有光サンゴ生態系(Mesophotic Coral Ecosystems)(注1)と呼ばれています。この海域は水温が低いため、一部のサンゴ類において海洋熱波による白化からの避難地となることが指摘されています。また、さらに深い水深帯では浅瀬と異なるユニークなサンゴ群落が広がっている可能性があります。しかし、多くの研究は浅場に限られており、この生態系に関する知見は十分にありませんでした。
今回、琉球大学熱帯生物圏研究センターのシニゲル フレデリック博士と波利井佐紀准教授らの研究チームは、沖縄北部瀬底島周辺海域でスクーバ潜水(〜40m)と船上からロープでつないだカメラ付き方形枠(注2、写真1)を海底に沈めてサンゴ類の分布調査を行いました。
その結果、サンゴ礁の深さ80mまで多様なサンゴが生息していることがわかり、そのうちトゲサンゴやミドリイシ属は約水深70mまでみられました(写真1)。また、瀬底周辺海域では、中有光層での典型的なサンゴ群集パターンはなく、トゲサンゴやミドリイシ属、センベイサンゴ属に加えてコモンサンゴ属やリュウモンサンゴ属が混在して優占する海域など、近隣の調査地点間で異なるサンゴ群集がみられることがわかりました。これらの発見は、沖縄のサンゴの生物多様性に関する知識を広げるとともに、深場のサンゴ礁海域の生態学的研究の基礎となります。
さらに、一部のサンゴは死滅の危機にさらされている可能性が示唆されました。例えば、今回水深50-60m前後ではセンベイサンゴ属が優占する海域が発見されましたが(写真2,3)、その海域は現在、複数の船舶の錨泊地として利用されておりアンカーによる破壊が懸念されます。そのため得られた知見を共有し行政や関係者で話し合い、適切な利用や保全策へつなげることは喫緊の課題といえます。
<用語解説>
注1)中有光サンゴ生態系:サンゴ礁深場、水深30mから約150mの光が弱い環境にある生態系。英語で“Mesophotic (メソフォティック)Coral Ecosystems”と呼ばれ世界的にも注目されている海域である。
注2)カメラ付き方形枠: 正方形の枠(0.5 x 0.5m)の上にカメラを取り付けて画像を撮影できるようにしたもの。得られた画像から出現したサンゴの種類や割合を解析する。
<論文情報>
日本時間11月19日にJ-stageにて早期公開されました。
論文タイトル:Overview of the mesophotic coral ecosystems around Sesoko Island, Okinawa, Japan(訳:沖縄瀬底島周辺における中有光サンゴ生態系の概要)
誌名:Galaxea, Journal of Coral Reef Ecosystems
著者:Fredric Sinniger*1, Ritzelle L Albelda2, Rian Prasetia2, Héloïse Rouzé1, Erlangga D Sitorus2, Saki Harii1. *責任著者(Corresponding author)
1琉球大学熱帯生物圏研究センター, 2琉球大学理工学研究科
DOI:https://doi.org/10.3755/galaxea.G2021_S11N
<SDGs(持続可能な開発目標)への貢献>
本学ではSDGsの達成に貢献する活動に取り組んでおり、本成果はそのうちSDG 14「海の豊かさを守る」等に貢献します。