研究成果

世界で初めて特徴的な形態のカニ類を沖縄島で発見:雌雄の生殖器が左右非相称な新属新種マブイガニ

 琉球大学熱帯生物圏研究センターの成瀬貫准教授と、(株)かんきょう社の前之園唯史氏、それにシンガポール大学のPeter K. L. Ng教授の共同研究グループが、沖縄島沿岸より世界で初めて雌雄の生殖器が左右非相称なカニ類を発見しました。

 このカニはオウギガニ科の新属新種であったため、Mabui calculusと命名しました。
 この研究成果は、2021年6月11日にJournal of Crustacean Biology誌に公表されました。

<発表概要>

 琉球大学熱帯生物圏研究センターの成瀬貫准教授、環境調査会社代表の前之園唯史氏およびシンガポール大学のPeter K. L. Ng教授による研究グループが、沖縄島沿岸より世界で初めて雌雄の生殖器が左右非相称なカニ類を発見し、新属新種として国際科学誌「Journal of Crustacean Biology」に公表しました。

 カニ類の交尾と生殖器の相称性:世界より約7800種が見つかっているカニ類は、深海から高所の河川まで、多様な環境へ非常に変異に富んだ形態的・生態的特徴を伴って進出したグループです。多様な形態・生態をみせるカニ類ですが、雌雄の生殖器は共通して左右相称であることが知られています。すなわち、オスには複数の器官からなる左右相称の生殖器構造が1対あり、メスは左右相称の生殖孔を1対もちます(図1)。オスとメスは交尾の際、お互いの腹を相手に向け、オスの右の生殖器をメスの左の生殖孔に、オスの左の生殖器をメスの右の生殖孔にそれぞれ挿入し、精子をメスに渡して、メスの体内で受精が起きます。これは今までに生殖器の構造が知られている全てのカニ類に共通する特徴でした。

 新種だけの非相称な生殖器:しかし、研究グループの前之園が、沖縄島の波あたりの強い水深3 m程までの環境より発見した最大甲幅8.1 mmの小型種であるMabui calculus(マブイガニ)(図2)は、オスの左の生殖器が縮小し、右側の生殖器に寄り添う様な形になっていました(図3)。また多くの成熟したメスは、左側の生殖孔のみが開いていました(図3)。これは、マブイガニの雌雄が腹を互いに向けて交尾する際、メスは左の生殖孔にオスの発達した右の生殖器を挿入させるのみで、メスの体右側は生殖行動に使用しないことを示唆しています。なお、オスの縮小した左の生殖器の機能は不明ですが、発達した右の生殖器に寄り添うような形になっていることから、左の生殖器から右の生殖器に精子を流し込んでいるのかもしれません。非常に多様化したカニ類のなかで、マブイガニがなぜ左右非相称の生殖器をもつに至ったのか、進化学的・生態学的意義については謎のままです。

 命名の由来:マブイガニMabui calculusは、形態学的にも分子遺伝学的にもオウギガニ科に属することが分かりましたが、オウギガニ科に含まれるどの属や種にも該当しないため、新属新種Mabui calculusと命名しました。なお、属名のMabuiは、沖縄の言葉で魂を指す「マブイ」です。沖縄では、驚いた際に魂が体から落ちると考えられていて、我々がマブイガニの形態的特徴を観察した際に感じた驚きに因みます。また種名のcalculusはラテン語で小石を示します。これは、マブイガニの色や形、大きさが、生息している環境にある小石に似ていることに由来します(図4)。


図1カニ類の雌雄の一般的な左右相称の生殖器 (ムツハオウギガニの例)


2 マブイガニ (甲幅 7.2 mm)とその生息地.


図3 マブイガニ雌雄の左右非相称な生殖器。


図4 マブイガニが見つかった環境の底質。矢印はマブイガニの成体を示す。

<論文情報>
  1.  論文題名:Remarkable bilaterally asymmetrical gonopores and gonopods in a new genus and species of brachyuran crab from the Ryukyu Islands, Japan (Decapoda: Brachyura: Xanthidae) (琉球列島より発見された新属新種のカニの記載と、それにみる雌の生殖孔と雄の生殖肢の異例な左右非相称性)
  2.  雑誌名:Journal of Crustacean Biology
  3.  著 者:Tohru NARUSE (成瀬 貫)1, Tadafumi MAENOSONO (前之園唯史)2 & P. K. L. NG (ピーター K. L. ウン)3
    1琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設 准教授
    2(株) かんきょう社 代表
    3シンガポール国立大学 リーコンチェン自然史博物館 教授・館長
  4.  DOI:https://doi.org/10.1093/jcbiol/ruab022          
  5. アブストラクトURLhttps://academic.oup.com/jcb/article/41/2/ruab022/6296812?login=true