令和2年度入学生の諸君。丸1年遅れという形になってしまいましたが、本日ここに、諸君の入学を祝う機会をもてたことは、私どもの大きな喜びとするところです。改めて、琉球大学へのご入学をお祝いいたします。おめでとう。
令和2年度に入学を許可されたのは、学部1,564名、大学院268名、総数1,832名でした。この令和2年度入学生諸君を、琉球大学は心から歓迎します。本式典には、ご来賓、保護者・ご家族、ならびに同窓生の方々のご臨席はかないませんでしたが、インターネットで繋がっています。保護者・ご家族の皆様にも、改めてお祝いを申し上げます。
さて、ちょうど諸君の入学からのこの1年は、日本を含め全世界が新型コロナウイルス感染症の感染拡大と戦ってきた1年でした。中でも大学は、あらゆる国において、この感染症から大きな影響を受けた場所のひとつとなりました。なぜかというと、大学は何千人あるいは何万人という若者が、キャンパスという物理的な空間を共有し、種々の科目を学ぶためにそれぞれの教室に集まっては散り、散っては集まる場だからです。また、いろいろな学部の学生が多様なサークル活動で交流する場でもあるからです。この大学の肝とも言える、多くの若者が集う場所であるという条件は、感染症の拡大を防ぐにはたいへん難しいものとなります。
本学でも、どのようにして学生や教職員の命と健康そして安心を守りつつ、学生諸君の学びの機会を最大限確保することができるのか、という難しい課題への対応策を懸命に考えました。その結果、しばらくの準備期間を経て授業は遠隔方式で行うこととなり、サークル活動も制限することにせざるを得ませんでした。高度に社会的な動物として進化してきた我々ホモ・サピエンスにとって、直接顔を合わせて、表情や動作豊かに肉声で語り合うことは、社会の円滑な運営において最も大事なことです。この最も大事なことを制限するということ、それも、教育の場である大学でこれを行うということは、私としても誠に辛いことでした。諸君には、とくに学部学生諸君には、琉球大学の学生になったという実感が十分に持てないままに、慣れない遠隔授業が始まり、それに忙しく対応していたら1年が経ってしまったと、感じられているのではないでしょうか。孤独感を感じさせてしまった学生もいたことは大変申し訳なく思いますが、そんな中で、よく頑張ってくれました。
先日執り行った卒業式および大学院修了式において卒業生・修了生への告辞でも述べましたが、平常時とは異なった状況下での経験の中から、この世代でないと得られなかった新たな学び・気づきを得ていてほしいと願っています。
諸君の得た学び・気づきはそれぞれ多様でしょうが、共通項もあるでしょう。私が非常に大きなことだと思うのは、多くの授業がインターネットを使った遠隔授業となり、そのメリットとデメリットを諸君が身をもって体験しているということです。これからの社会はますますデジタル化が進みます。単にデータがデジタル化するというだけではなく、すべてがインターネットに繋がり、そこに人工知能(AI)が介在する社会、いわゆる「超スマート社会」へと向かっています。それは、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した社会です。諸君はこの一年間、この「超スマート社会」への対応をめぐる重要な経験をしてきました。大事なポイントは二つあると思います。
ひとつは、インターネットを活用した遠隔授業には、これまでの対面形式での授業にはない、よい面があることを体験したことです。そのよい面をさらに伸ばしていく工夫、あるいは不足する側面を補う工夫を積極的に考え、試みてくれればと思います。授業は教員と学生でともに作り上げていくものですから、よい改善アイデアが出てくれば、担当教員に遠慮なく提案していただければと思います。これは、「超スマート社会」のサイバー空間をよりよくすることに繋がるものです。
もうひとつは、オンラインでしか繋がることができない辛い状況を経験することにより、直接顔を合わせるフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションがいかに大事かを痛感したことです。これは、多くの会議が遠隔方式になって、私自身が痛感していることでもあります。当たり前だったことが制限されてみて、改めてその重要性を深く理解できたのです。ワクチンの本格普及などにより、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが普通にできるようになったときに備え、我々ホモ・サピエンスが大切にしてきた人間らしいコミュニケーションをより効果的に行うための心構えとスキルを磨く準備をしていきましょう。これは、「超スマート社会」のフィジカル空間をよりよくすることに繋がるものです。サイバー空間が大きくなればなるほど、人と人とのいわば体温を感じられるようなコミュニケーションの必要性・重要性も大きくなることを私たちは学んだわけです。諸君は、このことをしっかり理解して、今後社会に出た時の自分自身の価値をも想定して、これからの学びに活かしていただければと思います。
全世界には、いま約3億人の大学生がいます。そのほぼ全員が、コロナ禍の中で諸君と同じような辛い経験をしています。サイバー空間・フィジカル空間それぞれのよさと限界を、辛い経験の中で身をもって学んだ諸君を含むこの世代が、沖縄、全国、そして世界各国・各地でアフターコロナの時代をよりよいものにするために重要な役割を果たしてくれるに違いない。私はそう考えています。
琉球大学は、多様性に富む亜熱帯の自然と、個性豊かな沖縄の文化に囲まれた、特色ある優れた教育・研究の場です。71年前の創立時以来、「地域に根差す、地域のための大学」としての役割を果たし続けてきました。8万6千名を超える卒業生・大学院修了生は県内・全国・世界で活躍しています。また、県内・全国・世界には、本学と連携協定を結んでいる多くの組織があり、大きなネットワークがあります。この環境の中で、諸君が大いに成長してくれることを心から期待するとともに、大学としても、まだまだ制約のある中ですが、諸君の成長のための支援を精一杯行う所存です。
令和2年入学生諸君のこれからの大学生活が、コロナ禍を乗り超えて、少しでも楽しく実り多いものになっていくことを願って、私の告辞といたします。
令和3(2021)年4月6日
国立大学法人 琉球大学
第17代学長 西田 睦