研究成果

市場で買った魚は世界で2例目の稀種だった! ~北大東島で漁獲された日本初記録のヒメジ科魚類~ 目標14:海の豊かさを守ろう

     琉球大学大学院理工学研究科 博士前期課程の篠田 将太郎 大学院生と同修了生の金子哲平 氏、理学部海洋自然科学科の小枝 圭太 助教による研究成果が、動物分類学の学術雑誌「Species Diversity」誌に掲載されました。

     <発表のポイント>

    ◆北大東島沖で漁獲されたヒメジ科魚類Parupeneus moffittiを那覇市内の泊いゆまちにて購入しました。

    ◆本種はこれまでマリアナ諸島からの1例(3標本)のみが知られており、世界で2例目、日本初記録となります。

    ◆大東諸島、マリアナ諸島というこれまで大陸とつながったことのない絶海の孤島からのみ記録されていることから標準和名「コトウヒメジ」を提唱しました。

    <発表概要>
     琉球大学大学院理工学研究科 博士前期課程の篠田将太郎 大学院生と同修了生の金子哲平 氏、理学部海洋自然科学科の小枝圭太 助教による研究チームにより、これまで世界で1例しか報告がなかったヒメジ科ウミヒゴイ属の稀種、Parupeneus moffittiを日本初記録種として報告しました。
     ヒメジ科魚類は沖縄県内では「かたかし」として流通し、スーパーにも並ぶことがある食用魚です。下あごに2本の特徴的なひげをもつことから英語ではGoatfish(ヤギ魚)とも呼ばれます。世界で105種が知られ、うち日本国内からは29種が知られていました。Parupeneus moffittiはマリアナ諸島の3標本をもとに1993年に学名がつけられて以来、追加の採集記録がない極めて稀な種でした。よって、本研究が世界で2例目(4標本目)、日本初記録となります。本種にはこれまで和名がなかったことから、本種がこれまでマリアナ諸島および大東諸島という絶海の孤島からのみ記録されていることに因み新たな標準和名「コトウヒメジ」を提唱しました。

    研究の背景
     大東諸島は沖縄本島から約360 km東に位置し、周りが水深1000 m以上の深海に囲まれている海洋島(注1)で、近年ホラアナヒスイヤセムツ*1やサイハテユゴイ、シマグツ*2など、ハワイをはじめとする海洋島にのみ分布する魚類が相次いで発見されています。また、水深100–300 mのトワイライトゾーン(注2)はダイビングでのアクセスが困難であることから研究が進んでおらず、近年になっても石垣島沖水深210 mで釣獲されたエレキハゼ*3をはじめ新種の発見が相次いでいます。

    (参考:琉球大学プレスリリース)
      *1 2025年3月11日付  https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/64937/
      *2 2026年8月6日付  https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/80128/
      *3 2025年11月27日  https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/72516/


    <研究内容>
     本研究のきっかけは、魚市場で売られていた1個体の魚でした。当時大学院生であった金子哲平氏が那覇市内の鮮魚流通販売施設(泊いゆまち)にて鮮やかな赤色の体色と2本のあごひげをもった珍しい魚が販売されていることに気づき、研究用標本として購入し、大学にもちかえって研究用の標本にされました(図1)。
     同じく大学院生でありヒメジ科ウミヒゴイ属の研究にとりくんでいた篠田将太郎氏がこの標本をみたところ、鰭やひげの長さ、鰓耙(注3)の数、色彩などがこれまで日本から知られているウミヒゴイ属とは異なることに気が付き、これまでに世界で知られているウミヒゴイ属魚類35種と比較したところ、グアムおよび北マリアナ諸島のアナタハン島から過去にわずか3標本のみしか知られていないParupeneus moffittiという種であることが明らかとなりました。そこで直ちに、泊いゆまちや沖縄県漁連(イマイユ市場)、北大東村水産組合の方々のご協力のもと、その流通経路を追跡した結果、この魚が北大東島北東沖の水深180 mで漁獲されたものであることが分かりました。
     さらに、これまで本種の遺伝子解析は1度も行われていませんでしたので、本研究によってその遺伝子を調べたところ、形態が類似しておりハワイに生息するParupeneus chrysonemusと近縁であるものの、遺伝的にも別種といえるだけの違いがあることが明らかとなりました。Parupeneus moffittiはひげが長いこと、黒色帯や黒色斑がないこと、背中に桃色の縦帯があることなどを特徴としています。Parupeneus moffittiが含まれるposteli種群は紅海に生息する1種を除く4種が海洋島からのみ記録されていることから、本種も海洋島に適応していると考えられます。本種が北大東島において発見されたことは、北大東島を含む大東諸島はマリアナ諸島をはじめとする海洋島との生物地理学的なつながりがあるとされるこれまでの仮説をさらに裏付けることになりました。
     この種にはこれまで一度も和名(日本語の名前)が付けられたことがなかったため、新標準和名「コトウヒメジ」を提唱しました。本種が生息している大東諸島とマリアナ諸島はともに太平洋上にあり、主要な陸地から離れている孤島であることからこの名前を提唱しました。


    図1 本研究で北大東島から記録されたコトウヒメジParupeneus moffitti

    <用語解説>
    (注1)      海洋島:これまで大陸とつながったことが一度もない島。ハワイや大東諸島、小笠原諸島など。
    (注2)      トワイライトゾーン:沖縄海域では水深100–300 m程度の弱い光が届く薄暗い水深帯。この水深帯に生息する生き物についてわかっていることは少ない。
    (注3)      鰓耙:鰓の中にある鰓弓内側にある突起。種によって数が異なる。


    <論文情報>
    (1)    論文タイトル:First Japanese record of Parupeneus moffitti (Teleostei: Mullidae) from Kitadaito Island(北大東島から得られた日本初記録のヒメジ科魚類Parupeneus moffitti)
    (2)    雑誌名:Species Diversity
    (3)    著者:Shotaro Shinoda*, Teppei Kaneko, Keita Koeda
    (4)    DOI番号:10.12782/specdiv.31.263
    (5)    アブストラクトURL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/specdiv/31/2/31_SD26-15/_article/-char/ja