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The International Association for Vegetation Science Editors Award受賞

The International Association for Vegetation Science Editors Award受賞

 琉球大学理学部の久保田康裕教授の研究グループの論文が、国際植生学会The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Awardを受賞しました。IAVS Editors Awardは、各年のJournal of Vegetation Science誌掲載論文の中の、最も優れた論文に贈られる賞です。なお、IAVS Editors Awardはアジアの研究者としては、今回が初の受賞です。

久保田教授がこのたび受賞した論文では、様々な種類の木本植物で構成される世界各地の森林が、地球の歴史上どのように多種多様なタイプの森林へと多様化してきたのかについて、地球全体の森林観測データと木本植物の巨大系統樹を統合的に分析することによって解明しました。具体的には、現在の熱帯林は今から約2億年以上前のゴンドワナ大陸(現在の南アメリカに相当する地域)で起源した後、大陸の分裂や気候変動に対応して、南アメリカやアフリカ、東南アジアにそれぞれ特徴の異なる熱帯林を多様化させてきたことが明らかになりました。さらに、東アジアや北アメリカ、ヨーロッパの温帯林を構成する木本植物の種類が類似していること、東アジアの温帯林は多様性が高く熱帯林と種類が近縁であることなどから、温帯林はアジアを起源として地球上の各地域に広まったことが明らかになりました。

発表者
久保田 康裕(琉球大学理学部 教授)
塩野 貴之(琉球大学理学部 産学官連携研究員)
楠本 聞太郎(琉球大学理学部 博士研究員)
Werner Ulrich(ニコラスコペルニクス大学 教授)

発表雑誌
Journal of Vegetation Science

タイトル
Environmental filters shaping angiosperm tree assembly along climatic and geographic gradients (オープンアクセス)

 この論文では、森林調査プロットの種組成情報(木本種ごとの個体数データ)を世界中より収集してデータベース化し、森林の多様性を地図化しました。以下の地図は、赤色の森林ほど被子植物木本種の多様性が高いことを示しており、低緯度の熱帯で種多様性が高く高緯度の温帯で低いという多様性の勾配があることがわかります。


 さらに、この論文では、森林を構成する被子植物木本種の分子情報を元にした巨大系統樹を合わせて分析して、森林の群集系統構造を分析しました。具体的には、「森林を構成する木本種間の系統がどれくらい似ているか」を7つの生物地理区間で比較しました。系統的に近縁な種(種類)が同じ場所に集まって分布することを、系統的集中(クラスタリング)と呼びます。系統的に近縁な種は、進化的に近い共通祖先をもち、似たような生息環境を利用する生態学的ニッチを持っていると考えられます。したがって、森林調査プロット単位という局所群集で観察される系統的クラスタリングは、地域的に生育する種の全種から構成される種プールから局所群集が形成されたプロセスに、環境や地理的制約による種の“ふるい分け”が作用していることを示唆します。この論文では、系統的クラスタリングが一貫して強く作用していることを明らかにしました。興味深い点は、地球全体スケールでの種の“ふるい分け”プロセスにおいて、系統的クラスタリングが顕著だったことです(下図の中段)。一方、生物地理区スケールでは、系統的クラスタリングは有意ではありませんでした(下図の下段)。これらの結果は、局所的な森林群集の歴史的な成り立ちに、全球スケールの種プール効果が作用していることを意味します。


 さらに、この論文では、森林調査プロット間の系統的ベータ多様性(非類似性)を計算して、世界中の森林が進化的にどのように多様化してきたのかを分析しました。以下のグラフは、森林の系統的類似性を色で示しています。シンボルが同じ色の森林は、森林群集が系統的に類似していることを示しています。


 熱帯林と温帯林が系統的に異なる群集であることが明らかですが、熱帯林と温帯林それぞれが、大陸間で特徴の異なる熱帯林を多様化させてきたことがわかります。熱帯ではプロット間の系統が大きく異なっており、温帯ではプロット間の系統が比較的類似していました。これは、熱帯林と温帯林のそれぞれの起源やその歴史的な広まり、あるいは大陸が分断した影響などを示唆しています。

 また、東アジア温帯林は相対的に東南アジア熱帯林と相対的に類似していることも明らかで、温帯林がアジアで起源して、日本などの東アジアを経由して、全球の温帯に広がって多様化したという“Out-of-Asia仮説”を支持する結果が示唆されました。

 私たちが野外で森林を観察する場合、森林を構成する樹木の種組成(多様性)をその場所の局所的な環境要因だけで考えがちです。しかし、森林の多様性の形成プロセスには、森林帯の歴史的起源や、別の大陸の森林の多様性、大陸分断など、全球スケールの進化的プロセスが反映されているというのは、とても興味深いことです。