研究成果

古くから知られる西日本の流水性サンショウウオから2新種の発見 ~ブチサンショウウオには実は3種が含まれていた~

古くから知られる西日本の流水性サンショウウオから2新種の発見
~ブチサンショウウオには実は3種が含まれていた~

 琉球大学教育学部 富永篤 准教授らの研究チームによる研究成果が、動物分類学の学術雑誌「Zootaxa」誌に掲載されました。
 本件に関する取材については、下記のとおりになりますので、よろしくお願いします。
<発表のポイント>
 ◆どのような成果を出したのか
遺伝子解析、形態解析の結果、西日本を代表するサンショウウオであるブチサンショウウオHynobius naeviusの中に実は3種のサンショウウオが含まれていることが明らかとなり、中国地方の集団をチュウゴクブチサンショウウオHynobius sematonotos、九州北東部の集団をチクシブチサンショウウオHynobius oyamai として新種記載(命名)しました。
 ◆新規性(何が新しいのか)
1838年に記載され古くから知られている日本の代表的なサンショウウオの中に実は3種が含まれており、日本の両生類の多様性が予想以上に高いということを明らかにした点になります。
 ◆社会的意義/将来の展望
世界のサンショウウオ属のうち、半数以上の種が日本に固有種として分布しており、この仲間の多様性の把握は日本の動物相の形成史を理解する上で重要な知見となります。また今回の分割に伴い、各種の分布域は狭くなり、その分、各種の絶滅リスクも高い事になります。したがって、今回の結果は各種の保護対策の再検討の必要性があることも示唆しています。

<発表概要>

 江戸時代に記載されたブチサンショウウオ:島国である日本にはオオサンショウウオに代表されるような固有の両生類が多数見られます。西日本を代表するサンショウウオであるブチサンショウウオHynobius naeviusもその一つで、江戸時代にシーボルトによりヨーロッパに持ち帰られた標本に基づき、1838年記載されたもっともよく知られた日本固有のサンショウウオです。これまで世界では41種のサンショウウオ属の種が知られていましたが、そのうち24種は日本の固有種で、この仲間の多様性の中心は日本にあります。このサンショウウオ類は近縁種間でも形態的な類似性が高く、従来の形態学的な比較のみでは多様性の実態把握が困難でした。


 新種の発見の経緯:琉球大学教育学部の富永篤准教授、京都大学の松井正文名誉教授、同西川完途准教授は、今回の研究で中国地方から九州北部の広域に分布するブチサンショウウオを遺伝学的手法、形態学的手法により比較した結果、これまでブチサンショウウオとされてきた種には、遺伝的には異質な3つの集団が含まれており、これら3集団は系統的にはそれぞれ別の種類のサンショウウオに近いことを明らかにしました(図1)。形態学的な比較の結果、これら3集団は互いによく似ているものの、形態的にも違いがみられることから、広義のブチサンショウウオHynobius naeviusは三種に分けられることが明らかとなりました。

 3種の違い:真のブチサンショウウオHynobius naeviusは、長崎県、佐賀県などの集団であることが先行研究から明らかなことから、それ以外の中国地方の集団をチュウゴクブチサンショウウオ Hynobius sematonotos、九州北東部の集団をチクシブチサンショウウオHynobius oyamai として新種記載しました。ブチサンショウウオは、青紫色の体色で背中に斑紋がみられず、体が大きく(図2)、鋤骨歯数が多く、相対的な鼻孔間の距離が小さく、相対的に後肢が短く、鋤骨歯列が深いのに対し(図3)、チュウゴクブチサンショウウオは赤紫色に近い体色であることが多く灰褐色の斑紋を背中に持ち、体が小さく、鋤骨歯列が少なく、相対的な鼻孔間の距離が大きく、相対的に後肢が長く、鋤骨歯列が浅いのが特徴で、またチクシブチサンショウウオは、大きさと体色はブチサンショウウオに類似しているが、時として銀白色の斑紋を背中に持ち、相対的な鼻孔間の距離が大きく、相対的に後肢が長く、鋤骨歯列は前二者の中間的な深さであることが特徴です。



 新種発見の重要性:1838年に記載され、古くから知られている日本の代表的なサンショウウオの中に実は3種が含まれていたという事実は、これまで考えられていた以上に、日本の両生類相の多様性が高く、独自性も高いことを示唆します。日本固有のサンショウウオ類の多様性の実態解明は、日本の動物相の多様性の形成史を理解するうえで、重要な知見となると考えられます。一方で、ブチサンショウウオからは2008年にも現在のコガタブチサンショウウオHynobius stejnegeriが再確認されたことに伴い分割されており、今回の新種記載による分割で、個々の種の分布はさらに狭い範囲となりました。各種の分布が狭いということは、それぞれの種の絶滅リスクも高い事を意味し、今回の結果は各種の分布域で保護対策に関する再検討がなされるべきことを示唆します。


<用語解説>
鋤骨:頭蓋骨を構成する皮骨性由来の骨で、一次口蓋を構成する最前部の骨。サンショウウオ類では、この骨に鋤骨歯列を有し、この歯列が種ごとに異なる特徴を持つことが多く、識別形質の一つとして利用される。
ブートストラップ値:系統樹において、それぞれの枝の分岐が形成する単系統群の確からしさを示す統計量。0-100の値で示し、100に近いほど確からしい。

<論文情報>
(1) 論文タイトル: Two new species of lotic breeding salamanders (Amphibia, Caudata, Hynobiidae) from western Japan
(日本語訳: 西日本の流水産卵性サンショウウオ(両生綱,有尾目,サンショウウオ科)の二新種)
(2) 雑誌名:Zootaxa
(3) 著者:Atsushi Tominaga*, Masafumi Matsui, & Kanto Nishikawa 
富永篤(琉球大学 教育学部 准教授)・松井正文(京都大学 大学院人間・環境学研究科 名誉教授)・西川完途(京都大学大学院 地球環境学堂(併任:人間・環境学研究科) 准教授)
(4) DOI番号:https://doi.org/10.11646/zootaxa.4550.4.3
(5) アブストラクトURL:https://www.mapress.com/j/zt/article/view/zootaxa.4550.4.3
(6) 注意事項:論文公開日時 平成31年1月29日午前中(日本時間)