お知らせ

令和元年度 卒業式・修了式 学長告辞

~2020年、琉球大学は開学70周年を迎えます。~
Island wisdom, for the world, for the future. 


本日ここに、令和元年度 琉球大学卒業式ならびに大学院修了式をやや簡略化した形になりましたが、挙行できることを、たいへん嬉しく思います。新型コロナウイルス対策のために、この会場に、多くの卒業生・修了生、ご家族、ご来賓、同窓の皆様とご一緒できないことは誠に残念ですが、この会場と皆様とはインターネットによる映像の同時配信を通じて繋がっています。これによって、全ての卒業生・修了生とこの式を共有し、関係者の皆様にはご一緒に卒業生・修了生の巣立ちを祝福していただけているものと願っています。

さて、本日学位を授与されたのは、学部学生 1,499 名、大学院学生 257 名、 総計 1,756 名です。大きな可能性を秘めた皆さんを、琉球大学から社会へ送り出せることは誠に嬉しいことです。琉球大学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。また、これまで、勉学に励む皆さんを物心ともに支えてくださったご家族・ご友人の方々にも、心からのお祝いと感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

卒業生・修了生の皆さん。この機会にいま一度、琉球大学での学びの成果を振り返ってみてください。皆さん、琉球大学でどのように成長することができたでしょうか?

「果たして、どれだけ成長できたかなあ」と不安に思う人もいるかもしれません。実は私自身、大学卒業の頃、そう感じていました。しかし、社会に出て仕事をするようになって、大学時代に学び、また先生方や友人たちと議論して考えたことが、さらにはそこで得た多くの人との繋がりが、卒業の頃に感じていた以上に、自分の貴重な財産となっていることに気づくようになりました。きっと皆さんも、いま自分が思っている以上に、琉球大学で多くの大切なことを学び、獲得したに違いありません。

もうひとつ、頭にとどめておいて欲しいことがあります。それは、皆さんの大切な学びには、沢山の人による支えがあったということです。親・家族の支援、奨学金など社会からの支援、そして本学の教職員からの支援―――これらは「そういえば、お世話になったなあ」と思い浮かぶことでしょう。しかし例えば、数多くの企業や個人を訪ね、皆さんに対する支援への寄附のお願いを、ご自身の忙しい時間の隙間を縫って続けてくださっている方々の努力がある、というところまではなかなか見えないでしょう。私が、ここで敢えてこのようなことを述べるのは、なにも皆さんに感謝を強いるためではありません。そうではなくて、皆さんが気づいていないくらい多くの方々の声援が、皆さんの背中を押しているということを伝えたいがためです。

皆さん、これから社会に出ていくわけですが、孤独な状態で放り出されるのではありません。うしろに、こうした暖かい多くの声援があることを忘れずにいてほしいと思います。自信を持って、社会へ飛び立ってください。

いま世界は、知識集約型社会へと急速に変貌しつつあります。これから皆さんが活躍する社会は、多くのモノやコトがインターネットに深くつながり、そこに人工知能(AI)が介在してくる「超スマート社会」とも言われる社会です。AIは私たちに有用な判断材料を提供してくれるようになるでしょう。しかし、少なくともいまのAIは、実は自らが出す答えの意味を理解していません。したがって、大事な判断は、最後には人間が行う必要があります。人間の総合的知識と知恵が必要だということです。皆さんは、本学でこうした知恵の基礎を身につけています。時代の急流に押し流されるのではなく、急流を乗りこなす人、これを社会のため弱者のためにうまく活用する人になってほしいと思います。

この「知恵」について、少し掘り下げてみましょう。

先に述べた「知識集約型社会への急速な変貌」とも関わって、アメリカ式の「株主第一主義型資本主義」の行き詰まりが、本家であるアメリカでも認識されるようになりました。主要企業の経営者の団体であるビジネス・ラウンドテーブルが、“株主第一主義を見直し、従業員や地域社会などの利益をも尊重した事業運営に取り組む”という宣言を出したのです。昨年、8月のことです。この宣言の内容がどのように実施されていくのかは注意深く見守る必要がありますが、日本の産業界も国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を考慮した企業倫理や戦略を掲げるようになってきました。地球環境問題から人間社会、貧困の問題までの多くの課題を包摂的にとらえることが、これからの社会に求められるようになってきたのは確かなようです。

日本社会は、人口増加局面から人口減少局面に入りました。人口増加局面で存在する経済的メリット、いわゆる人口ボーナスはもうありません。そのメリットを受けて実現した戦後の経済成長時代の目標設定や企業経営・社会運営の仕方は、もう通用しません。量を重視することから、質を重視することへの転換が不可欠です。クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上、つまり一人ひとりの人生の質・生活の質の向上を目指すことがとりわけ重要であり、産業界にとってもここに活路があるのではないかと思われます。

歴史を振り返ると、成熟期に入った社会では、豊かな文化の華が開くことが多いようです。QOLの向上を図るうえで、文化とその多様性は極めて重要だと言えます。文化の多様性こそが、人生に、そして社会に、豊かな意味を与えるからです。文化の多様性とその重要性を学ぶのに、多様な文化が行き交う万国津梁の地である沖縄、そしてそこに立脚する琉球大学は、まさに最適な場です。ここで学んだ皆さんは、これからの時代に特に重要となる知恵の基礎を身につけているはずです。ぜひそれを磨き、社会で活かしていってほしいと思います。

琉球大学は、これまでに8万人を超える卒業生・修了生を社会に送り出してきました。彼ら彼女らは、沖縄地域を、日本社会を、そして世界の諸活動を支えています。私はこの間、国・県・市町村などの自治体、さまざまな企業や組織を訪ね、それらの責任者・経営者にお会いしてきましたが、「琉大の卒業生は優秀ですよ」「頑張ってくれていますよ」と言ってもらえることがよくあり、たいへん嬉しく思っています。今年度の卒業生・修了生の皆さんが、社会で活躍するそうした先輩たちの中に、新たに加わってくれることを心強く思います。

皆さんの母校となる琉球大学は、今年、創立70周年を迎えます。人間で言えば古希にあたりますが、大学としては、まだまだこれから伸びていく青年です。その成長に期待していただきたいし、今度は先輩として後輩を支援していただければと思います。また、学び直しが必要に思えたときなどには、ぜひ連絡を取ってください。私たちは、皆さんとの繋がりを大切にしたいと思っています。

結びに、皆さんのこれからの健闘と活躍を心から期待するとともに、それぞれが幸せな人生を切り拓いていかれることを祈念して、私からのお祝いの言葉といたします。

令和2(2020)年3月24日
国立大学法人 琉球大学
第17代学長 西田 睦