研究成果

採集例の少ないゾウムシ・シロオビクチカクシゾウムシを西表島から初記録
― リュウキュウガキの枯死木を利用する成虫の生態と 八重山諸島での分布記録に新知見 ― 目標4:質の高い教育をみんなに目標15:陸の豊かさも守ろう

     琉球大学熱帯生物圏研究センター 西表研究施設の和智 仲是(わち なかただ)助教は、東京農業大学の保坂 恭吾 氏、荒井 周 氏、小島 弘昭 教授、九州大学の平井 幸成 氏らとともに、これまで日本では石垣島からのみ知られ、採集例も少ない、珍しいゾウムシの一種、シロオビクチカクシゾウムシ Cyamobolus sturmii を、西表島から初めて記録しました。

     さらに研究グループがあらためて石垣島での調査を行ったところ、成虫が昼間にリュウキュウガキの枯れ木にある穴の内部から複数見つかり、1個体がそのような穴に入る様子も確認されました。これらの記録は、本種の日本国内での分布を更新するとともに、これまでほとんど知られていなかった成虫の生態の一端を明らかにするものです。

     本成果は、2026年10月16日付で、生物の分布情報を専門に扱う国際学術誌 Check List に掲載されました。

    <発表概要>
     シロオビクチカクシゾウムシ Cyamobolus sturmii は、主に東洋区からオーストラリア区に分布するゾウムシ科クチカクシゾウムシ亜科Cyamobolus 属に属するゾウムシの一種です。クチカクシゾウムシ亜科の多くは吻が体に対して後ろ向き(口を隠しているように見える)であることが特徴で、日本ではこれまで石垣島からのみ記録されているものの、採集例自体が少なく、その生態についても十分な情報がありませんでした。1970年代に採集された石垣島産標本の記録が、国内の分類群特化型データベースである日本産ゾウムシデータベース(注1)に残されていますが、近年の標本に基づく記録や詳細な自然史情報は限られている状態です。
     本研究のきっかけとなったのは、共同研究者の平井氏(九州大学、当時:東京農業大学)が和智助教、荒井氏らとともに行った調査中に西表島で採集した1個体のゾウムシ(図1上)でした。この個体を詳しく調べたところ、背面の特徴的な模様(白い帯のような模様)などからこれまで日本では石垣島からのみ知られていたシロオビクチカクシゾウムシであることが分かりました。これを契機に、保坂氏、小島教授と和智助教がそれまで石垣島で得られていた標本や過去のデータベース記録もあわせて再検討し、本種の分布と生態に関する情報を整理しました。
     研究グループは、2013年と2021年に石垣島で得られた標本、および2024年に西表島で得られた標本を検討しました。その結果、西表島産の1個体を本種と同定し、西表島からの初記録として報告しました。これにより、日本における本種の分布が、石垣島だけでなく西表島にも及ぶことが明らかになりました。
    また、石垣島では、2021年に合計15個体の成虫が、昼間、リュウキュウガキ Diospyros maritima の枯死木にある穴の内部から見つかりました(図1下)。さらに、1個体がそのような穴に入る様子も観察されました。これらの観察から、リュウキュウガキが本種の寄主植物である可能性、枯死木の穴が羽化した成虫が脱出したときにできたものである可能性、脱出後も本種成虫は枯死木の穴を休息場所などの微小な生息場所として利用している可能性が示されました。
    一方で、幼虫、幼虫による食痕、産卵、枯死木から成虫が羽化する場面などは確認されていません。そのため、リュウキュウガキが本種の寄主植物である可能性は示唆されるものの、「寄主植物」として確定するためには幼虫が実際にその木の中で発育することまで確認するなど、さらなる証拠が必要です。
     今回の研究では、標本そのものの検討に加えて、過去の文献、日本産ゾウムシデータベース、国内の自然史標本情報を検索できるデータベースS-Net(注2)、国際的な生物多様性データベースGBIF(注3)、市民科学プラットフォームiNaturalist(注4)など、公開されている生物多様性情報も確認しました。その結果、本種は国際的なデータ基盤上では詳細な記録が非常に少ない一方、日本産ゾウムシデータベースには1970年代の石垣島産標本の情報が残されていることが確認されました。今回の事例は、地域や分類群に特化したデータベースに蓄積された標本情報を論文化し、標準化された生物多様性情報へつなげていくことの重要性も示していると考えています。


    図1. 上:西表島産シロオビクチカクシゾウムシの成虫(撮影:保坂恭吾)。
    下:石垣島で観察された、リュウキュウガキの枯死木中のシロオビクチカクシゾウムシ成虫(撮影:小島弘昭)。

    <今後の展望>
     今回の記録から、シロオビクチカクシゾウムシは八重山諸島で、これまで記録されていた以上に広く分布している可能性があります。また、成虫が昼間に枯死木の穴の内部に潜んでいるのであれば、本種がこれまであまり採集されてこなかった理由の一つは、そのような生活様式にあるのかもしれません。今回確認した日本産記録はいずれも春から初夏に集中していることから、今後はこの時期に枯死木、特にリュウキュウガキの枯死木やその穴を重点的に調べるとともに、今回のような灯火を用いた夜間調査を組み合わせることで、本種の分布や生活史をさらに明らかにできると期待されます。
     さらに、今回の観察からリュウキュウガキが本種の寄主植物である可能性が示唆されましたが、幼虫の発育や成虫の羽化はまだ確認されていません。今後、枯死木内部の幼虫や蛹の探索などを進めることで、本種とリュウキュウガキとの関係をより明確にできると考えられます。
     また、本研究では、Cyamobolus 属について分類学的な再検討が必要であることも指摘しました。現在 C. sturmii とされている琉球列島、フィリピン、ジャワの記録がすべて同一種に属するかどうかについて、今後、各地域の標本を直接比較して検討する必要があります。
     そして、本研究で明らかになったように、国際的な生物多様性データ基盤に十分反映されていない昆虫の標本情報・分布情報が、国内の標本コレクションや分類群特化型データベースには残されている場合があります。こうした地域の分類学的知識を掘り起こし、標本情報や自然史観察とともに公開・標準化していくことは、地域の生物多様性をより正確に把握し、将来にわたって利用できる情報基盤をつくるうえでも重要だと考えています。

    <補足説明>
    1) 日本産ゾウムシデータベース
    日本のゾウムシ類について、学名や分布、過去の記録、関連文献などをまとめた、専門家による分類群特化型のオンラインデータベース(http://de05.digitalasia.chubu.ac.jp/)です。このような分類群特化型のデータベースは、専門家の知識や過去の標本記録を体系的に残す重要な情報基盤ですが、すべての分類群や地域で整備されているわけではありません。
    2) S-Net(サイエンスミュージアムネット)
    S-Netは、日本国内の博物館・研究機関などが所蔵する自然史標本情報を検索できるデータベースです。標本の採集地、採集日、所蔵機関などの情報が公開されており、一部のデータはGBIFにも共有されています。
    3) 国際的な生物多様性データベース GBIF
    GBIF(Global Biodiversity Information Facility)は、世界各地の研究機関や市民科学プラットフォームが保有する生物の分布・標本・観察記録を集約し、国際的に共有するデータ基盤です。生物多様性研究や保全の基礎情報として利用されています。
    4) 市民科学プラットフォーム iNaturalist
    iNaturalist(アイナチュラリスト)は、市民や研究者が生き物の写真や観察情報を投稿し、種名の候補を共有・確認できるオンラインプラットフォームです。投稿された観察記録のうち、一定の条件を満たしたものの一部はGBIFにも共有されます。

    <論文情報>
    (1) 論文名:Specimen-based records of the rarely collected weevil Cyamobolus sturmii Boheman, 1837 (Coleoptera, Curculionidae, Molytinae) from the Yaeyama Islands, southwestern Japan, with the first record from Iriomote Island and notes on adult microhabitat
    (2) 雑誌名:Check List 22 (5): 1009–1016
    (3) 著者名:Kyôgo Hosaka* (equally contributed), Nakatada Wachi (equally contributed), Kosei Hirai, Shu Arai, Hiroaki Kojima
    *: 責任著者
    (4) URL:https://checklist.pensoft.net/article/210916/
    (5) DOI:https://doi.org/10.15560/22.5.1009