研究成果

2024年度の記録的海洋熱波、沖縄から本州まで 全国的なサンゴ白化を引き起こす ~北上しているサンゴにも深刻な影響~ 目標14:海の豊かさを守ろう

     琉球大学理学部の栗原晴子教授らの研究チームによる研究成果が、国際的な学術雑誌「Scientific Reports」誌に掲載されました。

     <発表のポイント>

    • 成果:2024年に日本沿岸を襲った記録的な海洋熱波(注1)は、これまでの夏の平均海水温を1〜3℃上昇させ、沖縄・石垣島などのサンゴ礁海域から、本州沿岸の温帯海域に生息するサンゴ群集まで、広範囲に深刻な白化を引き起こしたことを明らかにしました。
    • 新規性:調査した地点において過去40年間で最も高い熱ストレス環境を記録し、従来の生息域である亜熱帯サンゴ礁域に加えて、温暖化によって高緯度域へと北上しつつあるサンゴも白化したことが明らかとなりました。
    • 社会的意義/将来の展望:本研究は、温帯域が熱帯・亜熱帯性サンゴにとって将来の「気候避難地」となり得る可能性について重要な注意を促すものです。海が温暖化するペースは、サンゴが北へ分布を広げる速度や環境へと適応する能力を上回りつつある可能性があります。


    <発表概要>
     琉球大学の理学部海洋自然学科(横浜国立大学・地域連携推進機構クロスアポイントメント)栗原晴子教授に加えて東京大学大学院理学系研究科山野博哉教授および同大学大学院農学生命科学研究科安田仁奈教授、特定非営利活動法人OWS横山耕作代表理事、東北大学大学院理学研究科(東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所 (WPI-AIMEC)兼務)安中さやか教授、東海大学海洋学部中村雅子教授、和歌山県立南紀熊野ジオパークセンター本郷宙軌主査研究員の研究グループは、2024年に日本沿岸を襲った記録的な海洋熱波が、沖縄・石垣島などのサンゴ礁海域から、本州沿岸の温帯海域に生息するサンゴ群集まで、広範囲に深刻な白化を引き起こしたことを明らかにしました。(図1参照)
     調査では、日本の黒潮流域沿岸8地点で海水温の熱ストレスとサンゴの白化状況を解析しました。2024年には全調査地点で極めて高い水温環境が観測され、対馬、田子島、沼津などの高緯度地点では、過去約40年間で最も高い高水温ストレスレベルに達しました。沖縄に加えて、多くの温帯地域でサンゴの大規模な白化および死滅が確認されました。さらに近年温暖化により高緯度域へと北上しつつあるミドリイシ属(Acropora)サンゴの多くも白化しました。
     本研究は、温帯域が熱帯性サンゴにとって将来の「気候避難地」となり得る可能性について重要な注意を促すものです。海が温暖化するペースは、サンゴが北へ分布を広げる速度や環境へと適応する能力を上回りつつある可能性があります。
     本成果は、2026年8月25日付で国際学術誌 Scientific Reports に掲載されました。

    <研究の背景>
     地球温暖化に伴い、世界の平均海面水温は産業革命前に比べ約1℃上昇しており、特に過去40年間でその上昇が加速している。その結果、サンゴと共生藻類の関係が崩壊する「サンゴ白化」が世界各地で深刻化しています。近年、熱帯・亜熱帯のサンゴの一部は、黒潮(日本海流)に沿って本州などより海水温が低い高緯度海域へ分布を広げています。このため、日本の温帯沿岸域は、将来サンゴが生き残るための避難地になる可能性があると考えられてきました。
     しかし、2024年の6月ごろからその年の11月まで、これまでの海水温を平均1〜3℃押し上げる記録的な高海水温環境が日本沿岸の広い範囲で継続しました。2023年から科学技術振興機構(JST) の戦略的創造研究推進事業であるCREST領域「海洋とCO2の関係性解明から拓く海のポテンシャル」の下で現在進められている研究課題(CO2増加に伴う沿岸生態系遷移リスク検知と予測の高度化、グラント番号:JPMJCR23J2)の研究者らに加え、海洋熱波やサンゴを研究し、各調査地点をフィールドとしている研究者たちが連携して、この異例の海洋熱波がサンゴ群集に与える影響を広域的に調査することにしました。

    <研究内容>
     研究グループは、石垣島、沖縄島、高知県竜串、和歌山県串本、長崎県対馬、静岡県田子島および沼津、千葉県館山の計8地点の海域で、2024年の海面水温とDHW(注2)を解析し、浅海域のサンゴ被度と白化状況を調査しました。
    DHWは、夏季の高水温がどの程度強く、どのくらいの期間続いたかを示す指標です。一般にDHW 値が4を超えるとサンゴの白化が始まり、DHW 値が8を超えると大規模なサンゴの白化や死滅のリスクが高まるとされています。
     2024年には、全地点でDHWが8を超えました。特に対馬では19.1、田子島では18.7、沼津では17.2に達し、いずれも過去約40年間で最高値でした。
     2024年9月の沖縄県瀬底島(DHW=8.6)におけるサンゴの 38%が完全に白化していました。さらに翌2025年2月の調査結果では、生きたサンゴの面積は白化が起こる前の22%から6%にまで低下し、白化した大部分のサンゴが死滅したことが示されました。
     2024年10~11月の調査では、温帯域でも広範な影響が確認されました。高知県竜串では、優占種のサンゴであるミドリイシ類を中心に多くのサンゴが白化または死滅していました。さらに長崎県対馬では、高海水温による大規模な白化が初めて観測されました。静岡県の田子島と沼津では、2023年に続いて2年連続で白化が観測され、60-70%のサンゴが白化しました。一方、和歌山県串本では多くのサンゴが白化したものの多くはその後回復し、多くは死滅に至りませんでした。その要因として台風の接近による海水温の低下が影響した可能性が考えられます。
     興味深いことに、千葉県館山ではDHWが12.0を超えたにもかかわらず、白化は観察されませんでした。この結果は、サンゴの白化が単純に海水温の指標だけでは予測できず、種組成、地域ごとの環境条件、各集団が経験してきた温度履歴などにも左右されることを示しています。(図2参照)

    <社会的意義、今後の展望>
     本研究は、海洋熱波が沖縄など亜熱帯海域のサンゴだけではなく、本州温帯域のサンゴにまで影響を及ぼし、黒潮による北上で拡大した温帯の生息域がサンゴにとって必ずしも安全な避難地ではない可能性を示しました。高緯度まで分布を広げた熱帯性サンゴも、海洋熱波による影響を強く受けます。
     今後は、地域やサンゴの種類ごとに、高海水温への耐性の違いを明らかにするとともに、長期的なモニタリングを通じて、白化後の回復や群集構造の変化を追跡する必要があります。気候変動下でサンゴ礁生態系を保全するためには、温暖化の抑制に加え、地域の環境特性を踏まえた保全・管理が重要です。

    <論文情報>
    (1)    論文名:Widespread coral bleaching across subtropical and temperate Japan under record marine heat stress
    (2)    掲載誌:Scientific Reports
    (3)    著者:Haruko Kurihara, Hiroya Yamano, Kohsaku Yokoyama, Sayaka Yasunaka, Nina Yasuda, Chuki Hongo, Masako Nakamura, Teruki Nagamine
    (4)    DOI番号:10.1038/s41598-026-65095-2
    (5)    アブストラクトURL:https://doi.org/10.1038/s41598-026-65095-2
    (6)    出版予定年月日:2026年8月25日

    <用語解説>
    (注1)海洋熱波:海水温が過去数十年間と比較して顕著に高い状態が数日間(5日以上)続く現象
    (注2)DHW (Degree Heating Weeks):サンゴが受ける高水温ストレスの積算割合を示す指標:主にこの値が「4以上の場合白化のリスク」があり「8以上の場合大規模な死滅リスク」があるとされる。


    図1 2024年日本列島を襲った海洋熱波は沖縄本島や石垣島のサンゴ礁域に加えて、高知県竜串、和歌山県串本、長崎県対馬、静岡県の田子島および沼津地域で全国的なサンゴの大規模な白化が観測された。


    図2 2024年の各調査地点でのDHW(サンゴが受ける高水温ストレスの積算割合を示す指標)の年間推移とその最大値および各地点でのサンゴの死滅、完全白化、部分白化の割合。