お知らせ

令和5年度 卒業式・修了式 学長式辞

 本日ここに、琉球大学の「令和5年度 学部卒業式ならびに大学院修了式」を挙行できることは、私どもの大きな慶びとするところです。学部卒業生ならびに大学院修了生の皆さん、卒業・修了、まことにおめでとうございます。琉球大学の構成員を代表して、皆さんの卒業ならびに修了を心からお祝いいたします。

 昨年までの4年間は、新型コロナウイルスへの細心の注意が必要な中、卒業式・修了式は様々な制限のもとで行わざるを得ませんでした。今回、ようやくご家族等も参加いただけるようになり、まことに嬉しく思います。ご家族・関係者の皆様には、これまで卒業生・修了生を物心ともに支えてくださったことに感謝するとともに、めでたくこの日を迎えられたことを心からお喜び申し上げます。

 今回、卒業・修了を許可されたのは、学部学生1,361名、大学院学生255名、総計1,616名です。皆さんの多くは、修学期間の前半部分を、厳しい新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響下で過ごすことになりました。本日卒業する学年の学部学生の皆さんが入学した2020年春には、入学式がありませんでした。大学として中止というたいへん苦しい決断をせざるを得なかったのです。翌2021年の春は入学式ができそうだということになりました。私は、その年の新入生の式を行う前に、何としても先に2020年入学生の皆さんの入学式を実施しようと判断し、それを準備したのでした。1年遅れになった入学式に果たして学生が来てくれるのだろうかとの声もありましたが、当日、2020年入学生の大多数の皆さんが集まってくれました。その時のことを覚えているでしょうか。私は、式の前後に笑顔で歓談する皆さんの様子を見て、実施して本当によかったと感激したことを忘れることはできません。

 本日、卒業する学部学生の大部分は、このときの2020年入学生です。大学生活の当初からいきなりコロナ禍の厳しい影響を受けた皆さんが、それぞれ工夫と努力を重ねて今日の日を迎えられたこと、まことに嬉しく思います。

 本日の卒業あるいは修了は、もちろん皆さん自身の努力があって実現したものですが、その背景にご家族や身近な方々の長年にわたる支援、そして教員の指導や事務職員のサポートがあったことにも思いを致してほしいと思います。さらに、コロナ禍に苦しんだ皆さんを思って、県内外の様々な団体や個人から温かい援助があったことも忘れないようにしてくれることを願います。

 さて、これから皆さんは、急速に変化している社会に飛び立ちます。人類が抱える様々な課題の解決に向けての挑戦が全世界でなされる一方、あちこちで武力を用いた争いで多くの人命が無残に失われ、あるいは人々の人権や自由が損なわれる状況が生まれています。こうした複雑で大きく変化する、不確実で予測が困難な時代の流れの中で、身近なコミュニティを、社会を、世界を少しでもよくするために、そしてそれを通じて人生を充実させるために大事なことは何でしょうか。その答えはいろいろあり得るでしょうが、今日、私は「visionary」であれとお伝えしたいと思います。

 人間以外の動物も、とくに脊椎動物は結構いろいろと考えているらしいということが少しずつ明らかになってきていますが、先のことまで考えることができるのは言葉を駆使できる人間だけのようです。しかしそうは言っても、人間も動物、つい目先のことに目線が行ってしまいます。「visionary」とは、それに逆らって目線を上げ、長い時間スケールで流れを洞察し、その流れの先に、あるべき未来・ありたい未来の像をできるだけ明確に持つこと、あるいはそれをする人、のことです。その先に大事なのは、考えたら次は行動する、ということになるのですが、ここではまずはその基盤の「visionary」を強調したいと思います。

 「visionary」であるためには、よく学び、よく考えるということが大事です。本学での学修を基礎に、さらに学び続けていただきたいと思います。そこで重要だと私が信じることが一つあります。それは、論語のつぎの一節に見事に言い表されています。「學びて思はざれば則ち罔(くら)し。思ひて學ばざれば則ち殆(あやう)し」です。学んでいるのみで自分で考えることがなければ進歩はないが、自分で考えているのみで人に学ばなければ(考えが偏るので)危険きわまりない、という意味です。考えるだけの危うさを避けるには、先人が考えてきたことを書籍や論文から学ぶこと、さらにその学びの折々に他の人々・仲間と論じ合うことが大切です。

 この仲間と論じ合うことの大切さは、コロナ禍で苦しめられた皆さんが一番よく知っているのではないかと思います。大学生活の始まりがいきなり全てオンラインとなり、教員や学友とのコミュニケーションに歯がゆさを感じたあとに、対面での授業やサークル活動が戻ってきて、face-to-faceのコミュニケーションの有用性を身をもって深く理解したに違いありません。

 そのような皆さんへの社会の期待は大きなものがあります。こうした様々な経験を含む本学での勉学・研鑽の成果に自信を持って、社会の期待に応えてくれることを心から願っています。

 本学はこれまでに9万名を超える卒業生・修了生を世に送り出してきました。各地で活躍するそうした先輩たちの中に、皆さんが新たに加わることをたいへん心強く思っています。令和5年度学部卒業生・大学院修了生の皆さんが、社会で大いに健闘されんことを、そして一人ひとりの人生が幸多からんことを心から願って、私からのお祝いの言葉といたします。

令和6年3月19日
琉球大学学長 西田 睦