研究成果

エビの巣穴に住む新種のエビを発見

  琉球大学理工学研究科の佐藤大義らの研究チームによる研究成果が、分類学の国際学術雑誌「Zootaxa」誌に掲載されました。
<発表のポイント>
◆大型のアナエビであるヤハズアナエビの巣穴から新種のカギテシャコエビを発見
◆スナモグリ類以外と共生するカギテシャコエビは初確認
◆住み込み共生によって創出される琉球列島の生物多様性はまだまだ未解明

<発表概要> 
 琉球大学理工学研究科の佐藤大義(修士2年)と千葉県立中央博物館の駒井智幸動物学研究科長が、琉球列島の干潟に生息するヤハズアナエビの巣穴からカギテシャコエビ属Naushoniaの新種を発見し、国際学術誌「Zootaxa」に公表されました。
 カギテシャコエビ属にはこれまでに16種が知られていましたが、このうち14種が海底の石の下や海中洞窟などから見つかっており、残る2種はともにスナモグリ類との共生関係が知られていましたが、ヤハズアナエビとの共生は本属において初めての事例でした。

研究の背景
 琉球列島の沿岸は生物多様性の極めて高い地域の一つであることは広く知られていますが、古くから生物多様性研究の舞台となってきたのはサンゴ礁やマングローブ林といった、亜熱帯・熱帯域に特有な環境が主であり、砂泥域のような環境は見過ごされてきました。近年、ヤビーポンプとして知られる手動の吸引器の普及によって調査効率が向上し、このような環境にも多様な生物が生息していることが明らかとなってきました。このような砂泥域では、自ら巣穴を掘る生物と、その巣穴に居候する住み込み共生の特異性によって高い多様性が創出されることが多いものの、琉球列島ではこのような事例、特に甲殻類の巣穴に共生する生物相の調査はほとんど進んでいませんでした。
 そこで著者らは沖縄島の干潟やその周辺環境において、様々な甲殻類の巣穴に生息する共生生物相の調査を開始しました。本研究はその一環である、ヤハズアナエビNeaxius acanthusの巣穴の調査による成果です。

研究内容
 本研究で検討した標本は、ヤハズアナエビの巣穴の入り口をヤビーポンプで吸引し、巣穴内部に生息する生物を採集する過程で得られたものです(図1)。標本の外部形態を観察した結果、鎌状になっている第1胸脚や額角の形状が特異的であり、カギテシャコエビ属の全ての種から一見して区別されることが分かりました。そこで、この種をホソウデカギテシャコエビNaushonia karashimaiとして新種記載しました。学名は第1著者の友人である同大の辛島なつ氏への献名であり、日常的に調査支援や写真撮影(トップの標本写真も氏の撮影)を手伝っていただいていることから、その労への感謝も込められています。和名は本種に特徴的な細い第1胸脚に因むものです。
 また、本新種と国内から知られていた同属種4種からミトコンドリアDNAの16S rRNA遺伝子の部分配列を決定し系統解析したところ、本新種はトゲスナモグリGlypturus armatusの巣穴に共生するNaushonia carinataと近縁であることが分かりました。


図1. ヤビーポンプを用いて調査を行う様子(左);巣穴の入り口から顔を出すヤハズアナエビ(右)

 

今後の展望 
 今回の新種は現在のところ沖縄島から見つかっているだけですが、宿主であるヤハズアナエビがインド西太平洋の広範囲に分布していることを考えると、本種もより広い範囲に分布している可能性があります。しかし、本種はヤハズアナエビの巣穴に対する共生率が0.1%未満と極めて低いため、本種の分布を調べるには慎重かつ網羅的な調査をしていく必要があります。一方、調査の過程でヤハズアナエビのみならず、スナモグリ類やテッポウエビ類の巣穴からも未記載種・国内未記録種などの学術的に貴重な種が多く採集されているため、今後も積極的に調査、研究を行い、成果を公表していくつもりです。
 ところで、近年も続く琉球列島の沿岸開発によって、サンゴ礁と比べて保全されにくい干潟域は急速に失われつつあります。本種の生息地の1つである浦添市のカーミージーにはヤハズアナエビの中琉球での最大級の個体群がありますが、すぐ隣接する区域で埋め立ての計画があります。工事が進めば潮流の変化等によって何らかの影響を受けることは必至であり、このような状況下で宿主と共生種の両者の動向に注視して記録を残すことで、今後の琉球列島沿岸の持続可能な開発に寄与する知見を得られるものと考えています。

 

<研究費>
 本研究は"環境DNAを用いた深海性大型動物物のモニタリング法の開発と実践、ならびに基盤データの整備 サブテーマ2:無脊椎動物における調査方法の開発と実践、ならびに基盤データの整備“(環境研究総合推進費)(研究分担者:駒井智幸)の助成を受けました。                                                                                              

<論文情報>
(1)    論文タイトル:A new species of the mud shrimp genus Naushonia Kingsley, 1897 (Decapoda: Gebiidea: Laomediidae) from the Ryukyu Islands, southwestern Japan, inhabiting burrows of an axiidean shrimp(琉球列島から得られたアナエビの巣穴に共生するカギテシャコエビ属の1新種)

(2)    雑誌名:Zootaxa
(3)    著者:Taigi Sato* & Tomoyuki Komai
(4)    DOI番号:10.11646/ZOOTAXA.5270.3.7
(5)    アブストラクトURL :https://www.mapress.com/zt/article/view/zootaxa.5270.3.7