お知らせ

令和5年度入学式 学長告辞

 本日ここに、令和5年度 琉球大学入学式並びに大学院入学式を挙行し、学部1,601名、大学院270名、総数1,871名のフレッシュな皆さんを本学に迎えることができ、たいへん嬉しく思います。皆さん、琉球大学への入学、まことにおめでとうございます。また、新入生の皆さんをここまで育てサポートしてこられた保護者・ご家族・関係者の皆様には、インターネット中継を通じてお祝いを申し上げます。

 皆さんはこれから、琉球大学の学生としての生活を始めます。各学部の学科等には学生指導主任教員、及び在学中を通じて皆さんをサポートする指導教員がいますが、これは本学のよい伝統のひとつです。さらに各学部などの事務室や保健管理センターなどでは、皆さんを丁寧にサポートする準備を整えています。困ったときはいつでも相談してください。ただし、皆さんには、自分で判断し、自ら行動するという自律性、主体性を期待しており、大学からの支援はあくまでサポートであることも覚えておいてください。

 さて、皆さんが研究を含む「学び」を始めようとしている大学とはどういうところなのでしょうか。大学は1000年以上の歴史をもつ、人類社会の重要なシステムです。19世紀半ばから20世紀の国民国家の形成に伴い、そうした国民国家とその社会を支える高度な人材と科学研究を担う組織として拡充が進みました。そして、20世紀も終わろうとする頃には、高度な研究と高度な人材の育成とともに、地域社会の持続的発展に直接貢献する役割も大学に求められるようになったのです。

 そうした流れの中で見ると、琉球大学の特色は際立っています。先の大戦で甚大な被害を被った沖縄を再興するため、県民の強い熱意を受けて総合的な大学として創立されたのです。本学は創立当初から、学術をこの地に根付かせ、社会を再興する人材を育成して輩出するとともに、学術知識でもって社会の再興に直接貢献をすることを重要なミッションとしていました。こうした本学の成り立ちとその後の活動は、いま振り返ってみても改めて大きな意味をもっていると思われます。

 現在、社会が急速に変化し、先行きが不透明な時代と言われるようになっています。こうした時代を切り拓いていくには、多くの新たなアイデア、イノベーションが必要です。そしてそれは、多様な人々が忌憚なく知識や知恵、意見を出し合う中からこそ生まれるのです。大学はまさに、学術を基盤にして、こうした相互触発を積極的に意識的に行うところです。

 こうした観点から見たとき、皆さんはほんとうによい大学に入ったのだということをお伝えしたいと思います。琉球大学は、生物多様性のきわめて豊かな自然の真っただ中の、ユニークな歴史と文化を有する沖縄の地に創設され、ここで学び、研究することを志す多様な人々が、県内のみならず、全国、あるいは世界から集う場となっているということです。このような多様性こそ、創造性の最も重要な基盤です。ぜひ、この素晴らしい場の一員として、本学の強みや特色を大いに生かして学んでください。

 皆さんが本学での学びを深める心構えを持つために、教育というものについて、さらに一歩踏み込んで考えてみましょう。学ぶということは、そのレベルの深さはともかく、多くの動物が行っています。しかし、個体間で教え・教えられるという関係の中で学ぶという現象は、ヒト以外にはほとんど見られません。ヒトに最も近縁なチンパンジーでさえ、そういうことはほぼなさそうなのです。行動遺伝学、教育心理学を専門とする慶応大学の安藤寿康教授はこの点に着目し、ヒトとは「教育によって生きる動物」であると述べています。私たちヒトは、他個体と知識を交換し、他個体と協力しながら生きる動物として進化したということです。

 実際、9か月の乳児の段階で、すでに他人と関心を共有する基礎となる「共同注意」という行動が生じます。ヒトには教え・教えられる関係を構築する能力、ひいては社会の共同性を形成するための根源的な能力が、進化の結果として遺伝的に備わっていると考えられます。ヒトのこの根源的能力の上に、学校というシステムが成立しているわけです。大学ももちろんそうです。

 たとえば、学びには学習者同士が互いに協力しながら学び合うピア・ラーニングがたいへん有効であることが分かっています。乳児の段階ですでに教え・教えられる関係を構築する力を示し、これまで成長を続けてきた皆さんは、これからの学びにその能力を存分に生かしてほしいと思います。

 琉球大学は、この3年間の新型コロナウイルス感染症への対応の経験を踏まえて、より多様な教育アプローチをしていこうとしています。また、沖縄と世界の「架け橋」となる21世紀型市民の養成を目指す「琉大グローバルシティズン・カリキュラム(URGCC)」を導入し、単なる知識の伝達にとどまらないよう、教育の質の改善を図っています。皆さんも種々の工夫をしながら、学修や研究に取り組んでいただきたいと思います。

 加えてもう1点、これからの学びにおいて留意してほしいことがあります。それは、どんな分野を専攻する人も「数理・データサイエンス・AI」とそれに関連することを積極的に学んでいただきたいということです。AIの発展と社会への浸透には目覚ましいものがあり、教育・学習のあり方、仕事のあり方、ひいては社会のあり方を急速に変える可能性があります。AIとその活用にはさまざまな未解決の問題が付随していますが、それに配慮しながらうまく活用することが大事だと思います。

 興味深いことに、いま社会に広く浸透しつつある大規模言語モデル型AIをうまく活用するには、人間側の言語を駆使する力が問われます。AIをうまく活用しようとすると、言語で賢く問うこと、その基礎となる日本語や英語をしっかりと勉強することが必要だということです。この点を念頭に置いて学びを深めていただければと思います。
 
 大学での皆さんの学びは、正規の授業に関わってのみなされるものではありません。友人同士で語り合ったり、関心の持てるサークルに加入したりするのもよいでしょう。また、外国人学生のチューターとして留学生の支援活動するのもよいでしょう。さらに、大学の外にも活動の場、たとえば「子どもの居場所学生ボランティアセンター」などが用意されています。これらを通じて地域あるいは世界の多様な人々と繋がりを深め、それを楽しみ、そこから学ぶということも素晴らしいと思います。

 以上、いくつか述べてきましたが、いま一番強く願うことは、令和5年度新入生の皆さんのこれからの大学生活あるいは大学院生活が、楽しく実り多いものになることです。このことを強く願って、私の告辞といたします。

 

令和5年4月6日
琉球大学
学長 西田 睦