研究成果

『45年前から大きく変貌した中城湾のサンゴ礁生態系の現状』 ~1970年代と現在のサンゴ礁の比較~ 目標14:海の豊かさを守ろう

琉球大学理学部ライマー 准教授らの研究チームによる研究成果が、生態学の学術雑誌「Ecology and Evolution」誌に掲載されました。
<発表のポイント>

◆中城湾のサンゴ礁に関して過去と現在を比較した最初の研究であり、研究者らは中城湾のイシサンゴ類と魚類について多くのことを発見しました。
◆45年前の研究によると、中城湾のイシサンゴ類は枝状ミドリイシ類が優占的でした。本研究では、驚くべきことに、現在の中城湾ではミドリイシ類が少なく、よりストレスに強いハマサンゴ類が優占的でした。
◆1970年代に水深5 m未満に確認されていたサンゴは現在もっと深く移動しており、その一方で1970年代に水深10 m以深から発見されていたサンゴは現在、より浅い水深に分布していたのです。これは「サンゴ礁の圧縮」と呼ばれる、水質が悪化した水域で見られる現象で、メジャーな湾港であるシンガポールや香港で知られています。

<発表概要>
中城湾のサンゴ礁は現在、45年前に存在していた中城湾のサンゴ礁生態系とは大きく異なっていることを、琉球大学とイギリスのリーズ大学の研究者らが発見しました。
沖縄島の東海岸にある中城湾には、多くの港が存在するほか、沿岸開発が進んできた歴史があり、泡瀬では大規模な埋め立てプロジェクトが行われています。こうした状況により、湾の海岸線とその用途は、1970年代から大きく変化してきました。今回の研究は、中城湾のサンゴ礁に関して過去と現在を比較した最初の研究であり、研究者らは中城湾のイシサンゴ類と魚類について多くのことを発見しました(図1)。

Yamazato and Nishihara(1977)による45年前の研究によると、中城湾のイシサンゴ類は枝状ミドリイシ類が優占的でした。本研究では、琉球大学のジェームズ・ライマー准教授とリーズ大学のマリア・ベーガー准教授らが率いる研究グループにおいて、当時琉球大学修士課程であった山極広孝さんが、リーズ大学のケイティ・クックさんとともに、中城湾(16地点)での再調査を行いました。その結果、驚くべきことに、現在の中城湾ではミドリイシ類が少なく、よりストレスに強いハマサンゴ類が優占的でした(図2)。

他にも重要な発見がありました。 1970年代に水深5 m未満に確認されていたサンゴは現在もっと深く移動しており、その一方で1970年代に水深10 m以深から発見されていたサンゴは現在、より浅い水深に分布していたのです。これは「サンゴ礁の圧縮」と呼ばれる、水質が悪化した水域で見られる現象で、メジャーな湾港であるシンガポールや香港で知られています。この現象は浅い場所に棲息するサンゴが、地球温暖化によるサンゴの白化と気温の上昇に対処しなければならず、深い場所に移動する一方で、深い場所のサンゴは濁った水のために十分な光を得ることができず、浅い場所に移動することによって起こります 。

魚の種類も過去と現在で異なっていましたが、魚種の全体的な機能(食性などの生態的な役割)は同じようでした。「つまりこれらの結果は、人為的な活動によるストレスを受け、サンゴ礁生態系がどのようにシフトしてきたかを示しています。」とライマー准教授は述べています。研究者らは、中城湾のサンゴ礁生態系は過去とは異なりますが、現在のサンゴ礁にも未だに多くのさまざまな種が含まれており、生態系が機能していると付け加えました。 「これらのサンゴ礁は、おそらく観光客にとってはあまり重要ではないのかもしれません。しかし、それでも価値のある生態系サービスを提供しており、調査を行うほか、さらなるストレスからサンゴ礁を守ることが必要です」とライマー准教授は述べました。

この研究は、3月23日に国際科学雑誌Ecology&Evolutionに掲載されました。


図1 中城湾のサンゴ礁の魚類とサンゴ類。(撮影:Katie M. Cook)


図2 中城湾内のサンゴ礁でのストレスに強いハマサンゴ類の群体。(撮影:Katie M. Cook )

 

<引用文献>
Yamazato, K., & Nishihara, M. (1977). Coral reefs of Nakagusuku Bay. Marine ecological survey of Nakagusuku Bay: Field surveys (pp. 1–103), 1st ed. Japan Institute for Environmental Science.

<論文情報>
(1)    論文タイトル:A community and functional comparison of coral and reef fish assemblages between four decades of coastal urbanisation and thermal stress
     和訳:40年間の沿岸都市化と熱ストレスの間のサンゴとサンゴ礁の魚群集の群集と機能の比較

(2)    雑誌名:Ecology and Evolution

(3)    著者 :Katie M. Cook*1, Hirotaka Yamagiwa*2, Maria Beger*1,3, Giovanni Diego Masucci2, Stuart Ross1, Hui Yian Theodora Lee2,4, Rick D. Stuart-Smith5, James 
                         Davis Reimer2,6*

配属:1School of Biology, Faculty of Biological Sciences, University of Leeds, Leeds, UK(リーズ大学・英国)
              2Molecular Invertebrate Systematics and Ecology Laboratory, Graduate School of Engineering and Science, University of the Ryukyus, Nishihara, Japan(琉球大学)                   3Centre for Biodiversity and Conservation Science, School of Biological Sciences, The University of Queensland, Brisbane, Queensland, Australia(クイーンズランド大
            学・オーストラリア)
             4Experimental Marine Ecology Laboratory, Department of Biological Sciences, National University of Singapore, Singapore, Singapore(シンガポール国立大学・シン
            ガポール)
             5Institute for Marine and Antarctic Studies, University of Tasmania, Taroona, Tasmania, Australia(タスマニア大学海洋南極研究所・オーストラリア)
             6Tropical Biosphere Research Center, University of the Ryukyus, Nishihara, Japan(琉球大学)

(4)    DOI番号:10.1002/ece3.8736

(5)    アブストラクトURL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.8736