お知らせ

令和4年度琉球大学入学式・大学院入学式 告辞

令和4年度学部入学生、および大学院入学生の皆さん、琉球大学への入学、おめでとうございます。このたび入学が許可されたのは、学部1,610名、大学院304名、総数1,914名です。在学生ならびに教職員を代表して、皆さんの入学を、心から歓迎いたします。

いま新型コロナウイルス流行の状況は依然厳しいものがあり、本式典の参加者は新入生のみに限定せざるをえませんでした。新入生の皆さんをここまで育てサポートしてこられた保護者・ご家族の皆様には、インターネット中継を通じてお祝いを申し上げます。

この2年間における新型コロナウイルス感染症への対応の経験から、私たちは、直接顔を合わせて語り合うことが、教育・学修の場において如何に大切かを再認識しているところです。しかし、現在の沖縄における新規感染者の発生状況を見ると、しばらくはインターネットを活用した遠隔方式の授業を、ある程度の割合で活用せざるを得ません。おもに初年次や2年次で登録する共通科目の多くは、様々な学部の学生が自由に選択するため、特に丁寧な対策が必要になるのです。入学生の皆さん、どうかこのことを理解していただければと思います。

さて、これからの琉大での学びにおいて、皆さんに特に意識していただきたいことを、2点お話ししたいと思います。

1点目は、学ぶ上で「自ら考え、自ら行動」することが、大学できわめて大事だということです。これは人類の知恵・知識の総体である学問を自ら学ぶ場である大学というものの根幹に関わることです。

ひとつ、私がよいなと思った具体的な例をお話ししましょう。皆さんの1年先輩である、昨年の入学生から聞いた話です。その学生は、せっかく琉大に入学したのに、コロナのせいで最初から遠隔授業ばかり。なかなか友人もできず、不満が溜まるばかりで、憂鬱になってきた。しかし、よく考えてみると、これは誰が悪いのでもない、自分で工夫して打開するしかないと思い始めたときに、授業で先生から次のような話を聞いた。「子どもの居場所学生ボランティアセンター」というものに琉大が関わっており、そこでの活動に学生を求めていると。そこで、その学生はさっそく応募し、参加したそうです。その結果、子ども達が喜ぶ笑顔を見ることができ、人と関わり、人の役に立つことの充実感が得られている、ということでした。まさに、コロナによる行き詰まり感をどう打開できるかを「自ら考え」、教員から聞いた情報をもとに「自ら行動」し、鬱屈した状態を脱して充実感を感じられるようになったのです。

これは、小さな一歩かもしれません。しかし、ここから様々な人との出会いや、自分にとっての新しい学びの世界が次々ひらけていくことになるであろうことは、容易に想像できるでしょう。皆さん、ぜひ「自ら考え、自ら行動」することを心がけてください。

2点目は、「パーソナルコンピュータの積極的活用」です。本学では、今年度の新入生である皆さんの学年から、パソコンを必携してもらうことにしました。以前からそうしている学部もありましたが、全学で必携化するのは初めてです。インターネットに繋がる媒体として、皆さんのほとんどはスマートフォンを持っていると思います。スマートフォンはたいへん便利な端末ですが、インターネット上の情報の「消費」には便利でも、「創造(creation)」には必ずしも使いやすいとはいえません。学びの場において、皆さんには消費する側ではなく、創造する側にいてほしい。そうであるためには、道具となるパソコンが手元に必要です。パソコンを積極的に活用して、レポートや論文の作成、データの整理や解析、プログラミング、遠隔授業、友人同士による自主的なオンライン勉強会など、こうした創造的活動を充実させてほしいと願っています。

そして、できればさらにその先に進んで、どんな分野を専攻する人も「数理・データサイエンス」やそれに関連することを積極的に学んでいただきたいと思います。「数理・データサイエンス」というと、理科系の限られた分野の学生が学べばよいのではないかと思えるかもしれません。しかし、そうではありません。少なくともその基礎の部分は、文系・理系という見方を超えて、これから迎える「超スマート社会」と言われる社会のリテラシー、すなわちICTを適切に理解し活用する力として不可欠です。こうした力をつけることは、将来、皆さんが社会に出たときに、皆さんの価値を確実に高めることになります。

私がこのように述べるもととなる考えの根拠について、もう少しお話ししたいと思います。この議論にとって象徴的なできごとは、昨年秋の真鍋叔郎博士のノーベル賞受賞です。2021年度のノーベル物理学賞は、複雑系物理学分野における画期的な貢献に対して与えられました。真鍋先生の受賞は、地球気候を物理的にモデル化し、変動を定量化して地球温暖化の高信頼予測を可能にした業績によるものです。

気候もそうですが、私たちが日常直面する様々な課題は、多くの要素が複雑多様に絡んでいます。近代の科学は様々な問題に取り組んできましたが、成功してきたアプローチは、問題をできるだけシンプルに、基本的な法則で扱える形にして、あるいはその時代の実験手法で調べられる形に設定して解く、というものです。近代科学はこうして大成功しました。したがって、このアプローチはたいへん重要であり、皆さんもこれをしっかり学んでほしいと思います。しかし一方で、気候変動や地球環境問題のような、多くの要素が複雑多様に絡んでいる問題の研究は、どうしても後回しになってきたのです。

それが前世紀の中頃、ある新しいものの出現によって、複雑な問題に全く異なるアプローチが考えられるようになりました。その新しいものとはコンピュータです。コンピュータの産みの親であるフォン・ノイマン――彼は、アインシュタインらとともに、ナチスドイツからアメリカのプリンストン高等研究所に逃れた研究者ですが――彼がコンピュータの活用例の軸に天気予報を選び、プリンストンに地球流体力学研究所をつくって研究を始めました。真鍋先生は、その流れの中に飛び込んだのでした。そして、コンピュータ上に地球気候を丸ごと再現できるモデルを実現したのです。真鍋先生の今回のノーベル物理学賞受賞は、コンピュータを用いた、モデルとデータと計算による新しい科学の手法が広く認められたことを示す、象徴的なものだと私は考えています。近年のICT技術の進歩により、私たちが解決を必要とする複雑な諸問題に、人工知能(AI)も含めた新しいアプローチがますます活用しやすくなってきており、皆さんには、こうした動向を頭に置いて、新たな学びに積極的に挑戦していただきたいと願う次第です。

琉球大学は、多様性に富む亜熱帯の自然と、個性豊かな沖縄の文化に囲まれた、特色ある優れた教育・研究の場です。1950年の創立以来輩出した9万名近い卒業生・大学院修了生は、各地で活躍していますし、県内・全国・世界に幅広い人的ネットワークが形成されています。この環境の中で、皆さんが大いに成長してくれることを期待するとともに、コロナ禍でまだまだ制約のある中において、皆さんの成長のために大学として精一杯のサポートをする決意です。

むすびに、令和4年度新入生の皆さんのこれからの大学生活あるいは大学院生活が、少しでも楽しく実り多いものになることを願って、私の告辞といたします。

令和4年4月5日
国立大学法人 琉球大学
第17代学長 西田 睦