研究成果

サンゴを覆い殺すテルピオス海綿の幼生放出時間帯を 世界で初めて特定

 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設の山城秀之教授らの研究チームによる研究成果が、国際学術雑誌「Coral Reefs」誌に掲載されました。

<発表のポイント>
◆サンゴを覆い殺すテルピオス海綿が、琉球列島を含むインド–太平洋のサンゴ礁の大きな脅威となっています。今回、その海綿が幼生を放出する時間帯を特定しました。
◆この海綿は幼生分散によって分布拡大していると考えられるので、幼生の挙動を明らかにすることは大変重要です。
◆幼生は夏から秋の期間、満月後5-10日の深夜0時から4時にかけて放出されました。
◆本研究成果は、海綿がどのようなタイミングで幼生を出してサンゴ礁域に拡がっていくのかを解く糸口となり、今後のサンゴ礁保全に大きく貢献できると考えられます。

 

【発表概要】
 インド洋から太平洋にかけてのサンゴ礁でサンゴが減少する原因の一つとして、サンゴ被覆性のテルピオス海綿が知られています。今回、海綿がいつその幼生を放出するかを初めて特定しました。海綿の体内で保育された幼生が、6月から12月にかけて、満月後5–10日の期間をピークとして放出されます。1日のうちでは、深夜0時から4時にかけての真夜中の時間帯に放出のピークがありました。これらの結果を、国際科学誌「Coral Reefs」に公表しました。幼生の放出時間帯や時期を特定したことは、海綿の分散機構や幼生の挙動の解明につながり、今後のサンゴ礁の保全に寄与することが期待されます。

【研究の背景】
 世界中のサンゴは、温暖化に伴う大規模白化、オニヒトデ等による食害や細菌性感染症などにより急激に減少しています。将来、更にサンゴは減少し、サンゴ礁は環境変動の影響を受けにくい海藻や海綿に置き換わると予測されています(図1)。

 近年、サンゴを覆い殺す海綿の被害が琉球列島全域を含むインド–太平洋(台湾、オーストラリア、マレーシア、インドネシア、モルジブ、インド、モーリシャスなど)のサンゴ礁から報告されています。その一つ、テルピオス海綿は、灰色から黒色を呈し、1mm以下の薄い組織ながら生きているサンゴを覆い殺し拡がっています。琉球列島のほとんどの島に棲息するものと考えられています(図1)。

【方法と結果】
 本研究グループは、テルピオス海綿の分布や成長に関する調査を行ってきましたが、今回、海綿の挙動を解明する上で重要な幼生放出パターンを解明しました。今帰仁村、本部町および大宜味村の海綿を定期的に採集し、飼育観察をすることによって初めて幼生を確認すると同時に、時期や時間帯の絞り込みを図りました。以下に分析と観察の結果を示します。


図1 現在のサンゴを中心として多種多様な生物を育むサンゴ礁は、海藻や海綿に置き換わることが予測されています。

 

ロータリー式幼生キャッチャーによる幼生放出時間の特定:自作の回転式幼生回収装置を用いて、沈水性の海綿幼生を2時間おきに採取し、幼生放出が深夜0時から4時にかけてピークになることを特定しました。(図2)。

幼生放出時期の特定:7月から12月にかけて月齢と幼生放出の関係を調査した結果、満月後5~10日の間に多くの幼生放出が見られました(図3、4)。

幼生放出の方法:通常の海綿の幼生は、出水口(大孔)から外に放出されますが、テルピオス海綿の幼生は表皮を破って出ていくことを確認しました(図5)。

幼生の放出数:野外でプランクトンネットを用いて幼生放出数を推定した結果、ピーク時間帯に1m3あたり約4,000匹の幼生を確認しました。

 

【今回の発見の意義と展望】 
 テルピオス海綿の生殖については不明な点が多く、今回、幼生放出の時間や時期が初めて特定されたことによって、本種が幼生の分散によってサンゴ礁でどのように拡がっていくのかの足がかりをつかむことができました。海綿の幼生を確保する方法が見つかったことで、幼生を用いた様々な研究の推進に役立ちます。今後、亜熱帯に限らず熱帯のサンゴ礁域に棲息する本種の幼生放出パターンを解明する際に、本結果が貢献することが期待されます。本研究成果は、サンゴ礁の脅威となりつつあるテルピオス海綿の動態を明らかにする上で重要な発見となります。


図2 海綿幼生のトラップ装置。沈水性のため、サイホン方式で回転テーブル上のカップに採取した。

 


        図3 幼生は真夜中に放出されることがわかった。

 


     図4 満月の約5日後から幼生の放出がピークとなる。

 


図5 放出前、幼生は表層近くに現れ、出水口(Os)を通らず体表を破って外に出ていく。

 

<用語解説> 
 テルピオス海綿:学名Terpios hoshinota、徳之島産の標本にに基づいて新種として記載された。熱帯や亜熱帯のサンゴ礁で急速に拡大し、サンゴを覆い殺すため、大きな脅威となっている。

<論文情報>
(1)Coral-killing sponge Terpios hoshinota releases larvae at midnight 論文タイトル(沖縄島に棲息するサンゴ被覆性海綿(テルピオス ホシノタ)は真夜中に幼生を  
   放出する)
(2)雑誌名 Coral Reefs
(3)著者 Yurika Hirose 廣瀨友里香((現)(一社)環境パートナーシップ会議・琉球大学理工学研究科), Siti Nurul Aini(琉球大学理工学研究科),
           Hideyuki Yamashiro 山城秀之(琉球大学熱帯生物圏研究センター)
(4)DOI番号 https://doi.org/10.1007/s00338-021-02210-x

補足資料(Supplementary Information)として、野外におけるテルピオス海綿の幼生放出映像(Video S1)をご覧いただけます。