研究成果

南大東島沖で日本未記録の深海魚を発見 ~「島」にすむアカグツ科魚類「シマグツ」~ 目標14:海の豊かさを守ろう

    琉球大学理学部 佐藤 真央 産学官連携研究員、理工学研究科 阿部 公哉 大学院生、理学部 小枝 圭太 助教らによる研究成果が、動物分類学の学術雑誌「Species Diversity」誌に掲載されました。

     <発表のポイント>

    • 海洋研究開発機構(JAMSTEC)が琉球大学を含む4機関と合同で実施するプロジェクト「D-ARK」の調査航海にて、南大東島沖の深海から、これまで日本では未発見であったアカグツ科魚類Solocisquama erythrinaを発見・採集しました。
    • この魚はこれまでハワイ諸島でのみ発見されていましたが、本研究で大東諸島にも生息することが明らかになりました。これは大東諸島とハワイ諸島の間での深海魚類相がつながっていることを示す一例となります。
    • 和名がなかった本種に対して、「島」にすむアカグツ科魚類という意味を込めた標準和名「シマグツ」を提唱しました。

    <発表概要>
     琉球大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、株式会社FullDepth、いであ株式会社、新江ノ島水族館の研究者を中心とする研究グループが、笹川平和財団による研究助成プログラム「オーシャンショット」採択課題である「Deep-sea Archaic Refugia in Karst(深海洞窟を照らす:遺存種を育むレフュジアか?;略称 D-ARK)」に関する調査を実施しました。本課題は深海洞窟の生物多様性の解明とそのための探査技術の開発を目的とした約3年間の研究プロジェクトで、2024・2025年に石灰岩質の海洋島*1である大東諸島周辺においてJAMSTECの海底広域研究船「かいめい」による深海調査が実施されました。
     2025年7月から8月にかけて行われた調査航海で、南大東島の海底斜面においてこれまで日本近海から見つかっていなかったアカグツ科の魚類Solocisquama erythrinaが1個体発見・採集されました。本種はアンコウの仲間であり、体表全面が棘のある鱗に覆われ、体色が薄い赤色であることなどが特徴です。本種はこれまで中央太平洋に位置するハワイ諸島の深海域から数個体の採集例があるのみの稀種ですが、本研究によってそこから6,000 km以上離れた南大東島にも分布することが明らかになりました。この成果は、大東諸島の深海には、中央太平洋の海洋島と共通した種が現れること示しており、同研究チームが2025年に発表したヤセムツ科の魚類であるホラアナヒスイヤセムツの発見に続き、大東諸島における深海魚類相*2やその成因を考える上で重要な知見となりました。また、この魚には未だ日本語の名称(標準和名)がなかったため、「島」にすむアカグツ科魚類という意味を込めた標準和名「シマグツ」を提唱しました。本研究は琉球大学とJAMSTECの共同で発表されました。

    <研究の背景>
     南大東島は、海底火山の噴火により誕生したのち、継続的に造礁サンゴが固着・堆積することで、石灰岩(炭酸塩岩)を主体とする地質となった海洋島です。石灰岩地帯は雨水や地下水などによって溶解・浸食されやすいため、南・北大東島の陸域には多数の洞窟を含む溶食地形(カルスト地形)が存在します。陸上のみならず、現在は深海に沈んでいる島の基部にも洞窟を含むカルスト地形が存在し、そこには独特な生物相が生じていると予想されるものの、その実態は未解明でした。そこで琉球大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、株式会社FullDepth、いであ株式会社、新江ノ島水族館に所属する研究者を中心とする研究グループは、笹川平和財団による研究助成プログラム「オーシャンショット」採択課題であるプロジェクト「Deep-Sea Archaic Refugia in Karst(D-ARK)」として、2024・2025年に大東諸島周辺において海洋研究開発機構の海底広域研究船「かいめい」による深海調査を実施しました。これまでの成果として、無人探査機(ROV)を用いた海底観察により、水深約300 mから400 mにかけて島の壁面に大小の洞窟(深海洞窟)を含む複雑な侵食地形が実在することが明らかになり、さらに深海洞窟の内外からは新種の無脊椎動物(ダイトウヒメクマノアシツキ、ダイトウキノボリヒモムシ、ウフアガリアカサンゴスナギンチャク)や従来日本では見つかっていなかった魚種(ホラナアヒスイヤセムツ、キサンゴカサゴ)の発見が続いています。

    <研究内容>
     2025年7月に無人探査機「クラムボン」を用いて南大東島北沖の海底を調査した際、水深760 mの急峻な海底において、これまで日本近海から記録のなかったアンコウ目アカグツ科イガフウリュウウオ属の魚類Solocisquama erythrinaが1個体発見・採集されました(図1)。本種は、体表全面に固い鱗をもち、鱗のそれぞれには先端が3、4叉に分かれた棘が1本あること、および体色が薄い赤色であることなどが特徴です(図2)。本種はハワイ諸島周辺の水深622–872 mから少数個体が採集されたことがあるのみの稀種であり、ハワイ諸島周辺海域にのみ分布する(固有種)と考えられてきましたが、今回の調査により南大東島にも生息することが明らかになりました。2024年の「D-ARK」調査航海では、従来ハワイ諸島でしか発見例のなかったヤセムツ科魚類ホラアナヒスイヤセムツが大東諸島の深海域に多数生息していることが明らかになっていました。今回のSolocisquama erythrinaの発見は、大東諸島の深海には中央太平洋の海洋島と共通した種が生息していることを補強する成果といえます。
     アカグツ科の魚類は一般的に、砂や泥が堆積する大陸棚*3やその斜面に生息すると知られる一方で、Solocisquama erythrinaの生息水深帯(622–872 m)にあたる南大東島の海底のほとんどは急峻な岩場です。本研究では急峻な岩場の隙間に僅かに砂が溜まっている地点において本種が発見されたことから(図1)、本種が岩場のなかにも存在する狭い砂底環境を利用あるいは選好している可能性が示唆されました。上記の分布・生息環境についての知見は、大東諸島を含む北西太平洋の海洋島における深海魚類相やその成因を考える上で重要といえます。
     この魚には未だ日本語の名称(標準和名)がなかったため、「島」にすむアカグツ科魚類という意味を込めた標準和名「シマグツ」を提唱しました。アカグツ科の「グツ」はヒキガエルを指す地方名に由来すると考えられています*4

    <今後への期待>
     「D-ARK」プロジェクトにおいて大東諸島から新種や初記録種が相次いで発見されていることは、これまで如何に国内の海洋島や深海カルスト地形における生物相が未解明であったかの裏返しともいえます。今後も深海洞窟のさらに深部へと踏み込む調査を計画しており、洞窟内からさらなる新種・未記録種の発見が期待されます。また、洞窟の内外の生物相調査を続けることで、大東諸島と中央太平洋の島々との間における魚類相上のつながりがさらに明確になるかもしれません。

    図1 急峻な海底で発見されたシマグツの水中写真(a: 南大東島沖 水深760 m)とその拡大写真(b)。黄色の矢印は本個体を指す。CC BY 4.0に基づき論文より引用。

    図2 本研究で初めて日本から記録されたシマグツ。aは側面、bは背面、cは正面からの標本写真。CC BY 4.0に基づき論文より改変・引用。

    図3 深海カルストの調査プロジェクト「D-ARK」のプロジェクトロゴ。プロジェクトの詳細については下記リンク先も参照のこと。

    D-ARK 研究概要
      https://www.jamstec.go.jp/dark/j/overview/

    <謝辞>
     本研究は(公財)笹川平和財団オーシャンショット助成事業のもとに実施されました。また、本研究の一部はJSPS科研費ならびにJST CRESTの助成を受けました。

    <用語解説>
    *1 海洋島:海底火山の活動などによって海中で誕生し、一度も大陸と陸続きになったことがない島のこと。
    *2 魚類相:その地域にどの魚種が生息しているかの全体像を指す語。
    *3 大陸棚:大陸を囲うように広がる、緩やかな傾斜の海底地形のこと。その縁辺部はやや急な斜面となっている。
    *4 榮川省造(1982)「新釈魚名考」より。

    <論文情報>
    (1)    論文タイトル:First northwestern Pacific record of the batfish Solocisquama erythrina (Actinopterygii: Ogcocephalidae)
                from Minamidaito Island, southern Japan
    (2)    雑誌名:Species Diversity
    (3)    著者:Mao Sato*, Kimiya Abe, Shinji Tsuchida, Masaru Kawato, Yoshihiro Fujiwara, and Keita Koeda
    (4)    DOI番号:10.12782/specdiv.31.213
    (5)    アブストラクトURL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/specdiv/31/2/31_SD26-06/_article/-char/ja
    (6)    出版予定年月日:2026年8月6日