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琉球大学理学部、沖縄美ら島財団、南西環境研究所、森林総合研究所らの研究チームによる研究成果が、国際学術雑誌「Mammal Study」オンライン版に掲載されましたので、ご報告いたします。 <発表のポイント>
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<概要>
琉球大学理学部の小林峻助教、(一財)沖縄美ら島財団の安里瞳研究員、(株)南西環境研究所の中田勝士副長、(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所の永田純子領域長および亘悠哉チーム長が、沖縄島北部やんばるの世界自然遺産地域に侵入した国内外来種であるニホンジカの糞を分析し、食性を明らかにしました。本研究では、近年食性解析に用いられるようになってきたDNAメタバーコーディング法を適用し、糞内容物に含まれる植物の種類を分析しました。1つの糞塊から採集した5粒の糞を分析したところ、28種もの植物が同定されました。また、その中にはレッドデータブックで絶滅危惧IA類に指定されている絶滅危惧種も含まれていました。これらの結果は、やんばるに侵入したニホンジカが多様な植物を採食することにより、絶滅危惧種の保全上の懸念が高まることを示唆しています。やんばる地域における一刻も早いニホンジカの防除が望まれるとともに、世界自然遺産地域への国内外来種の侵入を防ぎ、侵入が確認されたときには迅速に対応できる制度の整備が必要です。
<背景>
2024年10月に、沖縄島北部やんばるの世界自然遺産(*1)地域を走る県道で、シカが目撃されたという報道がありました。その2日後、目撃地点の近くの山中(世界自然遺産地域内)で、シカの1塊の糞を発見し、採集しました。遺伝子分析によりこの糞をしたシカの種同定と遺伝的由来を分析した結果、シカの種はニホンジカで、遺伝的には宮城県にある金華山島に由来する系統であることがわかりました。すなわち、目撃されたシカは人為的に持ち込まれ、やんばるに逃げ出したあるいは放逐された個体であることを示しています(関連論文参照)。沖縄島にはシカ類をはじめとした大型草食獣は分布していないため、ニホンジカは国内外来種(*2)ということになります。もともとシカ類が生息していない地域への侵入であったことから、在来植物への影響が懸念されました。

採集されたニホンジカの糞
<研究内容>
本研究では、ニホンジカの由来を調べたものと同じ糞塊を用いて、このニホンジカが採食した植物を明らかにするために、糞内容物に含まれる植物の種類の同定を試みました。糞内容物の同定には、近年動物の食性解析に用いられるようになってきたDNAメタバーコーディング法を適用しました。DNAメタバーコーディング法は、サンプル中のDNAを網羅的に解析することで、一度に複数の生物種を同定する方法です。
採集された糞塊のうちの5粒の内容物を調査した結果、被子植物24種、シダ植物4種の計28種もの植物が検出されました。同定された植物の中には、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧IA類に指定されているリュウキュウホウライカズラも含まれていました。リュウキュウホウライカズラは、沖縄島北部、渡名喜島、沖永良部島、喜界島のみに分布する中琉球の固有種で、石灰岩上や樹上に生育する種です。生育地が限られており、絶滅が危惧されています。

本研究のイメージ図
<研究の意義・今後の予定>
本研究の結果は、目撃されたニホンジカがやんばるの世界自然遺産地域で生育する多様な植物を採食している実態を反映しています。また、本個体が絶滅危惧種も採食していたことは、外来シカ類の存在が絶滅危惧植物の保全上の大きな懸念点であることを意味しています。
沖縄島には在来の大型草食獣が分布していないことから、沖縄在来植物は大型草食獣による採食圧に対する耐性を持ち合わせていないことが推測されます。また、絶滅が危惧される植物種については、わずかな採食であっても個体群の存続に大きな影響があると考えられます。したがって、本個体については、一刻も早いやんばる地域における防除が望まれます。
先行研究では、本ニホンジカの遺伝的系統が宮城県の金華山島由来であることが明らかとなりました。金華山島のニホンジカは1920年代から1970年代にかけて、全国各地の神社や動物園へ移送されていたことがわかっています。このようにして各地で飼育されていた金華山島系統の個体の一部がやんばる地域に持ち込まれ、その後飼育下から逸出した、あるいは放逐された可能性が示されています。
やんばるで目撃されたニホンジカは国内外来種であるため、国外由来の外来種にくらべて野外の個体の対策の制度が十分整備されていません。また、動物の飼育に関する制度も十分ではなく、逸出防止や逸出後の対応など飼育者の責任は定められていません。そのため、少なくとも世界自然遺産地域およびその周辺地域においては、動物の飼育管理ガイドライン等、動物の逸出や外来種/国内外来種の侵入を防ぐための制度の整備が必要です。
<用語解説>
(*1)世界自然遺産:「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が2021年に世界自然遺産に登録された。世界的に固有種や絶滅危惧種が多く生息している地域である。
(*2)国内外来種:国内に起源をもつ外来種。日本では、国外外来種(国外に起源を持つ外来種)に関しては、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」により特定外来生物を指定し、その取扱いに対して厳しい規制を設けているが、国内外来種について規制する法令はない。
<研究者のコメント>
世界自然遺産地域には固有種や絶滅危惧種も多く、報道直後から植生への影響を懸念していました。見つけることができたのは1糞塊ということでしたが、わずか5粒の糞分析で、絶滅危惧IA類の種を含む、28種もの植物が検出されたことには驚きました。これは、実際には毎日のように多様な植物を採食していることを示しているからです。世界自然遺産地域の自然を守っていくために、外来種対策が進むことを強く望みます。(琉球大学 小林峻)
糞の分析は糞がされた以前の数日間の食性しかわかりませんが、それでも絶滅危惧IA類や固有種が出現したことには驚きました。今回の結果は、もしニホンジカの繁殖を許し、個体数が増加した場合には、やんばるの植物に甚大な影響が生じることを示唆しています。次に同様のことがないよう、飼育個体の管理の厳格化が求められます。(森林総合研究所 亘 悠哉)
<論文情報>
(1) 論文タイトル:
Foraging of endangered and endemic plant species by a non-native sika deer found in the northern part of Okinawa-jima Island, Japan:
Evidence from fecal DNA metabarcoding analysis
(沖縄島北部において発見された国内外来種ニホンジカによる絶滅危惧種および固有種の採食: 糞DNAメタバーコーディング解析による証拠)
(2) 掲載誌:Mammal Study
(3) 著者:Shun Kobayashi, Hitomi Asato, Katsushi Nakata, Junco Nagata, Yuya Watari
小林峻(琉球大学理学部海洋自然科学科生物系)、安里瞳((一財)沖縄美ら島財団)、中田勝士((株)南西環境研究所)、
永田純子((国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所)、亘悠哉((国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所)
(4) DOI:10.3106/ms2025-0049
(5) URL:https://doi.org/10.3106/ms2025-0049
<関連論文>
(1) 論文タイトル:
A non-native sika deer found in the Yambaru region of Okinawa-jima Island, southern Japan, exhibits a genotype originating from northern lineage
(2) 掲載誌:Mammal Study
(3) 著者: Toshihito Takagi, Junco Nagata, Katsushi Nakata, Shingo Kaneko, Hidetoshi B. Tamate, Yuya Watari
(4) DOI:https://doi.org/10.3106/ms2025-0044