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石垣島沖のわずかな光のみが届く「トワイライトゾーン」と呼ばれる海域から、平坂 寛氏が新種のハゼ科魚類を釣りにより採集しました。
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<発表概要>
琉球大学理学部 海洋自然科学科 生物系の小枝 圭太 助教と佐藤 真央 産学連携研究員、生物系の卒業生であり現在は黒潮生物研究所兼フリーの生物系ライターの研究員である平坂 寛氏の共同研究チームはヤツシハゼ属の新種を発見し、このハゼの外観から「Vanderhorstia supersaiyan(ヴァンダーホルスティア・スーパーサイヤン)」と命名しました。この新種のハゼは平坂氏が石垣島沖のトワイライトゾーン※1から釣りによって採集し、琉球大学の小枝研究室に持ち込んだことで新種であることが分かりました。
ヤツシハゼ(Vanderhorstia)の仲間には浅海に生息する種から水深123 mの深場に生息する種まで33種がこれまで知られていましたが、今回平坂氏によって採集された個体は水深210 mと非常に深い場所から得られています。これまでに知られているヤツシハゼ属の他種と比較すると、鰭に鮮やかな黄色の帯があることをはじめとする多くの色彩の特徴が全く異なっています。また、鱗の枚数や各部位の長さなど形にも多数の違いが確認されています。背鰭から尾鰭、臀鰭にいたる黄色い帯が人気漫画「ドラゴンボール」シリーズに登場するスーパーサイヤ人(英:Super Saiyan)を彷彿とさせることから、この魚を新種Vanderhorstia supersaiyanと命名しました。また、日本語の名称(標準和名)としては、この魚の持つ色彩の特徴がバリバリとほとばしる電気も彷彿とさせることから「エレキハゼ」の標準和名を提唱しました。
<研究の背景>
沖縄島および八重山諸島近海の水深100~300 mには、わずかな光のみが届く「トワイライトゾーン」が広がっています。この環境の魚類相※2については、トロール漁業がおこなわれていない沖縄県においてはとりわけ分かっていることがほとんどありませんが、近年、続々と新種や希少種の発見が相次いでいました。沖縄のトワイライトゾーンの魚類多様性を明らかにすることを目的として、これまで琉球大学理学部海洋自然科学科生物系の小枝 圭太 助教と同生物系で学生時代を同期として過ごした卒業生の平坂 寛 氏らによる共同調査が進められてきました。2022年に平坂氏が石垣島沖のトワイライトゾーンで釣り調査を実施し、鮮やかな色のハゼの仲間を釣りあげました。この写真を小枝助教に送付したところ、「ヤツシハゼ属(Vanderhorstia)の新種の可能性が高い」として、その日のうちに大学に持ち込まれ研究用標本となり、研究がスタートしました。
<研究内容>
石垣島沖から得られた標本とこれまで知られているヤツシハゼ属33種すべてとの比較を慎重におこなった結果、この標本は既存のすべてと明瞭に異なる新種であることが明らかになりました。この個体の最大の特徴は、鰭に体を取り囲むような鮮やかな黄色の帯があることで、これはヤツシハゼ属のどの種とも明瞭に異なります。そのほか、頭部や体の背面に黄色い斑紋がある、第1背鰭に鮮やかな黄色い斑紋があり外縁も黄色い、体に4つのダイヤモンド型の黄褐色の斑紋があることなども他の種にはない特徴です。さらに各部位の鱗の枚数や長さも、他の種と異なっています。
新種を記載する際には、世界共通の呼称である「学名」を新たに提唱する必要があります。石垣島から得られた標本は、ヤツシハゼの仲間でありつつ特徴的な鰭の模様がドラゴンボールシリーズに登場するスーパーサイヤ人を彷彿とさせることから、新種「Vanderhorstia supersaiyan(ヴァンダーホルスティア・スーパーサイヤン)」と命名しました。さらにこの魚には、日本語の名称(標準和名)もなかったため、特徴的な鰭の模様が体からバリバリと放電している様子も彷彿とさせることから「エレキハゼ」という標準和名も提唱しました。今回発見されたような特徴的な色彩をもった魚種でさえ、これまで未発見であったことから、沖縄のトワイライトゾーンにはまだまだ未発見の未記載種※3や希少種が数多く生息している可能性が高いと考えられると同時に、この環境での調査がいかに未発展かを浮き彫りにした成果といえます。

図1. 本研究で新種記載されたエレキハゼVanderhorstia supersaiyan。

図2. 採集された直後のエレキハゼVanderhorstia supersaiyan。
<謝辞>
本研究の一部は(公財)笹川平和財団オーシャンショット助成事業、JSPS科研費ならびにJST CRESTの支援のもとに実施されました。
<用語解説>
*1 トワイライトゾーン:水深100~300 mに広がる深海域の手前の水深帯。深海ほどは暗くなく、太陽の光がわずかに届く薄明かりの環境。
*2 魚類相:その地域に生息する魚類の種類構成。すなわち、どのような魚類がどのくらい存在しているかのこと。
*3 未記載種:今後、研究で新種として記載されるが学術的に未発表な種。論文等で発表されるまでは学名がなく、論文が発表されてはじめて新種となる。
<論文情報>
(1) 論文タイトル:Vanderhorstia supersaiyan sp. nov. (Perciformes: Gobiidae) collected from the twilight zone off Ishigaki-jima Island, Okinawa, Japan(石垣島沖のトワイライトゾーンから得られたハゼ科の新種Vanderhorstia supersaiyan)
(2) 雑誌名:Ichthyological Research
(3) 著者:Keita Koeda*, Hiroshi Hirasaka, Mao Sato
(4) DOI番号:10.1007/s10228-025-01047-6
(5) アブストラクトURL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10228-025-01047-6
(6) 出版予定年⽉⽇:11 ⽉ 27 ⽇
