研究成果

悪玉コレステロールを減少させる作用のある糖尿病治療薬を臨床試験で証明

 兵庫医科大学(兵庫県西宮市、学長・野口 光一) 臨床疫学 教授 森本 剛及び、琉球大学(沖縄県中頭郡、学長・西田 睦) 大学院医学研究科 臨床薬理学 教授 植田 真一郎らの共同研究グループは、血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値を下げる薬(スタチン)を既に服用しているハイリスク(※1)の2型糖尿病患者に、糖尿病治療薬(DPP4阻害薬)を1年間投与する臨床試験を行った結果、糖尿病治療薬「アナグリプチン」に、さらに悪玉コレステロールを減少させる作用があることを明らかにしました。
 (※1)心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患

【発表のポイント】
  • 悪玉コレステロールを減少させる作用がある糖尿病治療薬が判明した
  • 悪玉コレステロールを更に減少させる薬剤は、将来の心臓病や脳卒中の予防に繋がる
  • 2つの効果を持つ薬剤は合併症の多い患者の多剤服用を減らすことが期待できる

 本研究成果に関する論文は、日本時間 2019年6月12日(水)18:00(英国標準時 6月12日(水)10:00)に、国際科学雑誌Natureグループ誌 「Scientific Reports」の電子版に掲載されました。

【論文情報】
・掲載誌: 「Scientific Reports」 12th, June, 2019電子版
・論文タイトル: 「Randomized Evaluation of Anagliptin versus Sitagliptin On low‐density lipoproteiN cholesterol in diabetes Trial (REASON Trial)」
・著者:森本 剛、作間 未織(兵庫医科大学)、佐久間 一郎(北光記念クリニック)、島袋 充生(福島県立医科大学)、野見山 崇(福岡大学)、新崎 修(豊見城中央病院)、野出 孝一(佐賀大学)、植田 真一郎(琉球大学) 等



【研究の方法】
 研究対象者は、スタチンを8週間以上服用中のハイリスク2型糖尿病患者さん(20歳以上)です。当該患者さんを同意の下でランダムに2つのグループに分けて、「アナグリプチン」もしくは「シタグリプチン」という糖尿病治療薬をそれぞれ1年間投与しました。投与開始から各グループの患者さんの血中悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値を3ヶ月ごとに計測し、また、糖尿病の管理目標(ヘモグロビンA1c)値の数値も併せて分析しました。

【研究の結果】
 2種類の薬はどちらもDPP4阻害薬に分類され、よく似た作用機序(※2)を持つにもかかわらず、「アナグリプチン」グループでは「シタグリプチン」グループよりも悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値が有意に低下しました。「アナグリプチン」グループでは3ヶ月目から悪玉コレステロール値が低下し、評価期間中、最後まで維持されました。糖尿病の管理目標(ヘモグロビンA1c)値はどちらのグループも良好な結果でした。
 2型糖尿病の患者さんはもともと、心臓病や脳卒中を起こす危険性が高いことが知られています。既にコレステロール降下薬を服用している患者さんに、特定の糖尿病治療薬を投与することで悪玉コレステロール値をさらに下げることを示した本研究の成果は、多剤服用を回避できる可能性があるだけでなく、将来的に糖尿病に付随した心臓病や脳卒中などを減らすことが期待されます。
 (※2)薬剤が治療効果を及ぼす仕組みのこと

【研究者コメント】
■副主任研究者 森本 剛(兵庫医科大学 臨床疫学 教授)

長らく日常診療現場での薬剤性有害事象の臨床疫学を評価してきました。どのような薬剤にも主効果以外に副作用もあり、臨床医はそのバランスを取ってきました。驚いたことに、この新しい糖尿病治療薬は副作用として悪玉コレステロールを下げる作用が治験データから示唆されたことから、日常診療の中で臨床試験を行って検証しました。このように副作用の中には患者さんにとって有益なものもあることが分かり、新たな発見でした。

■主任研究者 植田 真一郎(琉球大学 大学院医学研究科 臨床薬理学 教授)

この研究は糖尿病薬の治験で、プラセボとの比較試験でたまたま認められたコレステロールへの作用が現実の診療のなかで標準的な治療と比べても認められるか、という結構困難な課題に果敢に取り組んだものです。海外での糖尿病薬の製造承認はアウトカム試験をやらないと認めてもらえず、この薬も「日本だけ」で販売されているものなので、その点で論文化には時間がかかったようです。