お知らせ

令和7年度 卒業式・修了式 学長式辞

 卒業生、修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。
 また、これまで皆さんを支えてこられたご家族の皆様、関係者の皆様にも、心よりお祝いを申し上げます。

 今年度、琉球大学からは学部1,386名、大学院214名、合わせて1,600名の方が、それぞれ新しい道を歩んでいくことになりました。

 皆さんがこれから生きていく社会は、文化や価値観、人生経験が異なる多様な人々が生きる社会です。そのような社会へと巣立っていかれる皆さんに、今日は「多様性」と「自由」について、私が考えてきたことをお話ししたいと思います。

 公平な機会が尊重され、誰もが「ここにいてよい」と感じられるのが多様性のある社会です。多様性の価値を肯定できる社会は成熟した市民社会です。しかし、そこでは、必ずしも一緒にいて心地の良い人とだけ付き合っていけるとは限りません。自分が知らないものや、自分と異なるものを、しばしば苦手な存在、理解できない存在として避けたくなることもあるでしょう。相手が自分の安心や安全を脅かすとなれば、「敵」にさえ思えてくるかもしれません。
 価値観の違いは、ときに対立を生みます。意見が違えば傷つくこともあるでしょう。人は自分を守るために、理解できないものや異なるものを、理解する前に排除しようとしてしまいます。そして、その結果、歴史の中では、多くの人々が深刻な差別と抑圧を受け、自由を奪われてきました。

 私はアメリカ文学の研究者なので、アメリカの例を少しお話ししますと、アメリカでは、長らく黒人奴隷制度を合法としていた時代がありました。同じ人間が、家畜同然に売り買いされ、所有者に自由を奪われた状態で働かされていました。奴隷制度は、人種という属性によって人間の価値を決める差別的な思想が、どれほど簡単に人間の尊厳と自由を破壊し、人間社会を蝕んでいくかを示しています。
 自由と平等を理念として掲げるあのアメリカが、なぜこのようなひどい制度を合法にしていたのか、と疑問に思うかもしれません。答えは簡単です。当時の大多数のアメリカ人が奴隷制度を「まちがっている」とは思わず、支持していたからです。自由の国と言われるアメリカの「自由」や経済的繁栄は、黒人の人々の自由を奪うことによって実現していたのです。

 実は、自由を奪われるのは、差別されたり、いじめられたりする側の人たちだけではありません。いじめる側にいる人々も自由を奪われています。気に入らないものを排除して、心地よく生きているように見える人々も、実は自由を奪われているのです。
 これはドイツの社会心理学者エーリヒ・フロムが『自由からの逃走』という本の中で示した思想です。フロムは、「人はときに自由の重さに耐えられず、自ら自由を手放し、権威のある人や多数派の意見に従うことで安心を得ようとする」と指摘しました。

 つまり、「自由」とは、単に好きなこと、やりたいことを制限なく行えることではありません。真の「自由」とは、自ら判断して行動し、その結果に責任を持つ、という自律的な営みができることです。
 誰かの意見を鵜呑みにして、他者の自由を奪っていることに気づかず、あるいは気づいていながら正当化する人たちも、自ら判断しても良い、という自由の重さに耐えられず、自由を手放しているといえます。

 一方、フロムと同じドイツ系ユダヤ人で、政治思想家のハンナ・アーレントは、「自由」についてこう考えています。「人間の自由は、人々が互いに言葉を交わし、行動し、公共の場で共に生きるときに初めて現れる」。つまり、自由は、孤立した個人の中にあるものではなく、多様な人々との関係の中で初めて実感される、ということです。この考え方は、私たちに「自由」についてもう一つ重要なことを教えてくれます。
 それは、「自由は、多様性なしには成立しない」ということです。
 もし社会が一つの価値観だけを正しいものとし、異なる声を排除するなら、そのような社会では自由は失われてしまいます。しかし、自由な社会は、互いの違いを認めながら共に生きることができる社会です。異なる意見が否定されることなく、皆が自由に表現できる社会では、豊かな人間性と共に、イノベーションにつながる新しい発想も育まれます。

 これから皆さんは、社会のさまざまな分野でその分野の担い手となっていきます。そのとき、自由を当然のものとして受け取るのではなく、自由がどのように守られてきたのか、そしてどのようにすれば守り続けていけるのか、時おり考えてみてください。
 今皆さんが手にしていると思っている自由は、自動的に、永遠に続くものではありません。歴史が示しているように、自由は守ろうとしなければ、静かに、いつの間にか失われていくものです。
 現在、地球上で起こっている戦争や紛争、そして災害などで、多くの人々が様々な自由を奪われています。平和は、自由が保障されている社会でしか実現しません。

 琉球大学は、「平和・共生の追求」を基本理念の一つとしています。その琉球大学で教育を受けた卒業生、修了生の皆さんは、どうか、自分の自由を大切にするのと同時に、他者の自由にも関心を持って、それを守ろうとする人であってください。そして、違いを恐れるのではなく、違いの中にこそ社会の豊かさがあることを理解してください。これからの社会の多様性と自由を支え、社会を平和的共生へと導くのは、皆さん一人ひとりの想像力、そして正しい勇気です。

 皆さんの前途が、自由と希望に満ちたものであることを心から祈念して、私の式辞といたします。

 本日は誠におめでとうございます。

 

令和8年3月24日
国立大学法人琉球大学 学長 喜納育江