研究成果

琉球沈み込み帯における地震スーパーサイクルを解明 ~数千年周期で繰り返す巨大地震の仕組みに迫る~ 目標11:住み続けられるまちづくりを目標15:陸の豊かさも守ろう

     琉球大学理学部中村衛教授らの研究チームによる研究成果が、Nature 系列の国際学術雑誌「Nature Communications」誌に掲載されます。
     本件に関する取材については、下記のとおりとなりますので、よろしくお願いします。 

    <発表のポイント>
    ◆ どのような成果を出したのか
     石垣島に分布する化石サンゴの地質記録を解析し、南部琉球海溝では巨大地震が数千年規模の「スーパーサイクル」として繰り返し発生してきた可能性が高いことを明らかにしました。

    ◆ 新規性(何が新しいのか)
     過去約5000年間の相対的海面変動と地殻隆起の履歴を復元し、地震断層モデルと組み合わせることで、巨大な沈み込み地震による急激な隆起が周期的に起きていたことを示しました。

    ◆ 社会的意義/将来の展望
     本研究は、琉球諸島における地震・津波発生の長期的特性を明らかにし、将来の地震・津波リスク評価において、数千年スケールの履歴を考慮する重要性を示すものです。

     

    <発表概要>
     琉球列島の東側~南側を縁取るようにして、琉球海溝が広がっています。琉球海溝ではフィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込むことで形成され、この領域は「沈み込み帯」とも呼ばれ最深部は7500メートルに達します。沈み込み帯は、地震や津波の危険性が最も高い地域です。九州と台湾の間に位置する島々の連なりである琉球弧は沈み込み帯で巨大地震が発生した際に大きな影響を受ける地域であり、ここ数十年にわたって地震計などを用いた器械的な観測が行われていますが、その地震発生メカニズムや地質構造には依然として不明な点が多くあります。実際にこの地域では地質学的な痕跡および歴史学的な痕跡から、過去には近年記録されているものよりも大きな地震や津波があったことも知られています。

     琉球弧における過去の、特に人の手による歴史的な記録が残っていない年代の地震発生履歴を解明するため、研究チームは石垣島にあるサンゴのマイクロアトール(図1)を調査しました。マイクロアトールは、浅い海に生息するサンゴが、海面の高さに制限されながら成長してできる自然の記録装置のような存在です。大地震に伴う地殻変動によって、海面が相対的に低下すると、サンゴの上部が露出して死滅し成長の形に段差が残ります。この段差と年代を調べることで、人の記録が残っていない時代の地震や地殻変動を復元することができます。そこで本研究では、石垣島の化石マイクロアトールを精密に測量し、内部構造と年代を解析することで、過去5000年間の海面変動と地震履歴を明らかにしました。研究チームによる石垣市名蔵地区の地形学的分析と、7つの化石サンゴの内部層序の研究により、過去5000年間の相対的な海面変動を復元することができました。このデータから、5000~4000年前と3000~2000年前に、サンゴが数段階に分けて隆起したことが明らかになりました。このことは大地震に伴う長期的な隆起があったことを示しています(図2)。

    図1 名蔵湾(石垣島)にあるサンゴのマイクロアトール
    a) NAG6_18Qの写真。
    b) 厚さ10 cmにスライスした試料の写真。
    c) NAG6_18QのX線モザイク画像。
    d) スライスしたマイクロアトール試料の内部構造を解釈した図。
    e) 最高生存水位(HLS)曲線。



    図2 南部琉球における完新世の地震スーパーサイクル
    a) 名蔵における過去約5000年間の相対的海水準変化の復元。マイクロアトールの段差から推定された地盤の隆起と沈降の履歴を示す。赤い破線は地震に伴う隆起イベントを表す。黒い矢印は、各地震スーパーサイクルの時間的区分を示す。点線は静穏期、実線は活動期の期間を示す。
    b) 南部琉球地域で確認された津波の痕跡と隆起イベントとの対応関係。

     
     これらの段階的な隆起は、沈み込み帯で繰り返し発生した大規模地震による可能性が考えられます。そこで研究チームは、マイクロアトールから復元された隆起量と時期をもとに、地震断層のモデル計算を行い、どのような地震がこれらの変動を引き起こし得るのかを検証しました。地震断層のモデリング(図3)により、これらの現象は、大規模な沈み込み地震に伴う急激な隆起で説明できることが明らかになりました。これらの隆起の一部は、これまでの研究で特定されている津波の発生時期と一致しており、周期的な繰り返しの仮説を裏付けるものとなっています。   



    図3 名蔵における地震に伴う地盤隆起の再現
    a):琉球海溝沿いに想定される地震の破壊域。青・オレンジの楕円は想定破壊域、緑の点は約2000年前の大津波痕跡の位置、赤枠は名蔵の位置を示す。
    b):名蔵で推定された地盤隆起量と地震モデルの比較。色付きの点は過去の隆起量、線は地震による地盤変動の再現結果を示す。浅い場所で大きくすべる地震と、やや深い場所で起きる地震による隆起パターンの違いを表している。

     今回の研究の結果、巨大地震が頻繁に発生する時期が2000年以上の長い間隔で繰り返すという、地震の「スーパーサイクル」が存在する可能性が高いことを示しています。本研究結果は、琉球海溝における沈み込みのメカニズムを明らかにするとともに、地震や津波のリスクが高い地域における評価には、従来の数十年から数百年規模の記録だけでなく、数千年にわたる長期的な履歴を考慮することが重要であることを強調しています。

     

    <用語解説>
    ①スーパーサイクル(地震のスーパーサイクル)
     巨大地震がほとんど起きない静穏期と、巨大地震が集中的に発生する活動期が、数百年から数千年の時間スケールで繰り返される現象のこと。

    ➁サンゴのマイクロアトール
     浅瀬で成長するハマサンゴなどの群体が、海面近くで上方への成長を止め、周囲へドーナツ状に拡大して形成される、小型(数メートル程度)の環礁状サンゴ群体。頂面の高さは当時の海面に強く制約されるため、過去の海面変動や地盤の隆起・沈降を記録する自然の指標となる。

    ➂相対的海面変動
     海面そのものの変化と、地盤の隆起・沈降を合わせた見かけの海面変化。

    ④地震断層モデル
     地震のときに地下の断層がどのように動いたかを、断層面の広がりやすべりの分布として表したモデル。地盤の隆起や津波の発生を説明するために使われる。

    ⑤化石サンゴ
     過去に生育していたサンゴが、隆起や海面低下によって海面上に取り残され、成長を停止した後も骨格構造が保存されたもの。現在も生育している現生サンゴとは異なり、化石サンゴは成長が止まっているため、その骨格内部には当時の海面高度や地盤の隆起・沈降を反映した成長構造が記録されている。これらの構造や年代を調べることで、人の記録が残っていない過去数千年規模の地震や海面変動の履歴を復元することができる。

     

    <論文情報>
    (1)   タイトル: Evidence of megathrust earthquakes and seismic supercycles in subtropical Japan from millennia-old coral microatolls (数千年にわたるサンゴ・マイクロアトールから明らかになった、亜熱帯日本における巨大プレート境界地震と地震スーパーサイクルの証拠)
    (2)   雑誌名:Nature Communications
    (3)   著者: Sophie Debaecker*, Nathalie Feuillet1, Kenji Satake, Kohki Sowa, Masaki Yamada, Tetsuro Sato, Mamoru Nakamura, Atsushi Watanabe, Ayaka Saiki, Jean-Marie Saurel1, Giovanni Occhipinti, Tsai-Luen Yu and Chuan-Chou Shen.
    (4)   DOI番号: 10.1038/s41467-025-67724-2
    (5)   アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41467-025-67724-2