研究成果

脳の基底核領域の血管周囲腔拡大は認知機能検査(前頭葉機能検査: FAB)の低スコアと関連する

 

     国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典、以下 国立長寿医療研究センター)もの忘れセンター 佐治直樹副センター長と金城よしの外来研究員は、琉球大学や久留米大学医学部医療検査学科 室谷健太教授と協力して、脳MRI画像の異常所見(基底核領域の血管周囲腔拡大)1)が、前頭葉機能検査(FAB:Frontal Assessment Battery)2)と関連することを発見しました。この研究は、もの忘れセンターで実施している腸内細菌と認知症に関する研究の一環で実施されました。

    【ポイント】
    ・もの忘れ外来で、MRI画像所見と認知機能検査との関連を調査しました。
    ・脳の基底核領域の血管周囲腔拡大は、前頭葉機能検査(FAB)と独立して関連しました。
    ・血管周囲腔拡大とは、高齢者の脳MRIで散見される異常所見です(脳小血管病)。
    ・血管周囲腔拡大を解析することで、認知症の発症機序の解明に役立つかもしれません。

    本研究は、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターの長寿医療研究開発費、日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費:JP20k07861、JP24K10546)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターの「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(異分野融合発展研究)、公益財団法人ダノン健康栄養財団、公益財団法人本庄国際奨学財団、文部科学省の高度医療人材養成拠点形成事業(高度な臨床・研究能力を有する医師養成促進支援: GP R6-11)の支援で実施されました。
    研究成果は、2025年10月22日に国際学会World Stroke Congress 2025(WSC 2025)で発表され、科学雑誌Journal of Alzheimer's Diseaseでも論文公開されます。

    【研究の意義】
    脳MRI画像の拡大血管周囲腔という画像所見は脳ドックなどで高齢者に散見され、認知症との関連でも最近注目されつつあります。今後、MRI画像を詳細に解析していくことで、認知症における発症機序の解明につながるかもしれません。

    図1:今回の研究の流れ(腸内細菌研究の一環)

    今回の研究では、上記の「腸内細菌研究」で得られたデータを解析して実施した。

    図2:血管周囲腔拡大について

    血管周囲腔とは、脳血管周囲における髄液や間質液が貯留している腔のことであり、
    穿通動脈(基底核部)や髄質動脈(半卵円中心部)で発達している。
    脳小血管病の1病型であり、基底核領域と半卵円中心領域で病態が異なると推測されている。最近では、脳内の老廃物を排出するグリンパティックシステムとの関連も想定されている。

    表1. FAB正常群と低下群での比較

    MMSE:ミニメンタルステート検査(簡易認知機能検査)、NfL:ニューロフィラメントL(脳神経組織の障害指標)、EPVS:血管周囲腔拡大.
    FAB低下群では、MMSEスコアも低下し、血漿ニューロフィラメントLが高値であり、
    基底核領域のEPVSが高度である割合が多かった。

    表2. FAB低下に関する多変量ロジスティック回帰分析

    FAB低下群を従属変数としたロジスティック回帰分析.
    *p < 0.05. ASCVD: atherosclerotic cardiovascular disease.
    多変量ロジスティック解析では、基底核領域のEPVSは年齢など他の関連因子と独立して、FABが低下するオッズ比が約4.4倍高かった(FAB <13点)。

    【まとめ】
    脳の基底核領域の血管周囲腔拡大は、前頭葉機能検査(FAB)と独立して関連した。
    血管周囲腔拡大は脳小血管病の1病型であり、高齢者における血管リスクの管理が、認知機能の維持に重要かもしれない。

    【注釈】
    1) 血管周囲腔拡大:髄質動脈の血管拍動の影響によって血管周囲が拡大した状態。
    血管拍動の影響の他に、脳血液関門の障害に伴って血管透過性が亢進したり、アミロイドβタンパクが大脳皮質や軟髄膜の動脈壁に沈着して間質液の還流路が遮断され、その上流の血管周囲腔に間質液が貯留するためとも考えられている(図2.参照)。
    2) 前頭葉機能検査(FAB:Frontal Assessment Battery):脳の前頭葉機能を中心に評価する検査である。言葉の概念化(類似の把握)、言語流暢性、運動プログラミング、干渉への感受性、抑制性制御、理解行動を調べる6項目で構成される。スコアが低下するほど、前頭葉の機能障害の可能性が高くなる。
    【今回の論文情報(10/22公開)】
    Kinjo Y, Saji N, Murotani K, Sakima H, Takeda A, Sakurai T, Kusunose K. Association between enlarged perivascular spaces in the basal ganglia and the Frontal Assessment Battery: A cross-sectional study.
    雑誌:Journal of Alzheimer's Disease
    論文URL:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/13872877251383446

    【当施設における腸内細菌の研究に関する情報】
    国立長寿医療研究センター もの忘れセンターの研究紹介ページを参照下さい。
    URL https://www.ncgg.go.jp/hospital/monowasure/research/