研究成果

沖縄島では今や希少?オンブバッタを琉球大学・千原キャンパスで発見!
12年ぶりの標本を伴った確実な記録と市民科学コミュニティの観察の再検証による追加記録 目標4:質の高い教育をみんなに目標15:陸の豊かさも守ろう

     琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設の和智仲是助教と同大博物館(風樹館)の小浜継雄協力研究員は、九州以北ではごく普通に見られる身近なバッタのオンブバッタを、沖縄島で12年ぶりに確認し標本を伴った確実な記録として報告しました。本研究成果は 2025 年 1 月 20 日付で琉球大学博物館 (風樹館) が発行する学術誌 Fauna Ryukyuanaに掲載されました。

     今回、12年ぶりにオンブバッタの標本を伴った観察・記録を行い、加えて、市民科学プラットフォームiNaturalistに投稿された沖縄県のオンブバッタ類の記録を再検証し、2件のオンブバッタの追加記録も合わせて報告しました。2011年以降の標本を伴った学術的記録はなく、さらに、市民科学コミュニティによる近年の観察例もごく限られていたことから、沖縄島のオンブバッタは個体数が少ないと考えられます。

     今回の発見を契機に、これまであまり注目されておらず現状についての情報が不足している沖縄島のオンブバッタに対する関心が集まり、その保全の必要性を評価するための情報が蓄積されることを期待しています。

    <発表概要>

     南西諸島にはオンブバッタの仲間は、オンブバッタとアカハネオンブバッタの2種が知られています。オンブバッタは八重山諸島を除く日本全土に分布しており、九州以北では身近なバッタの一つですが、沖縄島では「2010年以降の記録はみあたらない」と言われ文献1)、近年の学術的な記録がないことから個体数が少なく希少と考えられます。今回、和智仲是助教は、琉球大学・千原キャンパス内で、オンブバッタを発見・採集しました。これは、沖縄島からの標本を伴う確実な記録としては12年ぶりのものになりました。

     また、市民科学プラットフォーム iNaturalist ( https://www.inaturalist.org ) に投稿されている沖縄県のオンブバッタ類の記録を確認したところ、沖縄島から15件、南大東島から1件、石垣島から2件、西表島から16件の合計34件あり、そのうち今回の発見を除くと 6件(沖縄島の5件と南大東島の1件)がオンブバッタと同定されていました。和智仲是助教と小浜継雄研究員の研究グループによる再検証の結果、6件のうち、オンブバッタと確認されたのは、沖縄島の2件のみでした。また、アカハネオンブバッタと同定されている観察には確実にオンブバッタと判断できるものは含まれていませんでした注1)


    図1. 沖縄島産オンブバッタ(左)と西表島産アカハネオンブバッタ(右)(ともに褐色型;和智仲是撮影)後翅が透き通って、無色に見えるのがオンブバッタで、赤いのがアカハネオンブバッタ。

     アカハネオンブバッタは国内では南西諸島に分布し、2012年頃から関西を中心に分布を拡げています文献2)。アカハネオンブバッタが最近侵入した地域では、近縁な在来のオンブバッタに悪影響を及ぼすのではないかと危惧されています文献2)。沖縄島はアカハネオンブバッタの自然分布地であると考えられていますが、はじめて記録されたのは1976年です文献3)。その頃の記録文献3)からは、当時はオンブバッタとアカハネオンブバッタが同じくらいの個体数が見られたことがうかがえます。これまで沖縄島のオンブバッタについて近年の記録がないとされていたのは、単純に調査不足である可能性がある一方で、実際に近年の記録が乏しいことや市民科学コミュニティの観察においてもオンブバッタについての観察はごくわずかであることから、オンブバッタの生息個体数が少ない、もしくは生息地が限られている可能性が考えられます。そして、開発など人の活動の影響による環境の変化に加えて、アカハネオンブバッタの存在により、沖縄島のオンブバッタが個体数を減らしている可能性も考えられます。

    <今後の展望>

     沖縄島のオンブバッタは、最近、アカハネオンブバッタが侵入した本州や四国のオンブバッタの将来の姿を示している可能性もあるのではないかと考えています。また、沖縄島では、これまでオンブバッタはあまり注目されておらず、ひっそりと姿を消しつつあるのではないかと危惧しています。今後、研究者による調査のみでなく、市民科学コミュニティによる観察を通じて、オンブバッタの生息数や生息範囲の変化などについての情報を蓄積することが必要なのではないかと考えています。その際には、確実な同定ができるように標本を伴った観察を行うことと並行して、写真をもとにオンブバッタとアカハネオンブバッタを高い確度で見分ける方法を確立する必要があると考えています。

    注1)        アカハネオンブバッタとされている観察のうち、1件はオンブバッタの可能性があるものの、確実な同定ができなかったため、「オンブバッタ属の一種」として扱っています。

    <参考文献>

    1)    槐 真史,  2020. 沖縄の昆虫. 学研の図鑑LIVEポケットSpecial. 学研プラス, 東京.
    2)    Okayasu, J., K. Yasuda & M. Hamaguchi, 2020. Discovery of an exotic grasshopper Atractomorpha sinensis sinensis Bolívar, 1905 from Shikoku, Japan through citizen science monitoring. Japanese Journal of Systematic Entomology, 26: 371–376.
    3)    金城政勝・東 清二・小浜継雄, 1978. 琉球大学農学部附属演習林の昆虫. ( 3 ) トンボ目, ナナフシ目, カマキリ目, 直翅目. 琉球大学農学部学術報告, 25: 711–722.

    <論文情報>
    1. 論文名:沖縄島からのオンブバッタ (バッタ目・オンブバッタ科) の12年ぶりの確認と市民科学コミュニティによる観察記録の検証
    2. 雑誌名:Fauna Ryukyuana 71: 7–13
    3. 著者名:和智仲是*・小浜継雄
      *: 責任著者
    4.  URL: https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2021013