研究成果

沖縄本島南方沖で海溝型巨大地震を引き起こすプレート間の固着域を発見

平成30年 8月 1日
国立大学法人 名古屋大学
国立大学法人 琉球大学
国立大学法人 静岡大学

沖縄本島南方沖で海溝型巨大地震を引き起こす
プレート間の固着域を発見

名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センターの田所敬一(たどころ・けいいち)准教授、琉球大学理学部の中村 衛(なかむら・まもる)教授、静岡大学防災総合センターの安藤雅孝(あんどう・まさたか)客員教授(名古屋大学名誉教授)らの研究グループは、沖縄本島南方の琉球海溝沿いにプレート間が強く固着している場所(固着域)があることを海底地殻変動観測の結果から新たに発見しました。この研究成果は、米国科学雑誌「Geophysical ResearchLetters」に受理され、平成 30 年 7 月 3 日付けでオンライン公開されました。つきましては、下記の要領で取材してくださるよう、お願いいたします。

日時 : 随時連絡可
内容 : 別紙参照
問い合わせ先:
琉球大学理学部物質地球科学科 中村 衛
電話:098-895-8571
E-mail:mnaka@sci.u-ryukyu.ac.jp


名古屋大学 大学院環境学研究科 地震火山研究センター 田所敬一
電話:052-789-3042
E-mail : tad@seis.nagoya-u.ac.jp

 

沖縄本島南方沖で海溝型巨大地震を引き起こす
プレート間の固着域を発見

【背景】
南海トラフでは巨大地震の発生が懸念されていますが、その南西方の延長部にあたるのが琉球海溝です。この海溝も南海トラフと同じ立派なプレート境界で、この海溝を境にフィリピン海プレートが琉球列島を乗せている陸側のプレートの下に沈み込んでいます。この海溝沿いでは、津波を伴ったマグニチュード(M)8クラスの巨大地震として、1771年の八重山地震や1911年の喜界島地震が知られていますが、海溝型巨大地震の発生頻度は決して高いわけではなく、地震発生ポテンシャルは低いとされています。また、科学的データの不足を理由に、政府による海溝型地震の長期評価が行われていません。
東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)や南海トラフの地震のような海溝型地震は、長年にわたって固着していたプレートの境目(固着域)が一気に破壊することで発生します。このときの海底面の動きによって海水が持ち上げられ、津波が生じます。したがって、海溝型地震の長期評価や津波の想定のためには、まずはプレート間の固着状況(どこがどれだけの強さでくっついているか)を面的に把握することが不可欠です。
プレート間の固着状況は、GPSに代表される地殻変動観測によって、陸側のプレートがどれだけの大きさで陸側に押されているかを測定した結果から推定することができます(図1)。ところが、琉球海溝沿いの陸地は海溝に平行な一列の島嶼列のみであるため、陸上での地殻変動観測をもとにプレート間の固着状況を知ることは困難です。さらに、琉球列島がプレート間の固着による動きとは反対の海溝側へ向かって迫り出すように動いていることも、固着状況の推定を困難にさせています。

【実施事項】
そこで、琉球列島よりも海溝に近い場所で地殻変動を測定するため、我々の研究チームでは、沖縄本島から約60km南方の水深2300~2900mの海域2カ所(琉球海溝からそれぞれ55kmと70kmの地点)において、約10年間にわたって海底地殻変動の調査を実施しました。海底地殻変動観測とは、観測船から送信した超音波の伝わる時間から海底に設置しておいた機器(海底局:写真1)の位置を繰り返し決めて、海底局の動き、すなわち地殻変動を測定する技術です。調査には沖縄県水産海洋技術センターの調査船「図南丸(となんまる)」、および海洋エンジニアリング(株)の海洋調査船「第三開洋丸」を使わせていただきました。

【成果】
約10年間にわたる調査の結果から、どちらの地点も沖縄本島に向かって動いていることが明らかになりました(図2)。動きの大きさは、海溝に近い地点では1年あたり6.3cm、もう1ヵ所では1年あたり2.1cmでした。これらの動きは、陸側のプレートがフィリピン海プレートの沈み込みに引きずられて動いていることを意味しており、プレート間が固着していることの証拠を掴んだことになります。そして、この動きと国土地理院のGPS観測網(GEONET)の観測結果を併せて分析したところ、この海域に少なくとも長さ130km×幅20~30km(最大幅60km)にわたってプレート境界が強く固着している部分(固着域)があることが分かりました(図2)。この固着域は、次の地震に向かってそのエネルギー(ひずみ)を蓄えていると言えます。ただし、観測点の制約から、固着域がどこまで広がっているかは、まだ明らかになっていません。
最近の研究で、1791年に沖縄本島南方の沖合でM8クラスの海溝型地震が発生し、与那原に11mの津波が押し寄せたことが報告されています。今回発見した固着域は、この津波を起こしたとされる領域と重なっており(図2)、将来的な海溝型地震と津波の発生が懸念されます。

【意義・課題】
今回の研究成果で、沖縄本島南方沖に固着域があり、琉球海溝も海溝型地震を発生させる能力があることが分かりました。しかし、観測点の数や配置上の制約があり、その一部を発見したにすぎないかも知れません。平成 16 年に政府の地震調査研究推進本部がまとめた報告書『日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価について』では、南西諸島周辺においては「将来巨大なプレート間地震が発生するとは考えにくい」と述べられています。
今回の研究で明らかになった最新の知見をふまえて、この考え方は早急に改める必要があるでしょう。
今後は、対象海域を琉球海溝全域に拡大して同様の調査・観測を行い、固着域の広がりやひずみの蓄積状況を明らかにすることが望まれます。その成果は、沖縄県における地震の発生予測や津波の想定に役立てられることが期待されます。

【研究プロジェクト】
なお、この研究の一部は、平成19年度から始まった科学研究費補助金基盤研究(B)「南西諸島の沈み込みに伴い巨大地震が発生するかのか?−海底地殻変動観測からの検証」、および平成26年度から始まった内閣府の総合科学技術・イノベーション会議による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」の支援のもとで行われたものです。


【論文名】
著者:Tadokoro, K., Nakamura, M., Ando, M., Kimura, H., Watanabe, T., & Matsuhiro,
K.(田所敬一・中村 衛・安藤雅孝・木村 洋・渡部 豪・松廣健二郎)
題目:Interplate coupling state at the Nansei-Shoto (Ryukyu) Trench, Japan, deduced
from seafloor crustal deformation measurements
論文誌:Geophysical Research Letters (45巻)
DOI:10.1029/2018GL078655


図1:北西−南東方向の深さ断面図。①フィリピン海プレートが沈み込むことで、②固着域のところでは陸側のプレートが引きずられ、結果として③海底局設置場所の海底が沖縄本島方向に動く。観測されるのは③の動きであり、これを分析することで固着域の場所と固着の強さ(くっつき具合)が分かる。なお、今回の研究で明らかになった固着域(図2参照)の場所を本図に示した。

写真1:海底に設置した海底局。上端部の黒い装置が音響送受波器。オレンジ色の容器の中に電子回路と電池が収められている。全体の高さは80cm弱で、重さは約50kg。

図2:海底地殻変動観測から明らかになった沖縄本島南方沖のプレート間固着域。赤で濃く塗ったところは確実に固着域がある領域で、薄く塗ったところは固着している可能性がある領域。黒の点線で囲んだ場所は▽印が海底地殻変動観測点で、矢印は沖縄本島に対する動きを示している。