研究成果

深場から「飛び石」的に浅場へ移動してサンゴ回復か 目標13:気候変動に具体的な対策を目標14:海の豊かさを守ろう

 琉球大学熱帯生物圏研究センター波利井佐紀准教授の研究チームによる研究成果が、国際誌「Scientific Reports」に掲載されました。

<発表のポイント>
◆サンゴ礁深場は一部の浅場サンゴ類の"避難地"となり、その幼生供給源の1つとして期待されていますが、実際のフィールドで深場からの幼体が浅場に順応し、生き残るかはわかっていません。

◆研究チームは、深場(水深40m)に生息するサンゴが浅場の回復に貢献するかどうかを幼体の野外移植実験と室内飼育実験より調べ、サンゴ再生には中間水深(水深20m)が幼生加入の”ステッピングストーン(飛び石)”の場として機能することを明らかにしました。

◆サンゴ礁では海洋熱波などによりサンゴが死滅してきており、その回復には有性生殖による幼生の加入が鍵となっています。今回、深場海域からの幼生加入により回復力を高める重要な水深帯が示され、サンゴ礁保全への基礎データとなることが期待されます。

 

<発表概要>
 サンゴ礁の深場(水深30m以深, 中有光サンゴ生態系, 注1)は光量が弱く、夏季には浅場よりも水温が低くなります(図1A)。そのため、一部のサンゴ類の海洋熱波による白化からのレフュジア(避難地)となり、浅場で衰退したサンゴ類の幼生供給源として期待されています。しかし、実際のフィールドでサンゴの浮遊幼生が深場から浅場に定着して生き残り、サンゴの回復に貢献するかはわかっていません。
 これまでに、琉球大学熱帯生物圏研究センターの波利井佐紀准教授の研究チームは、沖縄瀬底島海域において、浅場では白化で局所的に死滅したトゲサンゴSeriatopora hysrix (注2)の群落を水深40mに発見しています(図1B, C)。今回、同研究チームは、このトゲサンゴをモデルとして深場から浅場海域へ幼体を移植し、生残等を調べるとともに、異なる水深を再現した室内飼育実験を行いました。


図1 A 瀬底島の水温年変動(2015-2016)。夏季は水深が深くなるほど水温が低い;B 瀬底島沖水深40mに生息するトゲサンゴ;
        C トゲサンゴの幼生(約1mm)。褐虫藻と共生する。

 

 野外移植実験では、水深3-5mに移植した幼体は移植1ヶ月後にすべて死亡した一方、水深40m, 20mでは6ヶ月後に約10%の個体が生残しました(図2)。また、異なる定着方向(定着基盤の上方向=光を受ける、基盤の下方向=影)による差を調べたところ、水深3-5mでは基盤の下方向に移植した幼体はより長く生残しました。


図2 A 浅場への移植の様子。B, C 水深20mに移植されたトゲサンゴの幼体。移植2ヶ月後(B); 移植6ヶ月後(C)。スケールバー=400μm

 

 さらに、異なる水深帯の光環境を再現した室内飼育実験を行なったところ、水深40m, 20mの光条件では定着率はそれぞれ92%、75%でしたが、水深10m, 5mの光条件ではそれぞれ31%, 0%となり、白化した個体も見られました(図3)。このことは、幼体は急激な強光には順応できないことを示しています。


図3 飼育実験で白化した幼生(A)と稚サンゴ(B)スケールバー=400μm

 これらの結果から、浅場のトゲサンゴ再生には、中間水深(水深20m)が「飛び石(stepping stone)」の場として機能し、浅場サンゴ回復に貢献していく可能性が示されました(図4)。より浅場への移動には、幼体-共生褐虫藻がさらに時間をかけて光環境に順応する必要があると考えられます。また、浅場でも岩影など光の弱い環境に定着すれば、再生につながることもわかりました。現在、サンゴ礁では気候変動による海洋熱波により浅場のサンゴが白化、死滅してきており、その回復には有性生殖による幼生の加入が鍵となっています。今回、深場海域からの幼生供給により回復力が高まる重要な水深帯が示され、その成果は、今後、どのような海域を重点的に守っていくかなどのサンゴ礁保全につながる基礎データとなることが期待されます。


     図4 浅場サンゴの回復過程を推定した模式図

 

<SDGs>
本研究成果は、持続可能な開発目標(SDGs)「13. 気候変動に具体的な対策を」、「14. 海の豊かさを守ろう」に貢献します。

   

 

<用語解説>
注1)中有光サンゴ生態系:サンゴ礁の深場、水深30mから約150mの光が弱い環境にある生態系。英語で“Mesophotic (メソフォティック)Coral Ecosystems”と呼ばれ世界的にも注目されている海域である。

注2)トゲサンゴ Seriatopora hystrix:ハナヤサイ科に属する半球形になる枝状のサンゴ。インドー太平洋のサンゴ礁にごく普通にみられ、その生息水深は幅広い。繁殖様式は「幼生保育型」とよばれ、サンゴ体内で浮遊幼生をつくり放出し、その幼生は褐虫藻と共生している。本種は高水温で白化しやすい。

<論文情報>
日本時間 7月28日に公開されました。
(1)    Limited acclimation of early life stages of the coral Seriatopora hystrix from mesophotic depth to shallow reefs
             (邦題:トゲサンゴの初期生活史における深場から浅場への限られた順応)

(2)    雑誌:Scientific Reports

(3)    著者:Rian Prasetia1, Fredric Sinniger1, Takashi Nakamura1, 2, Saki Harii1*   
             プラセティア リアン、シニゲル フレデリック、中村 崇、波利井佐紀*
            1 琉球大学熱帯生物圏研究センター;2琉球大学理学部   
              *責任著者(Corresponding author)

(1)    DOI: 10.1038/s41598-022-16024-6
            論文:https://www.nature.com/articles/s41598-022-16024-6