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沖縄県初の僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル手術に成功 目標3:すべての人に健康と福祉を

<発表概要>
 琉球大学病院 第三内科の池宮城秀一医師、當間裕一郎医師、岩淵成志特命教授らは、何らかの理由で外科手術が受けられない重症僧帽弁閉鎖不全症の患者さんに向けた新しい治療法である経皮的僧帽弁接合不全修復術(経皮的僧帽弁クリップ術:MitraClip)に県内で初めて成功しました。

【これまでの背景】
 僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の弁のひとつである僧帽弁が完全に閉じなくなり、左心室が収縮した際に血液が左心室から左心房に逆流してしまう病気です。発症には様々な原因があり、加齢、リウマチ熱、感染性心内膜炎、拡張型心筋症、心筋梗塞、慢性心房細動などにより、僧帽弁自体が裂けたり、僧帽弁を支える組織に不具合が生じて僧帽弁の位置がずれたりすることで弁が完全に閉じなくなります。重症の僧帽弁閉鎖不全になると息切れやむくみなどの心不全が出現し、命に関わることがあります。薬物治療を十分に行っても心不全をコントロールできない重症の僧帽弁閉鎖不全に対しては、僧帽弁を修復または人工弁を置換する外科手術が一般的に推奨されますが、年齢や併発症のために外科手術を選択できる患者さんは多くありません。

【今回の成果】
 経皮的僧帽弁接合不全修復術(経皮的僧帽弁クリップ術:MitraClip)は外科手術が何らかの理由で受けられない患者さんに向けた新しい治療法です。MitraClipは、全身麻酔下に足の付け根の血管よりカテーテルを挿入し、カテーテルを通して僧帽弁のずれを改善させ、逆流を減らすことのできる治療法です。胸を大きく切開せず、また、心臓を止めずに治療ができるため、外科的な弁置換術と比べて、患者さんの体への負担が少なくすることが可能です。術後、早期にリハビリを行うため、およそ1週間程度の入院で治療を行うことができます。2017年10月より日本でもMitraClipが認可され、2018年4月より保険適応となっています。2022年3月1日現在で全国95施設のみ実施施設に認定されており、琉球大学病院は、2021年10月に県内で唯一の実施施設に認定され、2021年12月22日に県内で初めてMitraClipを施行しました。2022年3月末までに3例の患者さんに治療を行い、全て無事に成功し、患者さんの術後経過も良好です。

【今後の展望】
 これまで年齢や併存症のために手術を受けることが難しかった患者さんに対しても治療が可能となりました。ただし、すべての患者さんにMitraClipを施行できるわけではなく、僧帽弁の形態によりMitraClipの治療自体が困難な患者さんもいるため、最終的には循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医、心臓リハビリテーションスタッフ、看護師、放射線技師、臨床工学技士で構成されたハートチームで十分にカンファレンスを行ったうえで、慎重に適応を決定しています。

<用語解説>
1.    僧帽弁
  左心房と左心室の間にあって、2つの部屋を遮るドアとなり、血流を一定方向に保つ逆流防止弁の役割を果たしている。

2.    僧帽弁閉鎖不全症
  僧帽弁閉鎖不全症は、様々な原因により僧帽弁が完全に閉じなくなり、左心室が収縮した際に血液が左心室から左心房に逆流してしまう病気。

3.    心不全
  心臓のポンプ機能が悪くなり、全身に十分な量の血液が送れなくなり、また、肺や肝臓などに血液が滞って、呼吸困難やむくみ、動悸、疲労感など、さまざまな症状をひきおこす症候群