研究成果

種子島沖海底泥火山でメタンハイドレートを発見

 神戸大学大学院海事科学研究科の井尻暁准教授、海洋底探査センターの大塚宏徳助教、琉球大学理学部の土岐知弘准教授、大学院生満留由来、高知大学総合科学系複合領域科学部門の村山雅史教授、大学院生瀬戸口亮眞、海洋研究開発機構の星野辰彦主任研究員、金沢大学理工学域の加藤萌(JSPS-PD)らが共同で行った琉球海溝北部の種子島沖海底泥火山の調査航海において、メタンハイドレートの採取に成功しました。日本周辺の海域において南海トラフよりも南西の琉球海溝でメタンハイドレートが発見されたのはこれが初めてです。
 本研究航海は、東京大学大気海洋研究所の令和3年度全国共同利用研究航海として海洋研究開発機構の東北海洋生態系調査研究船「新青丸」を用いて実施され、種子島沖海底泥火山群のうち3つの泥火山で、採水・採泥調査、地球物理探査を行いました。このうち第15泥火山と番号がつけられた泥火山の山頂付近にてピストンコアラーで筒状の堆積物(コア)を採取し、船上でコアの中身を確認したところ、海底面から約1 mの深さに塊状のメタンハイドレートが約20 cmの厚さで入っていることが発見されました。

ポイント
・琉球海溝で初めてメタンハイドレートの存在を確認
・種子島沖の海底にはメタンハイドレートが広く分布している可能性がある

研究航海の概要
 本研究航海は、東京大学大気海洋研究所令和3年度全国共同利用研究航海として海洋研究開発機構の東北海洋生態系調査研究船(学術研究船)「新青丸」を用いて実施されました。この航海では、種子島沖に分布する海底泥火山群(*1)において、泥火山の活動度および放出される海底下深部起源のメタン、微生物、炭素物質の量を見積もり、泥火山活動による海洋・生物環境への影響を明らかにすることを目的として、採水・採泥調査、地球物理探査が行われました。種子島沖には数十以上の泥火山が広く分布しており、平成24–26年にこの海域において詳細な海底地形調査が実施されました。現在までに15個が泥火山として確認され、番号がつけられています。平成27年と令和元年には学術研究船「白鳳丸」の航海で、地質学、地球化学、微生物学の研究者らの共同研究として第1、第2、第3、第14泥火山において堆積物と直上の海水が採取されており、本研究航海は3回目の総合的な研究調査航海として実施されました。本航海では令和3年12月28日に和歌山港を出港し、12月29日から種子島沖第8、第10、第15泥火山で調査を行い(図1)、令和4年1月6日に横須賀港に帰港しました。メタンハイドレート(*2)は調査最終日の令和4年1月3日、第15泥火山の山頂付近でピストンコアラーという採泥機器を用いて採取した筒状の堆積物試料(コア試料)から発見されました。同時に採取した海底表層の堆積物にはシロウリガイ(*3)の殻が多量に入っており、またピストンコアラーの上部にガス抜きのための穴を開けたところ、ガスと共に海水が勢いよく数十秒間噴き出し続けたことから(図2)、堆積物には多量のメタンが含まれていることが期待されました。船内の実験室でコア試料の中身を確認したところ、海底面から約1 mの深さの堆積物中に白い固体状の物質が2層、20cmの幅で入っており、発泡しながら解けていく様子が観察されました(図3)。赤外線カメラを用いて測定された表面温度は周囲の堆積物よりも低い0℃近くを示し、メタンハイドレートの分解による温度低下が観察されました(図4)。採取したメタンハイドレートは、船内のディープフリーザーで保存し持ち帰りました。また一部は、ガラス容器に入れて解かし、下船後、ガス組成を測定したところ高濃度のメタンが検出されました。


       図1 調査海域位置図と種子島沖第15泥火山海底地形図

 


図2 ピストンコアラーから噴き出した海水

 


図3 採取されたメタンハイドレート(白い固体状の部分がメタンハイドレート)

 


図4 赤外線カメラ画像(メタンハイドレートの表面付近は最低温度[+0.3℃]を示した。)

 

今後の展開
 種子島沖には、第15泥火山と同様の海底泥火山が多数存在しています。また海底下にはメタンハイドレートの存在を示すとされる海底疑似反射面(BSR)が観測されているため、同海域にはメタンハイドレートが広く分布していることが期待されます。今後、採取したメタンハイドレートの構造や、ハイドレートに含まれるメタンや水の詳細な化学分析を行い、メタンの起源や生成深度、供給メカニズムを調べることで、種子島沖海底のメタンハイドレートおよび炭化水素資源の成因や規模、炭素循環について明らかにしていく予定です。

用語解説
(*1)海底泥火山:泥火山は、地下深部で形成された泥質流体(水やガスを多く含む泥質堆積物)が表層に噴き上がってできた円錐形の高まりで、世界各地の大陸縁辺域に分布している。日本周辺では紀伊半島沖熊野灘と種子島東沖に多く存在していることが知られている。

(*2)メタンハイドレート:メタンガスと水分子が、低温・高圧環境下で氷状に結晶化したもの。メタンハイドレートを解かして得られるメタンガスはハイドレートの体積の約160倍であり、小さな体積から多くのエネルギーを得ることが可能。またメタンガスを燃やしたときに出る二酸化炭素量は石炭や石油を燃やすよりも少ない。このような特徴から石炭や石油に代わる次世代エネルギー資源として期待されている。

(*3)シロウリガイ:メタンを多く含む海底湧水域に密集して生息する二枚貝。メタンや硫化水素などをエネルギー源に有機物合成を行う化学合成細菌とよばれる微生物を体内に共生させる化学合成共生生物の代表種。

謝辞
 本研究航海は令和3年度東北海洋生態系調査船(学術研究船)新青丸共同利用のKS–21–27次航海「種子島沖海底泥火山群の活動度よび海底下生命・炭素の放出量調査〜泥火山を介した地圏—水圏—生命圏の相互作用の解明〜」として行われました。また本研究はJSPS科研費20H04315の助成を受けています。