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琉球大学理工学研究科 博士後期課程の上村 亮 大学院生、同大学教育学部/理工学研究科の富永 篤 教授、同大学教育学部の学部生の崎浜 秀明氏、国立科学博物館の吉川 夏彦 研究員、中國文化大学生命科学科の陳 怡惠 教授、同大学の巫 奇勳 准教授、京都大学大学院人間・環境学研究科の松井 正文 名誉教授らの研究チームによる研究成果が、台湾の学術雑誌「Zoological Studies」誌に掲載されました。本研究では、ゲノムワイドな遺伝解析により、石垣島と西表島のアイフィンガーガエルでは、氷河期に陸続きとなった際に集団間でわずかな遺伝子交流があったものの、遺伝的な独自性は維持されてきたことが明らかになりました。この結果は、島の生物の分化には地理的な隔離だけでなく、生息環境などの要素も重要である可能性を示しています。
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<発表概要>
琉球大学理工学研究科 博士後期課程の上村 亮 大学院生と同大学教育学部の崎浜 秀明 学部生、同大学教育学部/理工学研究科の富永 篤 教授、国立科学博物館の吉川 夏彦 研究員、中國文化大学の陳 怡惠 准教授,同大学の巫 奇勳 准教授、京都大学大学院人間・環境学研究科の松井 正文 名誉教授らの研究チームは、日本では八重山諸島の石垣島と西表島のみに生息するアイフィンガーガエル*1) のゲノム解析を行いました。解析の結果、両島の集団は、氷河期に島々が陸続きになった時期に限定的な遺伝的交流が生じたものの、それぞれの集団の遺伝的な独自性は維持してきたことを明らかにしました。この結果は、島の生物の分化には、島がつながっていたかどうかだけでなく、陸橋上の生息環境や生物自身の生態的特性も重要である可能性を示しています。

図1.概要図
◯背景
琉球列島は、世界的にも生物多様性が高く、多くの固有種が生息する地域です。その生物相の形成には、過去の海面変動が大きく関わってきたと考えられています。特に氷河期には海面が低下し、現在は海で隔てられている島々の間に一時的な「陸橋*2)」が形成されました。このような陸橋は、生物が島から島へ移動する経路として重要な役割を果たしてきたと考えられています。
八重山諸島の石垣島と西表島も、現在は海によって隔てられていますが、水深は十数メートルと非常に浅く、氷河期には海面低下によって繰り返し陸続きになったと考えられています。実際、両島に分布する多くの動物では島間の遺伝的な違いが小さいことが報告されています。一方、石垣島と西表島、台湾に分布するアイフィンガーガエルでは、これまでのミトコンドリアDNA(mtDNA)*3)を用いた研究から、石垣島と西表島の集団が大きく遺伝的に分化していることが分かっていました。しかし、mtDNAは遺伝情報の一部しか反映しないため、両集団が分岐した後、氷河期の陸橋形成時に遺伝的な交流が生じていたのかは明らかではありませんでした。
◯研究内容
そこで本研究では、ゲノム全体から多数の遺伝的変異を検出できるMIG-seq*4)という手法を用いて、一塩基多型(SNP)*5)を解析しました。得られたデータを用いて系統解析や集団遺伝解析を行い、石垣島、西表島および台湾の集団間の遺伝的な関係を調べました。その結果、石垣島、西表島、台湾北部、台湾中部に対応する遺伝的なまとまりが確認され、特に石垣島と西表島の集団は地理的に近接しているにもかかわらず、それぞれ遺伝的独自性を維持していることが明らかになりました。

図2. 系統解析および集団遺伝解析の結果。
(A) コンカティネイト配列(368,562 bp)に基づく最尤法系統樹。(B) STRUCTURE解析(878 SNPs)の結果。
Kはクラスター数を表し、K=3の時、石垣集団、西表集団、台湾集団の3つに分かれ、K=5の時台湾集団が北部集団と中部集団に分かれた。
さらに、石垣島と西表島の集団の過去の交流を検証するため、「分岐後に完全に隔離された」「継続的に交流した」「分岐後の初期のみ交流した」「長期間の隔離後に再び接触した」という4つのシナリオを比較しました。その結果、長期間の隔離後に再び接触したとする「二次接触*6)」の個体群動態モデルが最もよくデータに適合しました。mtDNAで得られた両集団の分岐年代から推定すると二次接触の時期は約2万4千年前(約1万4千~3万4千年前)となり、石垣島と西表島の間に陸橋が形成されていた最終氷期と重なりました。
以上の結果から、石垣島と西表島のアイフィンガーガエルは、古い時代に遺伝的に分化した後、氷河期の陸橋形成に伴って再び接触し、限定的な遺伝子流動*7)が生じた可能性が示されました。陸橋による接触が生じても、その後の遺伝子流動は両集団の遺伝的な分化を解消するほど大きくなかったと考えられます。つまり、島々が陸続きになっても、そこに生息する生物が必ずしも自由に移動・交流するとは限らないことがゲノムデータから示されました。アイフィンガーガエルは森林に依存し、樹洞にたまった水たまりを繁殖場所として利用します。そのため、氷河期に陸橋が形成されても、陸橋上に森林や適切な繁殖環境が十分に存在しなければ、個体の移動、分散が制限された可能性があります。すなわち、石垣島と西表島の間に生じた陸橋はすべての生物を自由に通す単純な「橋」ではなく、生物それぞれの生態的特性によって移動のしやすさが異なる「フィルター」として機能した可能性があります。
◯社会的意義・今後の展望
本研究は、琉球列島の生物多様性が、島の隔離や陸橋形成といった地理的・地質学的要因だけでなく、過去の気候や生息環境、生物自身の生態的特性との相互作用によって形成されてきたことを示すものです。これは、島嶼地域における生物多様性の成り立ちを理解するうえで重要な知見となります。
今後は、台湾を含むより広範囲での調査や集団動態解析、島間での生態・繁殖形質の比較を進めることで、系統間の遺伝的分化が維持されてきた要因を明らかにするとともに、琉球列島の生物の進化史をより詳細に解明することが期待されます。
<用語解説>
*1)アイフィンガーガエル
石垣島、西表島、台湾に分布する樹上性のカエル。樹洞などに溜まった水たまりで産卵し、オスは卵を乾燥から保護し、メスは孵化した幼生に無精卵を与えるという世話行動がみられます。
*2)陸橋
海面低下などによって、現在は海で隔てられている島や大陸との間に一時的に現れる陸地。本研究では、氷河期の海面低下によって石垣島と西表島の間に形成された陸地を指します。
*3)ミトコンドリアDNA(mtDNA)
細胞内のミトコンドリアに含まれるDNA。動物では基本的に母親から子へ受け継がれ、集団や種の進化の歴史を調べるために広く利用されています。
*4)MIG-seq
ゲノム中の多数の領域を同時に調べ、多数の一塩基多型 (SNP) を検出する手法です。全ゲノム配列が明らかになっていない野生生物にも利用できます。
*5)一塩基多型(SNP)
DNA配列の1か所の塩基が個体や集団によって異なる遺伝的変異です。多数のSNPを比較することで、集団間の遺伝的な違いや過去の交流を調べることができます。
*6)二次接触
一度隔離されて別々に分化した集団が、その後の環境変化や分布域の変化などによって再び接触することです。
*7)遺伝子流動
異なる集団の個体が移動して繁殖することなどにより、集団間で遺伝情報が移動することです。
<論文情報>
(1) Genome-wide SNPs reveal long-term genetic divergence despite secondary contact during Pleistocene land bridge formation in Kurixalus eiffingeri (Amphibia: Rhacophoridae)
(ゲノムワイドSNP解析が明らかにしたアイフィンガーガエルの進化史―更新世の陸橋形成による二次接触にもかかわらず維持された長期的な遺伝的分化―)
(2) Zoological Studies
(3) Ryo Kamimura*, Shumei Sakihama, Chi-Shiun Wu, Yi-Huey Chen, Masafumi Matsui, Natsuhiko Yoshikawa, Atsushi Tominaga*
(4) DOI : 10.6620/ZS.2026.65-55
