研究成果

5cm四方の新手法が明らかにする沿岸埋立の影響 ― サンゴ礁の“見えにくい多様性”に迫る ― 目標14:海の豊かさを守ろう

     琉球大学理工学研究科の石橋暖氏と、ジェイムズ・デイビス・ライマー教授を含む研究チームによる研究成果が、海洋生物学の学術雑誌「Marine Biodiversity」誌に掲載されました。

     成果のポイントは、以下の通りです。

    • 本研究では、従来の生物調査で用いられる数 m×数 mのサイズのコドラートに代わり、5cm × 5 cm という微小スケールを対象とした「マイクロコドラート法」を新たに開発し、沖縄島の浅海域にて本手法を試行しました
    • 一見すると生物が少ないように見える砂地や死サンゴ上にも、多様な小型底生生物が確認されました
    • 特に埋立地周辺の海域においては、他の海域とは異なる底生生物群集を検出し、沿岸埋め立てがサンゴ礁の微小な生息地まで影響を及ぼしていることを示唆しました
    • 沿岸環境の評価は、調査手法や観察スケールによって異なる結果が得られる可能性を示唆しました

    <発表概要> 
     沖縄島周辺のサンゴ礁は高い生物多様性を有する一方、沿岸域では長年にわたる開発や埋立が進められてきました。これらの環境への影響を評価するため、これまで主にコドラート法やトランセクト法(注1)といった調査手法が用いられてきましたが、これらの従来法は比較的大型の生物を対象とすることが多く、小型の底生生物(注2)については十分に評価されない傾向がありました。本研究では、沖縄島沿岸域複数地点を対象に、従来用いられてきた長さ10 mのトランセクト法に加え、本研究において新たに開発した「マイクロコドラート法(5 cm × 5 cm)」を用いて、底生生物群集を調査しました(図1)。

     その結果、埋立地周辺の海域では、トランセクト法ではソフトコーラル(八放サンゴ類)による被覆が比較的高い一方、マイクロコドラート法では砂による被覆が高い傾向が認められました。
     一方、自然海岸および護岸海岸では、CCA(無節サンゴモ類)(注3)やホヤ類など、比較的小型で従来の調査では詳細な評価が難しかった生物群が多く確認されました。また、統計解析(PERMANOVA)の結果、海岸間の群集組成は大きく異なることが確認されました。
     これらの結果は、調査手法や空間スケールの違いによって沿岸環境における生物群集の捉え方が異なる可能性を示すとともに、沿岸埋立(注4)がこれまで知られていなかった微小スケールにおける底生生物群集の構造に与える影響を明らかにできる可能性を示唆しています。
     本研究は、従来の調査で生物はいないと判断された場所にも多様な小型底生生物が存在することを示しました。さらに、調査スケールの違いによって、同じ海域でも生態系の評価や解釈が変わり得ることが明らかになりました。

    図1. マイクロコドラート法を用いた潜水調査の様子(桝井拓馬氏 提供)

    <研究背景と内容>
     野外における環境調査や生物調査において、その場所にどんな種類の生物がどのくらいいるのかを把握することはきわめて重要です。このための代表的な方法がコドラート法とトランセクト法で、コドラート法は四角形の枠を調査地に置きその枠内にいる生物をカウントする方法を、トランセクト法は調査地に縄などのラインを引きそれに沿って現れる生物をカウントする方法をそれぞれ指します。サンゴ礁生態系の研究では、魚類や大型の造礁サンゴを対象とした調査が多く行われてきました。底生生物調査においても、例えば10 mのラインを引いたトランセクト法による調査、3 m ×3 m の枠を使ったコドラート法による調査など比較的広い範囲にいる大きな生物を対象とする手法が主流であり、数 mm〜数 cm 程度の小型生物や育ち始めたばかりの小さな生物は、十分に評価されないという問題がありました。

     本研究ではこの点に着目し、従来の調査では「砂」「岩」「死サンゴ」などとして一括されがちであった基質表面を対象に、極小スケールで底生生物を記録・比較できる調査手法として「マイクロコドラート法」を開発しました。この方法では、5 cm × 5 cm という、従来法から比べると非常に小さなコドラートを使います。調査では、各調査地点において海底に長さ10 mのトランセクトラインを設置し、従来法による底生生物の被覆状況を記録しました。さらに、ライン周辺の基質表面に対してマイクロコドラートを適用し、5 cm × 5 cmの枠内に出現する生物を一つずつ記録しました。枠内では、CCA(無節サンゴモ類)やホヤ類、小型の藻類など、基質表面を覆う多様な底生生物や砂の被覆状況を対象としました。この手法を用いることで、従来法では把握が難しかった微小な生息環境における生物群集の特徴を、補完的に捉えることが可能となりました。

    <成果の意義>
    本研究の成果は、沿岸環境やサンゴ礁生態系を評価する際に、調査スケールの選択が結果の解釈に影響を与える可能性を示しています。

    • 小型で未解明な底生生物の分布を把握するための補完的な調査手法を提示
    • 沿岸埋立が進行する地域における生物群集の特徴について、より詳細な影響評価につながる新たな視点を提供
    • 今後のサンゴ礁モニタリングや海域間での比較研究において、調査手法選択の幅を広げる基礎的知見を提供

    本研究で開発されたマイクロコドラート法は、他地域のサンゴ礁や沿岸域においても、既存の調査手法を補う形での活用が期待されます。

    <用語解説>

    (注1)トランセクト法/コドラート法:
    調査区域内に一定の長さの線(トランセクト)や一定の面積をもつ枠(コドラート)を設定し、その範囲内に出現する生物の種類や被覆状況を定量的に記録する、生態学分野で広く用いられている調査手法。比較的目視しやすい生物を対象とすることが多い。

    (注2)底生生物:
    海底や岩、砂、死サンゴ表面などに付着、あるいはそれらを生活基盤とする生物群。サンゴ、藻類、ホヤ、海綿などが含まれる。

    (注3)CCA(Crustose Coralline Algae:無節サンゴモ類):
    細胞の内外に石灰質を沈着して、石のように固くなる紅藻の仲間。サンゴ礁形成やサンゴ幼生の着底を助ける生物として重要な役割を果たしている。

    (注4)沿岸埋立:
    浅海域を人工的に埋め立てて陸地化する行為。底質や濁度、光環境などを変化させ、沿岸生態系に影響を及ぼす可能性がある。

    <論文情報>
    雑誌名:Marine Biodiversity
    論文タイトル:Does land reclamation affect small-scale benthic communities? Micro-quadrats on coral reefs around Okinawa Island, southern Japan
    著者:Dan Ishibashi(石橋 暖)1, Giovanni Diego Masucci 2, James Davis Reimer 1,3
    所属:1琉球大学理工学研究科、2沖縄科学技術大学院大学(OIST)、3琉球大学熱帯生物圏研究センター
    DOI番号:https://doi.org/10.1007/s12526-026-01631-7