研究成果

沖縄を起点とした国際共同研究 〜インド太平洋から大西洋まで 汎世界的分布の実態を明らかに〜 目標14:海の豊かさを守ろう

     琉球大学を含む国際研究グループは、サンゴやイソギンチャクに近縁な刺胞動物である**スナギンチャク類(Zoantharia)1**を対象に、世界規模での分布と進化史を解析し、その成果を国際学術誌にて発表しました。本研究は、沖縄を含むインド太平洋域と大西洋域を横断的に比較した、同分類群としては初めての包括的研究です。本研究は、第一著者の Maria E. A. Santos 氏およびライマー・ジエイムズ・デービス(琉球大学)を中心に、日本、米国、ブラジル、香港、台湾、インドネシアなどの研究者が参加して実施された国際共同研究です。

    成果の概要は、以下の通りです。

    • 琉球大学を含む国際研究チームは、インド太平洋域(沖縄を含む)および大西洋域に分布するスナギンチャク類(Zoantharia)を対象に、世界規模での分布と進化史を解析しました。
    • 本研究は、現地調査データと既存文献情報を統合し、スナギンチャク類の全球的な生物地理パターンを初めて包括的に示した研究です。
    • 解析の結果、多くの属・科がインド太平洋と大西洋の両海域に分布する「汎世界的分布」を示し、両海域間に姉妹種関係と考えられる種群が多数存在することが明らかになりました。
    • これらの分布様式は、他の多くのサンゴ礁生物とは異なる特徴であり、スナギンチャク類が独自の進化史と分散過程を有している可能性を示しています。

    本研究成果は、将来のサンゴ礁生態系の変化予測や保全戦略の検討に資する重要な基礎知見を提供します。

    <発表概要>
     スナギンチャク類1はサンゴやイソギンチャクなどが含まれる刺胞動物の仲間で、世界中の海に広く分布し、特にサンゴ礁生態系においては、多様な生物のすみかとなるとともに、浅い海域に広く分布することで、生態系の構造と機能の維持に重要な役割を担っています。にもかかわらず魚類や造礁サンゴと比較すると研究例が少なく、地理的分布や進化については十分に解明されていませんでした。これらを明らかにするため、琉球大学を含む国際研究チームは、世界各地のサンゴ礁域に分布するスナギンチャク類について、現地調査データおよび既存文献情報を統合し、その地理的分布(生物地理)と進化的背景を解析しました。解析の結果、多くの属および科がインド太平洋域と大西洋域の両方に分布する「汎世界的分布」を示すこと、さらに両海域間で姉妹種(同じ属の中で最も近縁な種)の関係にあると考えられる種群が多数存在することが明らかになりました。本成果は、他の多くのサンゴ礁生物とは異なる、スナギンチャク類特有の進化史と分散様式を示すものです。本研究成果は、2026年1月30日付で国際学術誌Frontiers of Biogeographyに掲載されました。

    <研究背景と内容>
     スナギンチャク類は、世界中の海に広く分布し、サンゴ礁生態系において重要な役割を担う刺胞動物ですが、魚類や造礁サンゴと比較すると研究例が少なく、その全球的な分布パターンや進化史はこれまで十分に解明されていませんでした。そこで、琉球大学、ハワイ大学、香港大学の研究者が国際共同研究チームを結成し、生物地理学的なアプローチでこの課題に取り組むことにしました。
     生物地理学は、生物がどの地域にどのように分布しているのか、またその分布がどのような進化的・環境的要因によって形成されてきたのかを明らかにする学問分野です。これは進化の理解にとどまらず、将来の環境変化に対して生物がどのように応答するのかを予測する上でも重要な基盤となります。
     本研究の着想は、研究代表者の一人が2015年に沖縄で初めて潜水調査を行った際、インド太平洋域の高い生物多様性の中で、大西洋に分布する種と極めてよく似たスナギンチャク類が数多く存在することに気づいたことにあります。見た目や色彩、ポリプの形態が酷似しているにもかかわらず、地理的に大きく隔たった海域に分布しているという事実は、進化や分散の観点から大きな疑問を投げかけました。
     
     本研究では、世界各地のサンゴ礁での調査結果と文献データを統合し、スナギンチャク類の分布情報を網羅的に整理しました。これまで、大西洋とインド太平洋の生物相の違いについては、イシサンゴや魚類など、限られた分類群を対象とした研究が中心でした。これらのグループでは、両海洋間で種組成や多様性に大きな違いがあることが知られており、特にイシサンゴではインド太平洋の方がはるかに高い多様性を示すことが分かっています。
     一方、本研究で対象としたスナギンチャク類は、これまで研究例が少ない分類群ですが、解析の結果、こうした従来のパターンとは大きく異なる分布様式を示すことが明らかになりました。
     その結果、複数の分類群において汎世界的分布が確認され、またインド太平洋域と大西洋域の間で外見的・遺伝的に類似した姉妹種群が存在することが示されました。これは、多くのサンゴ礁生物が示す地域固有性の高い分布パターンとは対照的な結果です。
     本成果は、海洋生物多様性の理解が、研究が進んだ一部の生物群に強く依存してきた可能性を示しており、今後はスナギンチャク類のような「これまで十分に研究されてこなかった生物群」にも注目していくことの重要性を示しています。

    <成果の意義>
     本研究は、スナギンチャク類の全球的な生物地理パターンを初めて明らかにした先駆的研究であり、海洋生物の進化史理解に重要な基礎知見を提供します。近年、環境ストレスの高い海域において、一部のスナギンチャク類が造礁サンゴを凌駕し、優占的に分布する事例が報告されています。
     そのため、本研究成果は、将来のサンゴ礁生態系の変化を予測し、保全や管理方策を検討する上でも重要な科学的基盤となります。

    <今後の展望> 
     スナギンチャク類は、幼生期の分散過程や集団間の連結性など、依然として多くの未解明な課題を抱えています。今後は、分子生態学的解析や長期的なモニタリング調査を通じて、地球環境変動下における分布変化や生態的役割の解明を進めていく予定です。

    ① パプアニューギニアのヤドリスナギンチャク属(Epizoanthus sp.)の1種

     

    ② 沖縄のセンナリスナギンチャク(Hydrozoanthus gracilis)

    ③ 沖縄のマメスナギンチャク属(Zoanthus sp.)の1種

    ④ 沖縄のセンナリスナギンチャク(Hydrozoanthus gracilis)

    ⑤ 沖縄のマメスナギンチャク属(Zoanthus sp.)の1種

    謝辞
    本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:23H03821)(J.D.R.)の助成を受けて実施されました。

    <用語解説>
    1スナギンチャク:刺胞動物門・六放サンゴ綱に属する群体性の動物。体壁に砂粒を取り込んで体を補強しており、この特徴が「スナギンチャク」という名前の由来になっている。サンゴ礁から深海にかけて広く生息している。

    <論文情報>
    雑誌名: Frontiers in Biogeography
    論文タイトル: Global biogeography of zoantharians indicates a weak genetic differentiation between the Atlantic and Indo-Pacific oceans, and distinct communities in tropical and temperate provinces
    著者:Maria E.A. Santos, Hiroki Kise, Chloé Julie Loïs Fourreau, Bogdan Kiriukhin, Marcelo Visentini Kitahara, David Michael Baker, Robert J. Toonen, Pi Jen Liu, Arthur Chang, Ting-Hsuan Tu, Widiastuti, Kadek Miko Purnama Agustini, Brian W. Bowen, James D. Reimer
    DOI: 10.21425/fob.19.174247
    URL: https://biogeography.pensoft.net/article/174247/

    海外のpress release:
    https://www.eurekalert.org/news-releases/1114693
    https://www.alphagalileo.org/en-gb/Item-Display/ItemId/268386?returnurl=https://www.alphagalileo.org/en-gb/Item-Display/ItemId/268386

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