学長メッセージ

地域に愛され、次世代に選ばれる大学を目指して

 琉球大学は、「沖縄に高等教育機関を」と願う沖縄県民や海外に住む県系人の熱い思いと支援により、1950年、戦火によって灰燼と化した首里城の跡地に誕生しました。戦後の混乱の中、設立当初から「地域貢献大学」として沖縄の復興という使命を担う、地域の希望として設立された大学でした。1952年には8学部14学科を擁する組織となりました。それは、この小さな島嶼地域で文系・理系の学問を体系的かつ国際的な視野で学び、研究できる「総合大学」が誕生したことを意味します。
 その成り立ちを見ても、琉球大学は全国の国立大学の中でも類を見ない独自性と特色を持っていることがわかります。その一つに、琉球大学の創立当時に米国式の教育が取り入れられていたという点が挙げられます。米国統治下にあった沖縄を米国ミシガン州立大学の教授団が訪れ、一定期間滞在しながら大学組織や教育カリキュラム構築の助言のほか、授業も行いました。その教授たちは、英語学部はもとより教育や自然科学系の分野でも英語で授業をしたそうなので、当時の琉大生にとって英語を使うのはそれほど高いハードルではなかったと思われます。

 沖縄の歴史を紐解いても、琉球王国時代の知識人は中国に留学し、中国語を駆使して外交や文化的交流を行っていたことが知られています。小さな島々からなる沖縄は海に開かれた環境の中で、古くから言語や文化の異なる人々との接点を持ち続けてきました。一方、沖縄は、戦前から海外への移民が盛んであり、今日では世界各地に沖縄県系の人々によるコミュニティが根付いています。外部とのつながりを志向するこのような精神を育んだのは、四方が開かれた島という地理的特色だったのかもしれません。
 また、沖縄という亜熱帯の豊かな自然に恵まれた地域に立地していることも、他の国立大学には見られない琉球大学ならではの特色です。沖縄の山や海は、単に美しい景観として観光に訪れる人々を魅了しているだけでなく、学術的「問い」の宝庫として、知的探究心に満ちた研究者が世界各地から集まる研究フィールドとなっています。言語や文化の異なる人々と交わりながら歩んできた沖縄のこうした経験は、多様性を尊重する本学の理念にも息づいています。
 新しい価値を生み出すモノ・技術・考え方を創出することを「イノベーション(innovation)」と呼びます。しかし、イノベーションは、自分とは異なる存在との出会いや、そこから得られる発見や気づきがなければ生まれません。沖縄は小さな島嶼ではありますが、イノベーションを後押しする自由で寛容な空気に包まれた地域であると、私は考えています。そのような地域の発展に学術的に貢献しようとする総合大学であることこそが、琉球大学のアイデンティティであると言っても過言ではありません。

 本学のタグライン(標語)“Island Wisdom, for the World, for the Future” (「島の叡知を世界へ、未来へ」)にある“Island Wisdom”(アイランド・ウィズダム)とは、地域の自然や文化の存続、そして地域が直面する課題の解決を目指して、島の人々が生活の中で積み重ねてきた知恵や技術を指します。「島」という限られた空間ではありますが、そこから生まれる知恵や技術には、近代以降の世界の価値観を変えるパラダイムシフトの起爆剤となりうる普遍性があり、地球規模の課題解決にも貢献できると私たちは考えています。
 例えば、今日の島社会における「コミュニティ」の意義は、その代表的な例の一つといえるでしょう。かつては、島社会の村落共同体が個人の自由を制限するものとして、ネガティブな側面が強調されることが少なくありませんでした。しかし現代では、互いに助け合おうとする共同体のポジティブな側面を改めて見直そうという考え方も生まれています。過疎化が進む小さな島において今も存続している人と人との絆に対する考え方やそのあり方が、他の地域社会にも応用可能な知恵として再評価されています。このような例に見られるように、「アイランド・ウィズダム」は地域や国境、時代を超えて普遍性を発揮し得る知恵であり、そうした事例は数多く存在します。沖縄の自然・文化・歴史への深い理解に根ざし、「島の叡知」を教育と研究の柱に据え、社会に貢献できる人材を育成することこそが、教育研究機関としての琉球大学の最大の使命であると考えています。

 一方で、乱気流のように変化する近年の世界情勢により、大学を取り巻く環境も大きく変わる中、「アイランド・ウィズダム」が向き合う課題も多様化・複雑化しています。特に今日の日本の国立大学は、法人化してから20年という節目を迎え、かつてない財政難に直面しています。時代の変化に応じて姿を変えながら、「地域に貢献する大学」としての使命を守り続けてきた、沖縄で唯一の国立大学である琉球大学も例外ではありません。地域貢献型大学として地域のニーズに応えるためには、常に自らの在り方を見直し、新たな挑戦に挑みながら進化し続けることが求められています。これから本学が直面する環境は、ますます厳しさを増していくことが予想されます。しかし、琉球大学には「アイランド・ウィズダム」という確かな基盤があります。大学の内と外を隔てる壁を取り払い、多様なバックグラウンドを持つ人々が結集し、共に考え、挑戦することで、これまで培われてきた知恵が、さらに新たな「アイランド・ウィズダム」へと昇華されていくことを期待します。琉球大学は、沖縄をはじめとする地域の未来を見据えながら、学生、地域社会、そして国際社会とのコミュニケーションを通じて、地域のニーズを探るとともに、地域の皆さまに本学のシーズ(研究成果や技術)を知っていただくための活動を展開し、さまざまな人々が共にイノベーションを創出できる「開かれた大学」になることを目指してまいります。

                                                           第18代 琉球大学長  喜納 育江

PROFILE

喜納 育江 (きな いくえ)
【経歴】

1990年 琉球大学法文学部文学科卒業
1993年 米国ペンシルヴェニア州立インディアナ大学 英米文学部修士課程修了
1996年 米国ペンシルヴェニア州立インディアナ大学 英米文学部大学院博士課程修了
1996年 琉球大学法文学部講師
2001年 琉球大学法文学部助教授
2003年 琉球大学大学院人文社会科学研究科担当
2011年 琉球大学法文学部教授
2012年 琉球大学うない研究者支援センター長
2014年 琉球大学男女共同参画室長
2015年 琉球大学ジェンダー協働推進室長
2018年 琉球大学国際地域創造学部教授
2019年 琉球大学学長補佐
2022年 琉球大学大学院地域共創研究科担当
2022年 琉球大学附属図書館長
2023年 琉球大学副理事・副学長
2025年 琉球大学第18代学長 就任

【学位】

PhD in English (英米文学博士)
ペンシルヴェニア州立インディアナ大学 

【専門】

アメリカ文学