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 2019年 年頭挨拶

2019年01月08日掲載


1.新年の祝詞

謹んで新年のご祝詞を申し上げます。教職員の皆様には、平成31(2019)年亥歳の希望に満ちた新年をご家族お揃いにてお迎えのこととお慶び申し上げます。本年も琉球大学の教職員と学生の皆さんにとって健やかな佳き一年となりますよう祈念いたします。

今年は十二支の最後の亥歳で平成最後の新春、そしてまた私の任期もこの3月末日で終了となります。次期学長候補が決まり、次年度には新たな学長による琉球大学が船出することになります。新たな機軸で羅針盤を定め、この大学の舵取りをしてもらうよう希望します。

2.中教審「高等教育のグランドデザイン(答申)」

昨年11月26日に中央教育審議会から「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」が出されました。多くの論点が盛り込まれている中で、私は次の三つの具体的方策に注目しました。一つは学生や教員の流動性を高めること、二つは教員の多様性を拡大すること、三つ目は大学等の連携・統合を促進すること、です。

学生や教員の流動性を高めることについては、2040年に18歳人口が現在の7割程度になることが予測されることから、社会人や留学生、障がいを持つ学生など多様化する学生に相応しい大学づくりを行う必要があるということです。そのための柔軟かつ国際通用性を持った質の高い教育プログラムの提供が求められています。

このようなことをしても、将来推計によれば2040年における大学進学率は57.4%にとどまります。全国平均に比べて大学進学率の低い沖縄においては、リカレント教育をはじめとした付加価値の高い教育の提供によって、行政や経済産業、教育、保健医療等の各分野における有為な人材を輩出し、沖縄振興に貢献していかなくてはなりません。

教員の多様性を拡大することについては、学生や教育内容、研究分野が多様化する中、教員も多様化すべしという文脈で様々な人材の登用が必要であるという観点と、産業振興に即戦力となる実務的技能を身に付けさせる教育という観点がその考えの根底にあると思われます。外国人教員や女性教員、様々な分野における実務家教員の拡大が求められています。学外理事の登用や、そのうち学長も実業界から起用すべしということになるかも知れません。

三点目の大学等の連携・統合を促進することについては、経済界におけるイノベーション加速等のための企業の合併・統合を想起させる動きであり、規模の経済を追求することに主眼が置かれているように思えます。

ここでは主観的に3つの具体的方策をピックアップしましたが、大学改革のために規制緩和の名目で国立大学法人法や大学設置基準等の改正が行われることになっています。果たして,このようなグランドデザインが中長期における高等教育の活性化に繋がるのか。昨今の大学改革は、1970年代以降に進められてきた新自由主義に支えられたこの国の構造改革の延長線上にあると思われるからです。

3.経済体制と教育研究

そもそも資本主義経済は、動学的不均衡という特性を持ち、放っておくと大量失業が発生し、所得・富の分配の不平等は拡大するという動態現象を示すことは、よく知られています。そのような不均衡を是正するために、政府が政策的・制度的に市場メカニズムをコントロールしていかなければならないという福祉国家的経済思想があり、ケインズ派はこの立場をとります。

他方、新自由主義派は、政府は、極力、市場に介入してはならないという思想的特徴を持ち、儲けるためには手段を選ばない市場原理主義を支えています。そこでは、利権の確保が可能であり、一部の企業やグループが所得の大部分を占有する不平等化現象が起こりえます。その結果、既得権益が生じ、そのことが市場メカニズムをゆがめてしまうことになります。

現在進められようとしている大学改革は、新自由主義的市場原理主義に基づいた典型的な大学改革案のように見えます。言い換えれば、高等教育機関が効率主義と成果主義によって改革を余儀なくされています。大学の教育研究や社会貢献等のパフォーマンスに関連づけて、運営費交付金の配分が決められる流れになっているのをみると、そう思わざるを得ません。

教育や研究、診療に対して新自由主義に基づいた展開を強いている割には、政治家、企業家、官僚による権威主義的な管理で高等教育政策を縛っていることに対し、大きな違和感を抱きます。学術を基盤として大学で展開される教育研究・診療は、国家的・経済的イデオロギーによって支配されることがあってはならないからです。

大学は社会全体の財産であり、社会的共通資本であります。学生たちの人格形成の場であり、最先端の学問研究を切り拓く場としての大学は、効率主義や功利主義、権威主義で運営されてはいけないと思っています。言うまでもなく、大学は、学問の自由が保障された中で、学生及び教職員の人間的尊厳を守り、学問的発展を図る場でなければなりません。

ちなみに、昨年末にノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑先生(京都大学特別教授)は、日本経済新聞社のインタビューの中で、「イノベーションの基礎は学術だ。……政府が旗を振ってするものではない。……政府はあまり規制をせず、ばかげた挑戦をやりやすくする環境整備をすべきだ。」(「日本経済新聞」2018年12月3日11面)と語っておられます。

4.SDGsと大学

飜って、これから先において私たちが否応なしに直面し解決しなければならない世界的な課題は何でしょうか。それは、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標、通称「グローバル・ゴールズ」)であり、国連加盟193か国が2016~2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。持続可能な開発目標(SDGs)、は、貧困に終止符を打ち、地球を保全し、すべての人が平和と豊かさを享受できることを目指す普遍的な行動を呼びかけています。なお、SDGsは「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」でも触れられています。

SDGsの前身はMDGsです。MDGs(Millennium Development Goals : ミレニアム開発目標)とは、2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットにて採択され、2015年までに達成すべき目標とされていました。この目標が持続可能な開発目標SDGsに発展的に継承されたのです。

MDGsは、極度の貧困と飢餓の撲滅、普遍的初等教育の達成、ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上、幼児死亡率の削減など、8つの目標からなっていました。その対象は、後発開発途上国や内陸開発途上国、島嶼開発途上国でした。これに対しSDGsは、2030年までに、開発途上国のみならず新興国や先進国のステークホルダーの戦略と行動に大きな影響力を持っているのが特徴です。

MDGsを引き継いだSDGsは、具体的には17の目標からなり、「貧困をなくそう」(Goal 1)から「すべての人に健康と福祉を」(Goal 3)、「質の高い教育をみんなに」(Goal 4)、「ジェンダー平等を実現しよう」(Goal 5)、「人や国の不平等をなくそう」(Goal 10)、「海の豊かさを守ろう」(Goal 14)、「陸の豊かさも守ろう」(Goal 15)、「平和と公正をすべての人に」(Goal 16)、そして持続可能な開発に向けて「パートナーシップで目標を達成しよう」(Goal 17)と呼びかけています。17の目標は互いに他の目標とも関連しているので、システム思考で捉えなければなりません。

ところで、私はかつて開発経済学という科目を担当しており、UNDP(国連開発計画)の施策を中心に、持続可能な開発を通じて貧困を根絶し、不平等を軽減するための政策手段等について講義していました。当時の国内の大学で行われていた、通常の開発経済学の講義内容とは異なったものになっていました。

SDGsについては、単なる一授業科目としてだけでなく、その精神をふまえると、大学における教育研究との関連性が高いため、本学のすべての教育研究の基本の一つにSDGsを据えてもいいように思えます。SDGsは、複雑な社会的、経済的、環境的課題を幅広くカバーしており、健康や福祉、技術革新、気候変動など経済社会や自然生態系がどのように機能し関連し合い、私たちが住む地球の未来とどのように関わり相互作用するかを教育研究に生かすことが可能です。他の国立大学でも、SDGsの実現に向けた教育研究が行われ始めました。

大学は、SDGsの達成に重要な役割を担っていて、その果たす役割が期待されています。琉球大学がSDGsの達成に関わることになれば、世界的に広く認識される大学になれると確信しています。とりわけ島嶼大学ネットワークの中で、その存在感を強く示すことができると思います。

本学は、島嶼県・沖縄に立地する大学という宿命を有しています。沖縄に立地する大学として、SDGsに取り組む場合、具体的なゴールは、先に挙げた「貧困をなくそう」(Goal 1)、「すべての人に健康と福祉を」(Goal 3)、「質の高い教育をみんなに」(Goal 4)、「ジェンダー平等を実現しよう」(Goal 5)、「不平等をなくそう」(Goal 10)、「海の豊かさを守ろう」(Goal 14)、「陸の豊かさも守ろう」(Goal 15)、「平和と公正をすべての人に」(Goal 16)などが合致します。

本学には、困窮学生への経済的支援と併せて子どもの居場所を支援する学生ボランティアセンターの運営への協力、シングルマザーを支援するゆいまーる基金の拡充など、引き続き独自の取組も併せて継続してもらいたいと希望します。

5.沖縄版SD

さて、開発経済学を開講していたとき、持続的発展を表す沖縄の言葉がないかを考えたことがあります。沖縄には「ヌチドゥ タカラ」(命は宝)という至言があります。山里永吉さんの作品である沖縄芝居「首里城明け渡し」の中における第二尚氏王統第19代にして最後の琉球国王・尚泰(1843年~1901年)の台詞として知られている言葉です。

この言葉のヌチ(命)にヌチ(後)を掛けて、次のように付け足してみます。「ヌチヌユヌ ヌチドゥ タカラ」(後の世代の命が宝)。「ヌチヌユヌ ヌチドゥ タカラ」という言葉に代えると、これはまさしくSD(Sustainable Development:持続可能な開発)の概念になります。

Development(開発、発展、進歩、発育、生育、啓発、養成、発達、進展)という言葉に抵抗を示す人が多いのは承知しています。しかしながら、一般にSustainable Developmentとは、将来の世代の欲求を充足する能力を損なうことなく、現在世代の欲求を満たすことであるといわれています。時間軸が現在世代だけでなく、将来世代まで伸びるのが特徴です。「ヌチヌユヌ ヌチドゥ タカラ」は、将来世代までを含む沖縄版SDについての至言であると自負しています。

大学における教育研究活動についても、現時点における利権を巡って右往左往するのではなく、将来世代まで視野に入れて、現在のわれわれは何をしなければならないのかを熟慮しなければなりません。将来世代のことを常に念頭に置くことが、教育研究の原点ではないでしょうか。

大学改革が叫ばれている中ですが、2050年(琉大の創立百周年)、あるいはそれよりも先の百年の計に立脚して、教育研究は展望されるべきものであると思っています。そのような長期的なパースペクティブの中で、現時点で変えるべきところは変えていかなければ、ガラパゴス化してしまい、世間の大学を見る目は厳しくなってきます。

6.むすびに

むすびに、神学者であり宗教改革をおこなったマルティン・ルターの力強い言葉を引用します。「たとえ明日、世界が滅びようとも、私は今日、リンゴの木を植える。」ちなみに、リンゴはキリスト教における知恵wisdomの象徴だそうです。ご清聴ありがとうございました。

2019(己亥)年1月7日   

第16代学長 大城 肇