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子どもの貧困について

2015年12月28日 掲載


皆さんは、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」についてご存知でしょうか。これは、平成 25 年 6 月に成立し翌年 1 月に施行された、れっきとした日本の法律です。有効な対策を急がなければならないほど、深刻になってきているのがわが国の子どもの貧困です。平成 24 年の 17 歳以下の子どもの貧困率は 16.3%であり、子どもの 6 人に一人が貧困状態におかれているといわれていますので、かつて Japan as Number One といわれた、この国の凋落・衰退を改めて感じているところです。

発展途上国の貧しい子どもたちに手を差し伸べよう、という UNICEF のマンスリーサポートプロジェクトの呼びかけなどを、他山の石とせざるをえない状況にこの国は陥っています。貧困は、人為的に作られるケースが多く、人権侵害の典型だと思います。その原因究明をしっかりやることと、プライバシーを侵害しないような有効な手立てを急ぐ必要があります。所得の不平等化に関するトマ・ピケティの『21 世紀の資本論』が国民の関心を引いたのも、子どもの貧困など階層間の格差や不平等が顕在化したためだったのでしょう。

上記の法律の基本理念は、「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのない社会を実現すること」です。貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図ることが大事であるとされています。子どもの貧困対策は、子どもに対する教育の支援やその保護者に対する生活・就労・経済的支援等を、国をはじめ地方自治体、経済界、大学などが応分に行うことが重要です。国では、急速に進む少子化による人口減少を背景に、地域創生と人づくりを重点課題として、高等教育機関を巻き込んだ施策を次々と展開し始めました。しかし一方で、地方国立大学の定員削減が国会でも話題になり始めました。初等中等教育のみならず高等教育までのロングスパンで、「子どもの貧困」という重い課題に向き合う時が来ているのです。

さて、沖縄県の状況はどうでしょうか。子どもの貧困率そのものは把握できませんが、それに関連する指標を拾ってみましょう。まず、都道府県別貧困率(戸室健作山形大学准教授推計)でみると、沖縄県の貧困率は 29.3%と全国 14.4%のダブルスコアです。また、沖縄県の資料によると、生活保護率は 2.50%と全国第 5 位です(全国平均 1.71%の 1.5 倍)。また、有業者中年間所得が 200 万円未満の世帯の割合24.7%(全国は 9.4%)や非正規就業者率 44.5%(全国は 38.2%)、児童扶養手当受給率 1.7‰(全国は 0.85‰)は、全国 1 位です。これらの指標から、沖縄おける子どもの貧困率は、全国の 16.3%より高いのではないかと推測できます。 復帰後の統計では、沖縄県の県民所得が全国の7割、高等教育機関への進学率(37%前後を推移)も全国の約7割という状況が続いており、所得格差が教育格差に繋がっている様子が見て取れます。高校進学率や大学進学率が全国平均にキャッチアップできない状況も「子どもの貧困」に深く根ざしていると思います。また、県内の 11 の高等教育機関は全て沖縄本島に集中し、それ以外の地域では大学生との交流も大学教育の恩恵とも遠いという現実の中で、高等教育を通した豊かな自己実現のイメージも持ちにくく、これも教育格差を生む要因ではないでしょうか。

大学生は前述の法律による「子ども」には該当しませんが、学生の経済的背景が学業や生活等に影響を及ぼすことに変わりはありません。琉球大学では、平成 22 年度か ら、授業料免除選考基準を従来の成績重視から変更し、経済的困窮度が著しく高い学生の学業成績基準を緩和しました。その結果、全額免除・半額免除を受けた授業料免除者は、平成 22 年度の 1,889 人から平成 26 年度は 2,607 人となり、学生支援を強化することができました。しかし、地方国立大学としての琉球大学ができることや果たしていくべき責務はもっとありそうです。

沖縄県における「子どもの貧困」と「物理的・時間的制約による教育の機会均等の脅威」を結びつけて考えた時、琉球大学の果たすべき責務は大きく3つあると考えます。一つ目は、子どもたちへの高等教育機会の機会確保です。具体的には、高校生への進学先としての量的確保(学生定員の維持)と教育研究の質的確保(多様な学問分野を提供する学部や大学院の充実強化)です。二つ目は、学内の専門家や学生、および他大学の関係者、行政機関と連携した、子どもの学習支援や居場所づくりなどの支援の展開です。学生や教職員がそのような活動の担い手として協力していくことで、地域との結びつきを深めることができ、身近な子ども達を支援していくことにつながっていきます。三つ目は、貧困問題解決の一助となるよう、学術的エビデンスに裏打ちされた大学ならではの政策を積極的に提言し、その実現に向けて住民や行政機関との連携に尽力することです。

「教育は百年の計」と言われる所以は、教育がまさに人をつくり、その人々が国や地域を支え豊かにしていく原動力となるからです。子どもの教育水準は、親の所得水準 と関係が深いといわれ、所得格差には、教育・学歴格差が大きく影響しているということです。一般的には、〔低所得水準→低教育水準→低所得水準→〕という貧困の悪循環(連鎖)に陥ります。貧困の悪循環から立ち直るには、3 世代は要すると思っています。この悪循環を断ち切る有効な手だてが喫緊に必要です。大学もその一環として、将来の可能性を秘めた無垢な子どもたちに夢と希望を与えるため、地域の行動するシンクタンク、行動する21世紀市民として、より積極的に活動する時が来ているのです。