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空気のおいしさ

2015年7月2日 掲載


普段、あまり感じることのない、「空気のおいしさ」を実感する機会がありました。去る 5 月にハワイ島(Big Island)のマウナケアに登ったときのことです。マウナケア(Mauna Kea)は、標高が 4,205m のハワイ諸島の中で最も高い山。マウナケアとは、ハワイ語で「白い山」を意味するそうです。

富士山よりも遙かに高い山であるにもかかわらず、急峻でないので、なだらかな低い山と錯覚してしまいます。ヒロ空港から直行したので、標高差による高山病の恐れあり、ということでハレポハク中間施設においてランチを取りながら、1 時間ほど体を慣らしました。休憩後、マウナケア氷河期自然保護区沿いのアクセス・ロードを通って四輪駆動車で山頂へ。

道の左手に東アジア天文台やスミソニアン天体物理観測所などを見ながら、山頂の「すばる望遠鏡」へ到着しました。あいにく雨が降っていて、気温は零度近くあり、雪も所々に残っていました。ハワイ島は、常夏のビーチで海水浴、山頂ではスキーのできる大きな島です。

すばる望遠鏡の事務室で血中の酸素濃度を測ると、70%台に下がっていたので、急性の高山病への予防のため、早速、酸素ボンベを用意してもらい、水分補給もこまめにとりながら、1 時間程度の施設見学を行いました。

すばる望遠鏡(大型光学赤外線望遠鏡)の売りは、直径 8.2m のレンズを備えた世界有数の天体望遠鏡であるという点です。肝心なレンズ(主鏡)はアメリカ製ですが、それ以外の鏡筒やドーム回転機構、周辺の光学機は日本製であると伺いました。これで、銀河の外の天体を観測しているということでした。

すばる望遠鏡には、最先端の高度な技術が使われ、すべてコンピュータ制御によって稼働していますが、ドームの中で見る重厚長大型の装置は、高度な最新技術の集積体そのものでした。このような大規模技術開発を通して得られた様々な理論やテクノロジーが実用化されて、私たちの生活の中に数々の「便利なもの」として出現しているのだと得心した次第です。

すばる望遠鏡の施設見学を終えて、下山することになりました。帰りも同じく四輪駆動車でアクセス・ロードを通ってオニヅカ・センターまで行き、休憩を取りました。その時です、空気の美味しさを実感したのは。深呼吸したとき、大げさに言えば、美味しい空気が五臓六腑に滲みていくのがわかりました。

私たちは慣れて当たり前のようになってしまったことを、「空気のような存在」と表現します。なくなって初めてその存在の重要性を知るということの喩えとして使われるフレーズです。慣れが既得権となって「空気のような存在」となります。そうなると、それを変えようとすることには不安を覚えて、大きな抵抗が生まれます。

大学で働く私たちにとって、まさに大学そのものが「空気のような存在」となってはいないでしょうか。普段は当たり前でほとんど意識してこなかった大学が、改革で大きく変わろうとしているとき、いかに大学が大事な存在であるかに気づかされます。それゆえ、その改革には反対も出ます。

慣れゆえに存在自体がすっかり希薄になっても、愛情を持って変化を促すことで、大学はきっと鮮やかに生まれ変わり、新たな輝きを放つ存在となることでしょう。美味しい空気を胸一杯に吸うためには、怖れずに脱皮することが必要なのです。