研究成果

富士通研究所との共同プロジェクト:生物多様性情報を基盤とした生物種同定アプリケーション開発

平成30年9月13日
琉 球 大 学

富士通研究所との共同プロジェクト:
生物多様性情報を基盤とした生物種同定アプリケーション開発

  琉球大学・久保田康裕教授の研究グループは、株式会社富士通研究所(以下、富士通研究所)と共同して、生物多様性ビッグデータを基盤とした生物種同定アプリケーションの開発を進めてきました。この度、琉球大学と富士通株式会社は本アプリケーションに関係する技術について知財ライセンス契約を締結し、さらなる開発を推進していくことになりました。
“生物多様性の起源と維持”のメカニズムを理解することは、ダーウインが「種の起源」を発表して以来の、生命科学における究極的なテーマです。さらに近年、人間活動による生物の絶滅が急速に進行し、“生物多様性保全”の重要性が認識されるようになりました。このような観点から、生物多様性条約やそれに基づいた具体的な戦略計画である愛知目標「生物多様性の損失速度を 2010 年までに顕著に減少させる」が設定されています。
生物多様性を保全するためには「どの種が、どこに、どれくらい分布しているのか」という基本的な情報が不可欠です。琉球大学・久保田研究室では、日本産の維管束植物や脊椎動物やサンゴなど約 6000 種におよぶ種の空間分布情報をデータベース化し、各種の日本全土における分布確率を可視化するプラットフォームを富士通研究所と共同で構築しました。このような生物多様性の情報基盤を活用した生物種の検索同定アプリケーションは、生物多様性研究の基盤インフラとして、あるいは地域の生物多様性を保全するための環境アセスメントや環境教育のツールとして活用されることが期待されます(別紙内容も参照)。
つきましては,下記の要領で取材してくださるよう、お願います。

背景
ビッグデータを基盤とした日本の生物多様性可視化プラットフォーム
 日本には長年にわたる自然史研究の蓄積があります。琉球大学・久保田研究室では、日本の自然史情報(様々な生物種の観察情報や標本情報)を網羅的に収集してデータベース化し、各種の分布を統計的機械学習法で予測しました。各種の空間分布を予測した結果を地図として可視化し、維管束植物や脊椎動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類)やサンゴなど6000種以上の生物種がそれぞれ、どこに、どれくらい分布するのかを明らかにしました。これにより、任意の場所(緯度経度)を指定すれば、そこにどの種が分布するのかを瞬時に把握できるようになりました。

 

このようなデータプラットフォームは、環境アセスメントや環境教育の強力なツールとして機能します。また、日本の生物多様性の空間情報が高解像度(1kmスケール)で把握できるようになり、生物多様性の保全政策の実効性を強化することも可能になります。例えば、愛知目標では、生物多様性保全を促進するため、陸域の保護区を陸面の17%まで増加させることを目標にしています。今後、日本でも新たな国立公園や世界自然遺産地域を設置することになるでしょう。より保全効果の高い保護区を設置するためには、保全優先地域を科学的データに基づいて特定する必要があります。琉球大学・久保田研究室で開発した生物多様性情報プラットフォームは、空間的保全優先地域をスコアリングすることを可能にし、実効性のある保全計画を立案するための基盤インフラになります。

生物多様性の情報基盤を活用した生物種の検索同定アプリケーション
どこにどのような生物種が分布しているのかを観測し採集することは、生物多様性を理解する基本的な作業です。一般の人たち、子供たちも、身近に分布している生物に興味を抱いて、その種を検索したり同定することは、程度の差はあれ、必ずと言っていいほど経験があるはずです。昔も今も、夏休みの自由研究では植物採集や昆虫採集は一般的で、野鳥観察で種名を同定し、釣りあげた魚を同定する人も多いことでしょう。従来、このような生物の種を検索して種名を同定する場合、様々な図鑑を用いることが一般的でした。しかし、多くの図鑑は特定の地域や、特定の生物分類群に偏っており、網羅性や完全性が必ずしも十分でありませんでした。例えば、「ある種を検索しても、所持している図鑑にその種が掲載されていないので、結局、種が同定できない」とか「自分が住んでいる地域の図鑑が出版されていない」といった問題です。琉球大学・久保田研究室で開発した生物多様性データは、日本産の維管束植物と脊椎動物を全て網羅しているので、従来の図鑑を用いた生物種の検索や同定作業を一新します。富士通研究所と共同で開発した生物多様性の情報基盤を活用した生物種の検索同定アプリケーションでは、まず、1)検索する人が今いる地点で、潜在的に分布している生物種のリストが瞬時に生成され、その上で2)観察している生物種の特徴をキーにして同定したい種を絞り込んでいきます。一連の検索から同定までのプロセスは、スマートフォンやパソコンなどを通じで行うことができます。これにより、日本のどの地域でも、あらゆる植物や脊椎動物の種同定が可能になります。

さらに、検索者が同定した生物種の情報は、“新たなデータ”として登録することも可能です。これにより、生物種同定ツールが、生物多様性情報を増強するプラットフォームとしても機能します。近年、市民科学(シチズンサイエンス)といって市民参加による自然史情報の集積で、生物多様性保全を促進するアプローチが注目されています。本ツールは、シチズンサイエンスによって、生物種を検索同定した分布情報を集積して、それらを生物多様性ビッグデータとして発展させる基盤ツールになることも期待されます。

 

ライセンス対象となる知財について
琉球大学が富士通株式会社からライセンスを受ける知財は、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する「WIPO GREEN」に登録された特許技術です。WIPO GREENは、インターネット上に展開する仮想的な「技術の見本市」で、環境技術やサービスの提供者と、解決策を求める需要者とを効率的に結びつけることによって環境関連技術のイノベーションと普及を促進させるためのプラットフォームです。2013年の運用開始以降、170の国や地域から3000件を越える環境技術やニーズが登録されており、環境技術のオープンイノベーションに寄与しています。
琉球大学と富士通株式会社は、自然資本・生物多様性保全の観点から、今回の知財ライセンスを通じて国連が掲げる「持続的な開発目標(SDGs)」のうち目標15(陸の豊かさも守ろう)の達成への貢献を目指しています。